どれが得か、気になりますよね。
ホンダワークスチームのスタッフとして、MotoGPの世界チャンピオンマシンに関わったエンジニアの方に直接、話をうかがう機会がありました。
レーシングスペシャリスト 小澤 仁樹さん
※以下、筆者による要約(意訳)
オーリンズの日本総代理店ラボ・カロッツェリア、SHOWA勤務を経て、YSSに入社。その間、数々のワークスチームや、ワークスライダーたちとともにキャリアを構築。サポートしたライダー
MotoGP(ロードレース世界選手権)
https://inuiyasutaka.net/bikeblog/wsbk2022/
マックス・ビアッジ選手(レプソルホンダ)
ニッキー・ヘイデン選手(レプソルホンダ)2006年 MotoGPクラス 世界チャンピオン
中野 真矢選手
カルロス・チェカ選手
レースに詳しくない方のために説明すると、MotoGP(モトジーピー)は、世界最高峰の二輪ロードレースのこと。
自動車で言うと、F1に相当します。
つまり、世界の頂点(マシン・ライダー)を知るサスペンション エンジニアということです。
これ以上、アドバイスを求めるにふさわしい人物はいないでしょう。
早速、本題に入りますが、
・1980〜90年代のバイクの純正リアサスペンション
・現代のリプレイス リアサスペンション
を比較した場合、圧倒的に現代のサスペンションに分があるそうです。
「もし、(プロである)自分自身がどちらかを選択する場合、わざわざ設計の古いリアサスペンションをオーバーホールする選択肢は考えられない」
そのように話されていました。
もちろん、この結論にいたる理由があります。
たとえば、タイヤは「3年周期で進歩している」と言われています。
同じく、エンジンにしてもブレーキにしても、あらゆる部品が進歩しています。現代のリッター スーパースポーツバイク(市販車)は、むかしのレーシングマシンよりも速いです。
にもかかわらず、サスペンションだけが昔のまま変わっていない、なんてことはあり得ないですね。
それはレース向けのハイスペック サスペンションだけの話ではなく、ストリート向けのサスペンションだって同じです。
金額的な面で「純正リアサスペンションをオーバーホールしたほうが、安くつくのでは?」と考えるのは、筆者も経験しているので理解できます。
ただ、実際にはオーバーホールしたからといって、新品と全く同じ状態になるわけではありません。
オーバーホール費用の真実
サスペンションをオーバーホール(分解・整備)する場合、劣化すればするほど、新品のコンディションに近づけるためには高額な費用が発生します。
レーシングリアサスペンションを構成するパーツ
たとえば
A 20,000km走行したリアサス
B 50,000km走行したリアサス
まったく同じ条件で両者を比較した場合、5万キロ走行したリアサスのほうが、痛みが激しいことは想像できると思います。
そのぶん、交換する部品の数が増えて、部品代がかかります。
オーバーホール費用が高くなるわけです。
C 50,000km走行したリアサス(オーバーホールなし)
D 70,000km走行したリアサス(15,000kmごとにオーバーホール)
おなじく、同条件でCとDを比較した場合、こまめにメンテナンスしたDのほうが、(たとえ走行距離が長くても)状態は良い、ということが想像できますね。
一般的にリアサスペンションのオーバーホール料金の最低ラインは20,000円とか、30,000円ぐらいの金額が提示されています。
ただ、これはあくまでサスペンションの状態が良い場合の話だと思ってください。
メンテナンスせず、何年も使い倒していたり、メッキが錆びていたりすると、再メッキが必要になったり、交換しなければならない部品が多くなります。
古いサスペンションの場合、交換に必要な部品が無く、新たに作らないといけないケースもあります。
結果、オーバーホール費用で新品のリプレイス リアサスペンションが買える金額になったりします。
逆に、状態が悪いにもかかわらず、低予算ですませる場合、100%にはほど遠い仕上がりになるばかりか、走行してしばらくすると、オイル漏れが発生することがあります。
価格ありき→金額に見合うだけの作業しかできないため、金額相応の仕上がりになる
100%に限りなく近い状態にする→状態によるが、それなりの費用と時間がかかる
決して「オーバーホール費用が高いのは、そのショップが有名だから」
ではないんですね。
住宅のリフォームと同じで、安いものには安いだけの理由がちゃんとあるわけです。
ショップによってクオリティが異なる
1,作業をする人の知識と経験
