「YSSのリアサスペンションが気になるけど、耐久性や品質が心配・・・」
という方向けに、過酷な耐久・耐候テストの結果と、YSSのよくある誤解について解説します。
おそらく日本で一番、YSSというメーカーについて、くわしく知ることができる記事になっていると思います。
※製品仕様など公式サイトや、ほかのサイトに記載されている内容は割愛しています。
「YSSのリアサスをしばき倒して、通常より厳しい環境で使用した場合どうなるのか?」
4年間、18,770km走行して検証をおこないました。
かんたんに自己紹介させていただくと、筆者は2017年、有限会社ガレージ湘南と共同でCB125T用 YSSリアサスペンションの開発に携わり、テストライダーを務めました。
(撮影・サイト製作・販売プロモーションも全て、ワンオペで手がけています)
私自身、この時に初めてYSS社のリアサスペンションを使う事になりましたので、耐久性が気になっていました。
ですので販売を開始した後も、継続的に耐久テストをおこなっていました。
その後、VT250SPADA用、CBR250RR MC22用のリアサスもリリースすることになり、3車種だけで100名以上のお客さまにリアサスペンションを提供してきました。
(そのほかD-トラッカー、GPZ750F、GSX400FW、ジャイロなど)
購入者の方々からのフィードバックを蓄積し、私自身の4年におよぶテストが終了したため、ようやく検証結果をお伝えできるようになりました。
同時にYSSというメーカーについても、けっこう間違った情報がネット上に出回っているため、できるだけ的確にお伝えしていきます。
YSSはどんなメーカーなのか?
ご存じない方のために説明します。
創業1983年、タイ王国に本社をおく2輪・4輪の世界的サスペンションメーカーです。
商品ラインナップは2,600車種以上、7,500以上のアイテム(2021年時点)、世界で40以上の販売拠点をもち、R&D(研究開発センター)は、日本、スイス、スペイン、オランダ、イタリアにあります。
「中国」や「台湾」と間違えられやすいのですが、タイ王国🇹🇭です。
※有名バイクメディアの記事でも、まちがって記載されているのを見かけます

ちなみに社名「YSS」の由来は、「Your Supreme Suspension」(あなたにとって最高のサスペンション)の頭文字から命名したそうです。
supremeとは
https://ejje.weblio.jp/content/supreme
(地位・権力など)最高位の、最高権威の、(程度・品質など)最高の、最上の、最優秀の、絶大の、極度の、この上ない、非常な、最後の
YSS日本代理店は?
おそらく、バイク業界の方を含めて、ほとんどの方が知らないと思います。
オーリンズやWP、クァンタム、ナイトロンなど、他メーカーと比較して、すこし特殊だからです。
まず、「YSS日本法人」は存在しません。
代わりにYSSの「正規ディストリビューター(サービスセンター)」が、実質的に日本の総販売代理店という位置づけになっていて、ディストリビューターから、バイク用品店やネットショップ等に製品が納入されています。
と、ここまでは他メーカーと仕組みは同じ。
特殊なのは
1,日本に2つの総販売代理店が存在する
2,それぞれ扱っている製品が異なる
という2点です。
株式会社逓省社中
「テイショウシャチュウ」と読みます。兵庫県神戸市内に会社があります。
50ccから250cc以下のバイク、非分解式(オーバーホール不可)のサスペンションを扱っています。小売りはおこなっておらず、バイクショップやオンラインショップ、バイク用品店への業販をされています。
一般のライダーが、逓省社中が扱っているリアサスペンションを購入する場合、こうしたショップ(販売店)から購入することになります。
余談ですが、私たちが手がけているCB125T・VT250SPADA・CBR250RR(MC22)用のリアサスは、有限会社ガレージ湘南が販売窓口になっていて、オンラインショップ限定で販売しています。(YSS代理店や、ほかのショップからは購入できません)
株式会社ピーエムシー
「日本 YSS」で検索すると、トップに出てくるのがPMCです。そのため「日本のYSS=PMC」と思っている方がほとんどだと思います。
PMCは250cc超のバイクや、分解式(オーバーホール可)のサスペンションを扱っています。またYSS JAPANとして、自社での販売や、カスタマーサポートをおこなっています。
250cc以下でも、分解式サスペンションはPMCの取扱いになります。

