本記事では、4ストエンジンが焼き付いた場合の修理方法、事例を紹介します。
エンジンを焼き付かせない、壊さないことが一番ですが、
「もし、焼き付いてしまった場合、どういった修理をするのか?」
「どんな修理方法があるのか?」
70基以上のエンジンオーバーホール現場に立ち会った筆者の知るかぎり、お伝えしていきます。
エンジンが焼き付くとどうなるか?
4ストロークの場合、クランクシャフトに大きなダメージがいきます。


クランクシャフト焼き付き
クランクが焼きついて、エンジン不動になった事例です。

走行距離18,000km、オイルパンが詰まって焼きついたZX-10Rのクランクシャフト。

エンジンから異音がして、そのまま乗り続けているうちに焼きついたGSX400E。

コンロッドメタルがすっかり変形していた。

左側は正常なコンロッドとメタル。右側の焼きついたコンロッドは、メタルが接する部分が傷だらけになっている。
以上のようにクランクシャフト、クランクメタル、コンロッドメタル、コンロッドが交換になるケースが多いです。
ところが、いわゆる旧車・絶版車(2010年製造のバイクを含む)の場合、新品クランクシャフトが手に入る事は期待できません。
程度のいい中古品があればラッキーですが、古い車種・人気のある車種ほど手に入りにくく、あっても高額なのが現状です。
メタルやコンロッドについても同じで年々、部品が手に入らなくなりつつあります。
クランクシャフト カムシャフトの修理
修理可能なケースです。


Beforeの写真を撮影しなかったのが悔やまれますが、溶射した箇所と、していない箇所を比較すると、目に見えて違いがわかるかと思います。
もちろん見た目だけではなく、寸法も指定クリアランスどおりピッタリです。
溶射(ようしゃ、Thermal spraying)とは、加熱することで溶融またはそれに近い状態にした粒子を、物体表面に吹き付けて皮膜を形成する表面処理法の一種である。吹き付けられる物質は「溶射材」と、被施工物は「基材」と呼ばれる
Wikipediaより
クランクシャフト以外にも、
カムシャフトや、シリンダーヘッド、シリンダーヘッドやクランクケース、トランスミッションのギアなど、さまざまな場面で溶射技術が用いられています。

走行6.4万kmのカムシャフト。オイル管理が適切なら、ご覧のように傷が少なく、摩耗状態も良好です。
しかし、オイル管理が悪かったり、焼き付いたエンジンのクランクシャフトは、目に見えて大きなガリ傷が入っていることがあります。
少々の傷や摩耗であれば、(高精度な)研磨加工で修復できるようです。
2000年代のバイクも立派な旧車
1980年代前後のバイクばかり見ていると、2000年代のバイクが新しく感じられます。
しかし、2000年だと23年も前。純正部品が廃番になっても不思議ではないぐらい、時間が経過しています。

クランクが焼き付いた2004年のCBR1000RR(SC57)。純正廃番のため、レース用にストックしていた人から譲ってもらい、修理することができました。
SC57はピックアップコイルなど、肝心なパーツがあちこち廃番になっています。
1990年から2000年代の中古車は、価格こそリーズナブルですが、社外品を含めて部品が出ないことが多く、これから購入される方は注意したほうがいいと思います。
あまり一般的に知られていない落とし穴があります。
シリンダーヘッド

メンテナンス面研のBefore/After
通常ならまずないことですが、もし、シリンダーヘッドの合わせ面が陥没している場合、溶射で盛ったあと、面研して修理することができます。
ちなみにメンテナンス面研は、シリンダーヘッドの歪み(ひずみ)を取るためにおこないます。
歪みがある場合、そのままエンジンを組むと、圧縮不良やオイル漏れすることがあるからです。