2,どこまでやるか(範囲、予算)
3,どのようにやるか
同じ「オーバーホール」でも、作業内容や、やる人によってクオリティが異なります。
オーバーホールの定義も、ショップによってちがいます。
安易に仕事だけ受注して、肝心のクオリティは・・・というショップもあるので、えらぶ際は注意が必要です。
こうした背景を知らないと、表面的な金額だけで比較して、後悔するリスクが高くなります。
(エンジンのオーバーホールと同じ)
純正サスをオーバーホールしても100%にならない理由
さきほどは費用の話。
ここからは、物理的な話をわかりやすくお伝えします。
分解することを前提に作られていないリアサスペンションを強引に解体した場合、その時点で元の状態(100%)に戻ることはありません。
たとえば非分解式のサスペンションを切削したり、溶接した時点で、もう100%には戻らないわけです。
それに手間がかかる分、費用もかかります。
そこまでやったとしても、現代のリプレイス(社外品)サスペンションに性能は劣るわけです。
「にもかかわらず、高いお金を払ってまで、何世代も前の純正リアサスペンションをオーバーホールする意味はあるのか?」
このように考えた場合、(プロは)「やるメリットがない」と判断するわけです。
もちろん、世の中にはオリジナルパーツにこだわる人がいる事も、理解しています。
そういう方でも、たとえばタイヤは、現代のテクノロジーで作られた製品を履きますね。20年、30年前に製造された古いカチカチのタイヤを履かないはずです。
ブレーキパッドや、ブレーキフルード、エンジンオイルも現代の製品を使いますね。
だったら、「サスペンションだけ設計の古い純正にこだわる理由はないのでは?」と筆者は思います。
以上の話を踏まえて、あなたはどう考えますか?
Q.程度の良さそうな中古の純正リアサスはどうなのか?
「オークションで良さげな中古を手に入れたら、いいんじゃないか」
これも多くの人が考えることです。
結論をいうと、「旧車で程度のいい中古サスペンションは期待できない」と考えたほうがいいでしょう。
中古パーツの注意点
エンジンパーツは、摩耗状態で再利用の成否が決まります。クリアランスや摩耗状態が規定の範囲内かどうか。ですから比較的、見た目が良さそうでも、全く使えない事がよくあります。見た目(外装)だけをきれいにして、実際には使用できないものを平気で出品する(不具合を隠す)、悪質な出品者も増えています。
プロがおこなうバイクエンジンの焼き付き修理方法とオーバーホール料金
上記はエンジンパーツの話ですが、サスペンションもおなじです。
海外オークションでも、見た目だけマシ?な古いリアサスが出品されていて、海外のサスペンションプロショップが「中古品を信用しないで!」と警鐘を鳴らしていました。
それを見た筆者は「国がちがっても、人間のやることは同じなんだなぁ」と思いました。
そもそもサスペンションの程度が良いか悪いか、見た目でわかるのは外観だけで、中身まではわかりません。
(ダンパーやバネの状態を計測している出品者、見たことありますか?)
見た目はきれいでも、開けてみると・・・、
というのは中古エンジンに限らず、サスペンションも同じみたいです。
写真左上はオイルの通り道が、塞がっているのがわかると思います。
こうなると、サスペンションの役割である「路面追従性」は期待できません。
タイヤと路面が接地していることが大事
https://inuiyasutaka.net/bikeblog/wsbk2022/
路面の凹凸を通過した際、タイヤが路面から離れる(浮く)と、タイヤのグリップがゼロになります。不安定な状態ですね。
あらゆる路面の変化、大小さまざまな凹凸に対して、できるだけ早く、タイヤと路面が接地できるようにするのが路面追従性です。
もし、トランポリンみたいにバイクが跳ねていたら、危なっかしくて、乗っていられませんね。
走行距離2万km以上、KTM390アドベンチャーのWPリアサスペンション
ダンパーオイルは経年劣化により、徐々に酸化します。
つまり、走行距離が少なくても、サスペンションオイルはへたっていくわけです。それが20年、30年も経つと、どうでしょう。
奇跡的にダンパーが正常な中古サスペンションに当たったとして、おそらく、走行しているうちに、すぐへたるのが落ちだと思います。
オーバーホールのメリット・デメリット、リアサスペンションのえらび方は、下記の記事でわかりやすく解説しています。
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YSSからリアサスをリリースしました。(オンラインショップ)