そして、これまた特殊なのですが、PMCの中に、YSS本社に籍を置く日本人エンジニアが常駐されています。新たに製品を設計する場合など、YSS本社とのやりとりは、エンジニアの方がされているとか。
また全日本選手権など、日本国内レース活動のサポートも同エンジニアの方が担当されているそうです。
このように扱っている製品によって窓口が異なるわけですが、もしなにかあった場合、基本的に購入したショップ(販売店)に相談すればいいので安心してください。
PMC社は過去、Works Performance(ワークスパフォーマンス 米国)製のリアサスペンションを日本で販売していた時期があります。
YSSエンジニア
YSS(本社)のサイトに公式情報として、プロフィールが掲載されていたので、紹介しておきます。

レーシングスペシャリスト 小澤 仁樹さん
※以下、筆者による要約(意訳)
オーリンズの日本総代理店ラボ・カロッツェリア、SHOWA勤務を経て、YSSに入社。その間、数々のワークスチームや、ワークスライダーたちとともにキャリアを構築。
サポートしたライダー
MotoGP(ロードレース世界選手権)
マックス・ビアッジ選手(レプソルホンダ)
ニッキー・ヘイデン選手(レプソルホンダ)2006年 MotoGPクラス 世界チャンピオン
中野 真矢選手
カルロス・チェカ選手
世界最高峰のカテゴリで、しかもワークスチーム。マシンもライダーも、周囲のスタッフやメカニックも、一流どころです。
その上、チャンピオンマシンに携わっていたわけですから、本当にすごいと思います。
にも関わらず、とても物腰が柔らかな方で、筆者の直球な質問にも、一つ一つていねいに答えてくださいました。(その話はのちほど)
MotoGP(モトジーピー)とは?
オートバイロードレースの世界最高峰レース。4輪でいう「F1」(フォーミュラー1)に相当する。2001年までは「世界GP」「WGP」と呼ばれていた。レース専用に開発されたバイクを使用して、世界各国のサーキットでレースがおこなわれる。ポイントランキング制になっていて、シーズンを通して、チャンピオンが決まる。
YSSサスペンションの生産国は?
「品質は大丈夫なのか?」気になりますよね。
タイ王国で生産されているモデルもありますが、じつは日本国内で開発・生産されているモデルもあります。
(詳しくはのちほど)
製品についていうと、Henricus Essens氏が開発責任者(R&Dディレクター)を務めています。Essens氏はオランダ人で、WPの元エンジニア。
1980年から35年以上にわたって、サスペンションを設計しているプロ中のプロです。
(WPのとあるサスペンション機構は、Essens氏が考案したそうです)
WP(ダブリューピー)とは
旧称ホワイトパワー。オランダで創業した老舗のサスペンションメーカー。本拠地移転に反対したエンジニアたちが退社。その後、WPはKTMのグループ企業となり現在に至る。日本市場では、オーリンズと並んでオン・オフロードともに、古くから知られるメーカーでもある。
2005年、Henricus Essens氏ら北欧人エンジニアたちの加入により、YSSの技術水準が飛躍的に向上したと聞いています。

