走行距離18,000km、エンジン不動になったZX-10R(2011年モデル)のエンジンオーバーホール。
作業写真と、不動になった原因を解説します。中古車でありがちな注意点も。
エンジン分解

エンジンを下から見た状態

一見すると、きれいなエンジン。


「ナニコレ?!」思わず、分解したメカニックも驚く、オイルパン内部の惨状。


ヘドロのような物質がたまっているため、オイルパンのフィルターが目詰まりしていました。

不動の原因はこれ。オイル詰まりによるクランクシャフトの焼きつきです。

正常

焼き付いた部分(いわゆるかじっている部分)。クランクが回らないわけです。

クランクメタル
というわけでクランクシャフトは要交換。幸いなことに新品が手に入りました(2020年12月時点)。

クランクケース

シリンダーとピストン

ピストン上部にカーボンがたまっていますが、この手の排気量・走行距離ではよくあるレベル。

シリンダーヘッド


シリンダー、シリンダーヘッド、ピストン、いずれもとくに破損は見受けられませんでした。
通常、鍛造ピストンは再利用せずに新品交換しますが、になりますが、今回は例外的に再利用。

カムシャフトやチェーンも正常


ミッションも異常なし。ただしあとで、問題が発覚することになるのですが・・・


強度的には問題ないのですが、ところどころケースをリューターで削った痕跡がありました。
エンジンを作る際、新しくなった型が合わなくて削ったのかもしれません。同年代のCBR1000RR、GSX-R1000だと、こうした跡は見られなかったです。

洗浄して組まれたピストン。右側の四角い部分は、ガスケットが存在しません。そのまま、金属製のカバーを装着する仕様になっています。
「しかし、さすがにオイルが漏れるだろう」というメカニックの判断で、ガスケットを製作してカバーを装着しました。(その後、ある事件が・・・!?)

バルブとバルブスプリング


新品のクランクシャフト
ZX-10Rにかぎらず、このぐらいの年式になると廃番になっている純正部品が少なくありませんので、注意が必要です。



エンジン完成
インジェクション車の注意点

インジェクション車はタンクを外すと、とにかくセンサーだらけ。
古い年式のインジェクション車は、センサー類の故障が多いようです。
とくにO2(オーツー)センサーが故障すると、排ガスが濃くなり、車検が通らなくなるといったケースが多いようです。
O2センサーは、排気ガス中の酸素濃度を測定するためのセンサー。ガソリンの噴射量や噴射時期、点火時期など、エンジンを制御するために必要な部品の一つです。
センサーの部品代は高額なため、「修理するぐらいなら乗り換える」という方も少なくないのだとか。
もし、「安いから、年式の古いインジェクション車を買おう」と思っている方がいたら、気をつけたほうがいいでしょう。
・故障した場合、部品調達が困難
・センサーが壊れる可能性が高い
2つのリスクがありますからね。
自動車でも、BMWなど極端に安い中古車が出回っていることがあります。その理由は、やはりセンサーの故障や不具合にあるそうです。「タダでもらったBMWが、センサーの修理で数十万円かかった」なんて実話もあります。


外観だけを見ていると、とても不具合が隠れているとは思えない。
走行距離とエンジン故障の関係
「こんな走行距離でエンジンって、壊れるの?!」
と思った方のために説明すると、壊れます笑
2万キロ、3万キロに満たないエンジンの修理なんて日常茶飯事です。
もちろん、定期的にオイル交換などのメンテナンスをしたり、適切に扱っていれば、このぐらいの走行距離で壊れることはありません。
逆にいうと丁寧に扱い、こまめにメンテナンスしている場合、OHなしで90,000km以上走行されているケースもあります。
このZX-10Rの場合、オーナーさんがある業者さんを通じて業者オークションで購入。オークションで購入する際、もともと「異音有り」の状態だったそうです。
(「異音有り」のバイクは、通常ならリスクが高いためプロでも購入しないそうですが・・・)
それで納車後、一週間も経たないうちに出先でエンジンが停止。
そのままエンジンがかからなくなって、レッカーで運ばれてきました。

某有名な峠道を走行中でエンジンが止まったそうです。
エンジンが焼き付いた際、転倒しなかったことを考えると、オーナーさんは強運の持ち主と言えますね。
転倒したり、後続車がいたら追突されていたかもしれません。
信じがたい話

ここからはエンジンを修理して、納車したあとの話。
さきほど触れた箇所から「オイルが漏れる」とのこと。わざわざガスケットをつくったのにも関わらずです。
オイル漏れの原因はフタの歪み(ひずみ)でした。

カバーを研磨して、あらためてガスケットを製作し、さらに念を入れて液体ガスケットを塗布して装着。
「よく考えれば、オイル漏れするのは当然。ありえない設計だよ」とメカニック。
さらにもう一つ、致命的な欠陥が発覚。
走行中、ミッションが3速までしか入らず、エンジンを分解したら構造的な欠陥が原因だったとか。その箇所を加工したら、無事に直ったそうです。
ちょうど同時期、ZX-25Rのトランスミッションのリコールが発表されていました。
筆者の率直な感想としては、「このエンジンを観ていると、不思議ではないな」と思ったものです。
偶然かもしれませんが、このZX-10Rはエンジンのあちこちが通常では考えられない、鬼トルクで締められていて、まるで「エンジンを開けるな!」と言わんばかりの様子だったからです。
見た目やスペックは同じでも、メーカーによって大きく設計思想が違うものだと、実感した出来事でした。
(一応フォローしておくと、鬼トルクでボルトが締まっているのはGSX-R1000も同じでした)
エンジンにはガスケットが無いのが当たり前?
BMWなどはかなり昔からガスケットが無かったそうですが、2000年代後半に生産された日本車(今回のZX-10RやCBR1000RR SC57、GSX-R1000 K6など)も、紙や金属のガスケットが使用されなくなりつつあります。
部品の加工精度が向上したからでしょうか。
代わりに液体ガスケットの使用がサービスマニュアルに記載されています。ただし、エンジンの熱による歪みはあまり考慮されていないのか、液体ガスケットだけだと、エンジンオーバーホール後にオイル漏れが発生する事があります。
実例:クランクケースカバー(CBR1000RR SC57)
この場合の対処法としては、可能なら紙のガスケットを製作する、液体ガスケットを少し多めに使用する(多すぎるとエンジントラブルを招きます)などです。
SC57を複数見ていると、走行距離40,000kmぐらいのものは、エンジンを開けていないにも関わらずエンジンオイルが漏れている車両がありました。原因は定かではないですが、クランクケースの歪みが原因かもしれないですね。
オーバーホール後の感想
オーナーさんいわく、「エンジンの音が静かになってまるで見違えた」とおっしゃっていたそうです。
こればかりは実際に経験してみないと、伝わらない部分がありますが、エンジンのオーバーホールをした方は皆、同じような事を口にされます。
エンジンのレスポンスも、トルクも、いままで乗っていたのとは別物のエンジンになりますからね。
オーバーホール後のエンジン音はこちらのブログで視聴できます。
協力
有限会社ガレージ湘南
神奈川県藤沢市鵠沼神明2丁目4−8
https://garage-shonan.wixsite.com/info