写真左がYSSのCEO(最高経営責任者) Pinyo Panichgasem氏、写真右が、Henricus Essens氏。
数年前、Panichgasem氏とEssens氏が来日した時、ガレージ湘南に訪問されました。その時に私も同席させて頂きました。(Panichgasem氏、Essens氏、逓省社中 坂野社長、ガレージ湘南 日向社長、わたし)
YSSは4輪のサスペンション開発・生産もおこなっています。
YSS R&Dチームは、フォルクスワーゲン、世界的に有名なレーシングパリダカール、フォードシエラカップロードレーシングで多くのワールドクラスのレーシングチームと協力してきた経験があり、20年以上にわたってカーショックアブソーバーの開発を続けてきました。
私たちは、より良いパフォーマンスとより高い満足度を生み出すために、新しいテクノロジーの探求を止めることはありません。すべての製品は、YSS基準を満たすように注意深く設計およびテストされています。
https://www.yss.co.th/
開発・生産
筆者も全ての製品について知っているわけではないのですが、私たちで販売している「CB125T JC06」「VT250SPADA」「CBR250RR MC22」のほか、日本で開発されているモデルは少なくありません。
冒頭でお伝えしたように、日本にも研究開発センター(R&D)があるわけですからね。
(リアサスペンション、フロントフォーク共通)
日本で開発・設計されたZX-25R用リアサスペンション・フロントフォークカートリッジキット
リアサスペンションに関しては、非分解式モデルは、タイ本国で組み立て・検品をおこない、船便で日本に輸送されます。分解式モデルは、タイから部品を輸送し、日本(PMC)で組み立てていると聞いています。
またYSSは、国際品質マネジメント規格QS9000/ISO9002を取得していて、品質管理にも力を入れています。
※自動車産業向けの世界標準品質マネジメント。第三者機関による認証
採用される構成部品の一つ一つに厳選された原材料を用い、高精度切削機器を駆使して全て自社工場で生産。完成品はCP制御の検査機器による徹底した品質管理を行っています。
https://garage-shonan.wixsite.com/yssmc22
さらにオーリンズやナイトロンなど、ほかのサスペンションメーカーと同様に2年間(一部製品を除く)のメーカー保証もついています。
冒頭でお伝えしたように、私たちは100本ほどYSSリアサスを販売していますが、破損したという報告は0件です。
保証を受ける場合
もし保証を受ける際は、まず購入したショップに相談してみるといいです。
保証について
YSSサスペンション 取扱説明書 P.7
YSSサスペンションは万全な品質管理の下で製品供給を行い、全てのサスペンション本体に対して、2年間のメーカー保証を付加しております。万が一、製品に品質管理上の不良が発生した場合、交換または修理によって迅速な対応を行います。
ちなみに保証の適用は、購入者本人のみに限られます。中古品や、譲渡、転売(正規販売店以外の個人売買など)によって入手した製品の場合、保証が適用されないことがあります。
あくまで初期不良に対しての品質保証であって、改造したり、間違った使い方で壊した場合など、なんでも無条件で保証が受けられるわけではないんですね。(他メーカーも同様です)
YSSタイ本社 リアサス製造の様子



動画 YSS Thailand リアサス生産の様子(公式フェイスブック)
筆者はこのように情報公開しているサスペンションメーカーを、ほかで見た事がありません。
非分解式と分解式のちがいは?
分解式がオーバーホール可能なモデル、非分解式はオーバーホール不可のモデルとなっています。一般にサスペンションは、調整機能が増える(きめ細やかに調整できる)ほど、生産コストがかかります。
当然、販売価格に反映されます。
レースユーザーなど、必要とする人にとって欠かせない調整機能も、それほど必要としない人にとっては、価格がネックになります。
そこでコストパフォーマンスに優れた非分解式モデルがラインナップされているわけです。
YSSの分解式モデルは、オーバーホール可能であるほか、スプリングレート(ばねの硬さ)を変更するなど、仕様変更することが可能です。(くわしくはYSS JAPANにお問い合わせください)
なお、リアサスペンションについてはストリート・レースそれぞれラインナップがあります。
レースでの評判は?
レースに関心がない方も、知っていて損はないと思います。
というのも、品質に問題のある製品なら、そもそもレースで使用されないからです。
海外レースの実績
YSSがサポートしている世界各国の国内選手権を含めると、かなりの数になるため、ごく一部を紹介します。
FIM主催 スーパーバイク世界選手権(WSBまたはWSBK)「スーパースポーツ300」で、2年連続シリーズタイトルを獲得しています。
※いずれもマシンはNinja400、チームはKawasaki MTM Motoport

JEFFREY BUIS
オランダ出身
生年月日 2001/12/27

ADRIAN HUERTAS
スペイン出身
生年月日 2003/8/21
スーパースポーツ300とは?
通称WorldSSP300またはWSS300。4ストの単気筒または2気筒、300〜400cc、2ヒート制でおこなわれるレース。ポイントランキング制となっており、シーズンを通じてチャンピオンが決定する。
スーパーバイク世界選手権(WSBK)と併催され、ヨーロッパラウンドのみで開催される。2021年のエントリーは全42台。2021年現在の参加車両は、Ninja400とYZF-R3がほとんどを占める。
ウエルタス選手のチームメイトであり、唯一の日本人ライダーである岡谷 雄太選手が、シリーズランキング5位と健闘している。
※WSBKは市販車(公道用バイク)ベースでおこなわれるレース。MotoGPを走る競技用「レーサー」は、WSBKおよびWSS300に参加できない。

ESBK スペイン スーパーバイク選手権
スペインでおこなわれるスーパーバイク選手権を「ESBK」というようです。
いくつものクラスがあり、YSSは複数のクラスで選手たちをサポート。タイトルを獲得しています。

アルヴァロ・ディアス(ALVARO DIAZ)選手
全7戦(14レース)/優勝回数6回

アレックス・ロンガレラ(ALEX LONGARELA)選手
全7戦(14レース)/優勝回数6回

チームメイトのペドロ・アロマー選手(同クラス シリーズランキング3位)との2ショット。
ロンガレラ選手のインスタグラム(公式?)によると、2019年には110ccでチャンピオンになっているようです。

アルヴァロ・フエルテス(Álvaro FUERTES)選手
全7戦(14レース)/優勝回数3回

マルコ・ガルシア(MARCO GARCIA)選手
全7戦(14レース)/優勝回数6回
ガルシア選手はノーポイントレースが1回。その後、6連勝して追撃しましたが、6ポイント差でフエルテス選手に届かず。惜しくもタイトルを逃しました。
参考
https://www.worldsbk.com/en
https://rfme.com/
※WSBK 300/ESBKのレース内容や、選手については情報が少ないため、筆者が翻訳しながら独自に調査しました。紹介もれや、不備がありましたらご容赦ください。
Since there is not much information on WSBK 300/ESBK races and athletes, the author has conducted his own research while translating. Please forgive any omissions or incompleteness.

PreMoto3、PreMoto4で使用されているフロントフォーク


日本国内レース
日本では、全日本ロードレース選手権や、テイスト・オブ・ツクバ、鈴鹿8時間耐久ロードレースなどで使用するライダーがいるほか、全日本「JP250クラス」(公道用バイクをベース車両とするカテゴリ)では4年連続タイトル(2018〜2021年)を獲得しています。
■全日本ロードレース選手権
JP250 4年連続タイトル獲得
https://garage-shonan.wixsite.com/yssmc22
篠崎 佐助選手(2021年)/CBR250RR
笠井 悠太選手(2018・2019年・2020年)/CBR250RR
■テイスト・オブ・ツクバ 2021年
MONSTER Gr B 優勝
スピードショップイトウ 伊藤 晶雄選手/Z1000J
D.O.B.A.R.-1 優勝
yssRC&アゲイン&BigⅢ 伊藤 大三選手/CB500F
MONSTER Evo. 優勝
YSSレーシング&AGAIN 田中 信次選手/Z1000J
そのほか鈴鹿8時間耐久ロードレース、もてぎ耐久レース、サンデーレースなど、プロ・アマを問わず多くのレースシーンで支持されています。
YSS JAPANは、全日本選手権 JP250のほか、ST600など、ほかのクラスもサポートしているため、レーシングスペシャリスト小澤氏みずから、全国各地のサーキットに足を運んでいるそうです。
(小澤さんにサポートしてもらえるライダーはラッキーですね)
2022年 YSS搭載ライダー/チーム
https://www.instagram.com/p/CbynLilp0NH/?utm_source=ig_web_copy_link
ST1000
38 安達勝紀選手 K’s WORKS RACING YZF-R1
ST600
30 平野ルナ選手 TransMapRacing with ACE CAFÉ YZF-R6
JP250
8 NAT 野村唯人選手 SHIN RIDING SERVICE CBR250RR
17 INT 桐石世奈選手 Challenge Fox Racing CBR250RR
22 INT 土岩直人選手 SHIN RIDING SERVICE CBR250RR
24 NAT 豊原由拡選手 TEAM TEC2 & 24Service & YSS CBR250RR
31 NAT 神山保男選手 G3 RacingProject CBR250RR
44 NAT 吉田正徳選手 OVERLAP PLUSONE Ninja ZX-25R
51 INT 福田たかお選手 TEAM TEC2 & Vesrah & YSS CBR250RR
83 NAT 森拓也選手ONGARE YSS SNIPER&LIQUI MOLY Ninja ZX-25R
99 NAT 橋本範行選手 TEAM TEC2 & HANTECH & YSS CBR250RR


乗り心地はどうなのか?
「硬すぎて乗りにくいんじゃないか?」心配されている方もいると思いますが、ストリート向けモデルについては心配無用だと思います。
これについては、サスペンションの製作工程を理解すると、わかりやすいです。
まず、(YSSにかぎらず)社外サスペンションは、メーカー出荷状態のバイクに合わせて設計されます。
いわゆるノーマル車両です。
前後サスペンション、タイヤサイズ、ホイル、スイングアームなど、車体のディメンション(寸法)が変わっていない車両をベースにします。
(改造車に合わせてつくると、特殊な製品になってしまうからです)
次に純正サスペンションのバネレートを計測します。

バネレートとは、スプリングの硬さをあらわす単位です。(スプリングレートとも言います。意味は同じです)
社外サスペンションの場合、上記のようにスプリングに数字が記載されているかと思います。
スプリング内径:46mm
バネレート:130N/mm
スプリング自由長:150mm
純正のリアサスにもレートが設定されていますが、最初からオーリンズや、WPなどのサスペンションが装着されている車種以外だと、(ショーワやKYBの場合)なにも記載されていない事が多いと思います。
計測データをもとに、製作するサスペンションを設計します。
この時、バネレート(バネの硬さ)を決めるわけです。
バネレートの決定方法は企業秘密ですが(私も知らないです)、決して、あてずっぽうや、フィーリング、くじ引きで数値を決めているわけではないので、安心していいと思います。
(一般的にはバイクの仕様・特性はもちろん、使用するシチュエーションなどを考慮して決定されます)
硬い・やわらかいの基準
ここからは、感覚的な話。
サスペンションの「硬い」「やわらかい」についての、フィーリングの話をします。
本題に入る前に、いくつか質問しますので、頭の中でイメージしてみてください。
サスペンションのやわらかい・硬いって、どうやって判断していますか?
どういう基準で判断しているのか? ご自身の基準を考えてみてください。
・・・
よろしいでしょうか。次です。
サスペンションの役割って何だと思いますか?
・・・
答えられましたでしょうか。
念のために言っておくと、答えられたからエラい!とか、答えられなかったからダメとか、正解・不正解は関係ないです。
「自分自身の基準を認識する」
これが大事だからです。
自分がなにを、どう認識しているか、なにが理解できていて、なにが理解できていないのか?
それを知ることが、成長につながるし、より深い学びや、気づきにつながります。
それでは、具体的に解説していきます。
硬いサスVSやわらかいサス
一般公道の走行において、ほとんどの日本人ライダーは「よくストロークするサスペンションが、良いサスペンション」という認識を持っているそうです。
頭でロジカルに考えているわけじゃなく、感覚的にそのように感じるんですね。
プロから見て「やわらかすぎじゃね?」という場合でも、気づかないというか、気にならないようです。
もちろん乗っている車種にもよると思いますが、硬いサスペンションよりも、やわらかいサスペンションを好む傾向があるという話です。
社外サス交換で感じる「硬さ」
純正のリアサスから社外品に交換した場合、まれに「硬い」というライダーがいます。
ご本人が感じていることなので実際、硬いのでしょう。
この「硬い」を物理的に考えると、「いままで装着していた純正サスがやわらかすぎた」という見方もできます。
とくに劣化している純正サスペンションと比較した場合、交換した社外サスペンションを硬く感じるのは、ごく自然なことです。バネレートの違いもありますが、古いバイクの場合、ダンパーが抜けきっていることがあるからです。

車高調整機能なし。イニシャル調整機構のみのモデル「ME302」
リアサスペンションの劣化とは?
フロントフォーク同様、使い続けているとダンパーオイルが劣化し、水っぽくなってくる。すると、サスペンションが沈んだり、沈んだ状態から伸びる速度が速くなる。

(ズドン!と急激に沈んで、ボンッ!と急激に伸びるイメージ)
オイル粘度が低下して、踏ん張りが利かないぶん、伸び縮みする量(ストローク量)も増える。
こうなると、ギャップを通過した際の上下の動き(スプリングが伸び縮みして、ずっとボヨヨーンと跳ね続けようとする動作)を、ダンパーの効きが弱くなったことでおさえられなくなる。
つまりボヨヨーンの状態が長く続くようになってくる。
これが「ダンパーが抜ける」とか「サスがへたる」という状態。
変わるのは車高ではなくシート高
劣化したリアサスペンションのシートにまたがると、「車高が低い」と感じがちです。
正常な時と比較して、ダンパーが沈んだ状態(シート高が低い状態)になっている事がよくあるからです。この時、リアサスペンションを新品に交換すると、シート高が正常な位置にくるため、「車高が高くなった」と感じる事があります。
ところが実際に変わるのは車高ではなく、シート高です。

リアサスペンションは上下、ボルトで固定されています。赤い矢印の箇所で車高が決まります。写真のモデルは、車高調整機能がついていないため、車高は変化しません。
ちなみにイニシャル調整(あるいはダンパー劣化)でシート高は変化しますが、車高そのものは変わらないです。

YSSの車高調整機能付きモデル「MZシリーズ」
車高調整機能を調整すれば+−10mm高くしたり、低くすることができます。(調整機能がない車種もあります)
厚底ブーツをイメージすると、仕組みがわかりやすいかと思います。
感覚だけではわからない事もある
・ダンパーが抜ける(劣化する)→シート高が低くなる
・イニシャル調整→シートの高さが変化する
・車高→「車高調整機能」を操作しないと変化しない
わたしたちが感覚的に感じているフィーリングと、物理的な動作、変化はかならずしも一致しないという事が、お分かりいただけたかと思います。
ダンパーの抜けたリアサスを装着したバイクに乗り慣れた状態から、社外サスペンションに交換した場合、物理的な変化だけではなく、感覚的にもおおきな変化があります。
わかりやすいのがシートの高さや、硬さですね。
とくに中古車の場合、買った時の状態が自分の基準になりますから、なおさらです。
自分の基準、自分の物差しがどうやって構築されるかは、下記の記事で解説しています。

私自身もそうでしたが、リアサス交換直後に硬く感じるのは当然で、しばらく走行すれば慣れてきます。
そういった意味でいうと、本来の状態(メンテナンスされた正常なサスで、サスセッティングも適切)で自分のバイクに乗った経験がないと、「やわらかい」「かたい」の二者択一というか、本当に感覚だけの話になってしまいます。
感覚や思い込みだけで判断すると、本人は気づいていない(自分では良いと思いたい心理が働く)けど、プロが客観的に見た場合、サスペンションが硬すぎて高速道路を走ったときに危険な状態になったり、逆にやわらかすぎるということになりがちです。
(実際、そういった事例がよくあります)
「本来どういう状態がベストなのか?」
キャブレターのセッティングと同様、経験して、自分のなかで基準となる感覚を身につけること。
「きちんとサスペンションが動作している状態だと、こういう風にバイクは動くのか」そういう感覚を持った上で、そこではじめて「硬い・やわらかい」が、的確に判断できるようになると思うんですね。
筆者はメーカーを問わず、サスペンションメーカー各社のレビューに目を通していますが、ほとんどの場合、感覚的な意味での「硬さ」の話に終始しているという印象です。
サスペンションの目的と役割
サスペンションの目的は、路面とタイヤをグリップさせること。
適度にストローク(伸び縮み)して、路面追従性をサポートするのがサスペンションの役割です。
さきほどお伝えしてきたように、劣化したリアサスペンションは、路面のギャップでトランポリンみたいに跳ね続けてしまうため、路面追従性が非常に悪いわけです。

抜けたサスペンションは、わかりやすくいうと、暴れ馬に乗っている感じ。カブやスクーターなど、ガソリンタンクでバイクをホールドできない車種だと、シートから落っこちそうになる事もあります。
ストレートを走っている場合でも、腰を痛めます。
硬さと、やわらかさの判断基準
フィーリング以外で、なにを基準に判断するかというと、前後サスペンションのストローク量で判断します。
正確には、走行時(いつも走っている場所を、いつもどおりに走った時)のストローク量です。
・ストローク量(物理)
・実際に走った時の感覚(乗り心地も含めたフィーリング)
かんたんにいうと、これらを踏まえて判断したり、調整するわけです。
ちなみに、社外サスペンションの良し悪しは「ライダーに合ってるかどうか」でほぼ決まります。どんなに高額のサスペンションを取り付けても、セッティングが合っていなければ無意味です。
(人に自慢する時は役に立つかもしれませんが)
YSSに関しては、ストリート向けモデルのリアサスを、専用車種に取り付ける場合、基本は出荷状態のままで問題ないと思います。(標準想定体重を大きく超えたり、サーキット走行でメイン使用するなどの場合は別)
YSSサスペンションのレビュー
私たちが販売しているモデルに関しては、購入者の方々が送ってくださったレビューを販売サイトに掲載しています。
ストリート向けモデルのため、一般公道を走る方がほとんどですが
・サーキット走行する方
・タンデム走行する方
若いライダーからベテランライダー、新車で購入して、何十年と乗り続けている方など、全国各地、さまざまな層のライダーから装着前・装着後の貴重なレポートをお寄せいただきました。
(この場を借りて、感謝申し上げます)
送っていただいたレビューは、本文を変えることなくそのまま掲載しているので、もし気になるモデルがあれば、ぜひ読んでご自分の目で確かめてください。


耐久性は?
ここからが本題。テストをおこなったのはモデルME302、非分解式のリアサスペンション。
イニシャル(プリロード)調整機能のみのシンプルなエントリーモデル。

テスト内容
仕様の異なるリアサスを2本テスト。
1本目:3,576km
2本目:15,194km
テストをおこなったバイク

HONDA CB125T改 2001年式(142cc化して軽二輪登録済み)
エンジン:空冷4サイクルOHC2バルブ2気筒
排気量:124cc
最高出力:15PS/11,000rpm
最大トルク:1.0kg-m/8,000rpm
内径×行程(mm):44.0×41.0
圧縮比:9.4
車両重量:139kg
始動方式:セルフ
変速機:5速リターン
販売価格:369,000円
型式:CB125T 1
車体番号:JC06-1600001~
https://inuiyasutaka.net/bikeblog/series-spec/
テスト条件
市街地、バイパス、高速道路、峠道、未舗装路など公道で考えられるすべてのシチュエーションを、オールシーズン走行。
最低走行時間を2時間以上とし、とくに熱的にサスペンションに厳しい夏場はあえて長時間の連続走行をおこなった。ダンパーオイルの油温をめいっぱい上昇させ、過酷な状況をつくることで通常よりもハードな負荷を与えるためだ。
多いときは、これを朝から夕方まで一週間、毎日おこなった。
加えて、10kg以上の重りを積んで走行したり、通常走行なら避ける路面のギャップを、あえて通過するようにしていた。(わざわざギャップのある箇所をめがけて走っていた)
サイトでくわしく話しているが、人間にとってもこの上なく過酷なテストだった。
くわしくは後述するが、リアサスペンションを長持ちさせようと思ったら、筆者がおこなったテストと逆のことをやればいい。長時間連続の運転は避けて、適度な休憩をはさむこと。
とくにモノサス(リアサスペンションが1本のタイプ)は、エンジンの後部にレイアウトされることが多く、エンジン熱による影響を受けやすい。走行風が当たりにくいからだ。
ツインサスと比較した場合、モノサスは熱的な環境は厳しいといえる。
具体的にダンパーオイルの油温がどれぐらいまで上昇するとか、何度の状態でどのくらいの距離を走れば、何パーセントオイルが劣化するのか、そこまではわからない。
それでも、とくに夏場などは早めの休憩を心がけたり、雨天時の走行でドロドロになったら汚れを落としたり、ライダー側にできることはある。
いざ分解
テストで使用した2本目(15,194km)のリアサスを、同製品の販売元であり、国際A級ライダーの有限会社ガレージ湘南 日向社長に分解していただいた。
(本来、非分解式のものを強引に分解しているため、金属片がついていたり部品が一部、壊れているがご容赦願いたい)
サスペンションにはガスが封入されているため、一般の方が自分で分解すると重大な事故につながる恐れがあります。分解しないようにお願いします。

メッキが施されたダンパー(減衰装置)ロッドはきれいなまま。オイル滲みもなかった。あとでくわしくお伝えするが、劣悪な環境で保管(放置)していたにもかかわらず、少しもメッキにサビが発生していないのは優秀だと思う。

写真左の穴は窒素ガスを注入するところ。写真右は内側から撮影したものだ。

内部の壁面も大きな損傷は見られなかった。

写真はダンパーの中の部品を上からと横から撮影したもの。エンジンのシリンダー(筒)内をピストンが上下に往復するのと同じように、ダンパー内部でもピストンが動く。
ただ、エンジンとちがってダンパーのピストンには「オリフィス」と呼ばれる空洞がある(写真左)。空洞のなかをダンパーオイルがとおることで、ゆっくりと動くようになっている。

左が1本目に分解したサスペンションで、今回分解したのは右側。
YSSにかぎらず、主要サスペンションメーカーの場合、ストリート走行では各メーカーとも10,000kmから20,000kmごと(または2年に1回)のオーバーホールを推奨している。
そういった意味で15,194kmは、まだ少し余裕があるわけだが、通常よりも過酷な状況で使用したことを考慮すると、けっこう攻めていると思う。ダンパーオイルの状態は妥当なところだった。
実際に走っている限りでは、体感レベルでリアサスのへたりを感じる事はなかった。
CB125Tに新品の純正リアサスを装着して走ったことがあるが、15,000km走ったぐらいから顕著に柔らかく感じるようになった。20,000kmに達する頃には、交換前(同じく純正)と同じで抜けた状態だった。
純正のリアサスはもともとの設計が柔らかすぎるのかもしれないが、体重50kg未満の筆者が乗ってこの有様なので、YSSのCB125T用リアサスは純正と比較して、スプリング・ダンパーともに固めに設計してある。
と言っても、あくまでストリート向けなので「本来このぐらいの固さは必要だろう」という程度だ。
耐候テスト
これは意図せず、結果的に「耐候テスト」になってしまったわけだが、1年6ヶ月もの間、バイクを放置した。
しかも、海まで徒歩10分のところに放置していたため、潮風や雨にさらされるというリアサスにとって劣悪な環境だ。(まったく磨いてさえいない)

フロントフォークや各部のサビをご覧いただくと、どれほど厳しい環境かお分かりいただけると思う。

YSSのスプリングにはパウダーコート(粉体塗装)が施されているが、さすがにところどころ錆が発生していた。
パウダーコートとは?
静電気の力を使って顔料を吹き付ける塗装のこと。バイクのフレームやホイル、身近なところでは自転車や洗濯機、ガードレールや信号機など、建築や工業用途でひろく使用されている。
ちなみに常時、海の近くに駐まっているバイクのリアサスをいくつも観察したが、これと同じような状態か、完全に錆びているものが多かった。
その点を考慮すると、パウダーコートの耐久性は純正のリアサスと遜色ないと思う。
(だれもが知っている黄色いスプリングのサスペンションも含めて、湘南を走るバイクのサスペンションスプリングは、けっこうな割合で錆びている)
筆者と同じような劣悪な環境で放置しないかぎり、そう簡単に錆びることはないはずだ。

ちなみに、分解したダンパーロッドのメッキが少しも錆びていなかったのと対照的に、前出の中国製フロントフォーク(写真)は激しく錆びている。
この差はメッキの質によるところが大きい。

筆者は純正・(YSS以外の)社外サスペンションの両方を含めて、60台分以上のサスペンションを観察しているが、YSSのメッキ(ハードクロームメッキ)はオーリンズや純正のメッキと比較しても、引けをとらないといえる。
YSSのリアサスは、純正品(SHOWAやKYB)や、オーリンズなどと比較しても、耐久性・耐候性ともに同等以上であり、決して「安かろう悪かろう」ではない。
むしろ、日本では過小評価されているとさえ感じる。
(いわゆるブランド信仰や、タイに対するイメージが先行していると思う)
これを機に、1人でも多くの方にちゃんと理解していただけたなら、本記事を書いた甲斐があったというものだ。
お知らせ
今回はYSSというメーカーの紹介、日本におけるYSS製品の流通の仕組み、耐久テストの結果が主でしたが、次の記事で
・オーバーホールした純正サス VS 社外サス
・ぶっちゃけ、サスのオーバーホールってどれぐらい効果あるの?
・30年でリアサスはどれぐらい進化したのか?
・サスペンションメーカーって、性能差はどのぐらいあるの?
・将来、バイクのサスペンションは電子サスが主流になる?
サスペンションのプロフェッショナルである小澤さんにうかがった話を、レポートしようと思います。
筆者自身、数年間、ずっと疑問だったことであり、「機会があったらぜひ、聞いてみたい」と願っていた質問でした。
おそらく、いくらネット情報をあさっても、絶対に知る事ができない話になると思います。
(記事として公開したくない気持ちもあります)