燃焼室

シリンダーヘッドの燃焼室。バルブシートは「バルブシートリング」が圧入されています。

陥没していたZ1のバルブシートリング。
ここまでになるとシート修正(研磨)ではなく、シートリングを交換する事になります。シートリング交換はかなり高額なります。
バルブシート修正 すり合わせ
燃焼室は、人間でたとえると呼吸器官です。
1,インテークバルブから混合気を吸気
2,ピストンが混合気を圧縮
3,スパークプラグの火で着火、爆発
4,(ピストンが下がり始めると)燃焼ガスを排気
4つの工程(サイクル)を繰り返しています。
試しに自分の首を絞めてみればわかると思いますが、思い通りのタイミングで呼吸ができないと、走り回ることはできないですね。
エンジンも同じで、適切なバルブタイミングで、バルブ(弁)がちゃんと密閉できていることが大事です。

黄色の矢印の箇所にムラがあります。密閉できていない部分があるという事です。

バルブシートを修正研磨、バルブのすり合わせをおこなった後。
先ほどのZ1のように、バルブシートリングがおおきく陥没していると、シート修正では対応できず、バルブが密着できないわけです。
バルブガイド
バルブ同様、バルブガイドも重要なパーツ。
ガイドにガタ(ゆるみ)があると、バルブがしっかり密着できなくなります。大きなガタがある場合、ガイドを交換します。

やじるしの部分がバルブガイド。シリンダーヘッドに圧入されている。

通常、黄色の矢印のようにバルブが上下に動いてます。
ところが、ガイドのステム側(またはシリンダーヘッド側)が摩耗すると、バルブステムが横に動いてしまいます。

ガイドホールが緩んで、バルブガイド自体にガタが発生することもあります。
1,バルブステムやバルブガイドが摩擦して、ガタが発生する
2,バルブガイドと、ガイドホールにすき間ができてガタが発生する
2つのパターンがあるということです。
バルブ、バルブシートリング、バルブガイドについては製作可能なため、クランクまわりほど部品に困ることは少ないと思います。
ピストン
ピストンに関しては、焼き付いた場合は要交換です。
ピストンリング、クリップ、ピストンピンは焼き付きに関係なく、基本的に交換します。

個人売買で購入。帰宅途中にエンジンが停止して、そのままかからなくなったCB125T。
エンジンオイルが入っていなかったことが原因。

ボアアップシリンダーキットを組んで47,968km走行した筆者のCB125T用 142cc中華製ピストン。
油温管理を徹底したせいか、オイルの減りや白煙なし。

くわしい原因は不明ですが、オイル切れで焼き付いたCBX400F。
3番ピストンのスカート部分が割れていて、1番2番のピストンも損傷が激しいです。

CB750F(RC04)の純正ピストンは鋳造ですが、CB750からは鍛造ピストンが採用されています。
鍛造ピストンは歪みが発生していて、再利用すると割れることがあるため原則、交換したほうが無難です。
ピストンをワンオフ製作できないのか?
たびたびバイクショップの方と話題になって調べたことがあります。だいたい最低ロットが100個から50個。4気筒(100×25台)ならまだしも、2気筒や単気筒だと、よほど需要が見込めないかぎり、製作するには在庫リスクがあります。
もし筆者が製作・販売するとしたら、先にお客さんを集めてから製作するでしょうね。
シリンダーライナー

さきほどのピストンが焼きついたCB125Tのシリンダー。(走行距離1.9万km)

29,298km走行した筆者のCB125T。

47,968km走行した筆者のCB125T。ピストン同様、まだ再利用できる状態。
このように比較すると、ちがいが分かりやすいと思います。

少々の傷や、クリアランスに余裕があれば研磨(ホーニング)で再利用できることがあります。
完全に焼き付いた場合はシリンダーを丸ごと交換するか、ライナー交換(ライナー打ち換え。スリーブ打ち換えともいいます)、あるいはボーリングになります。
ボーリング=シリンダーの口径(ボア)を大きくして、排気量を大きくする。

不動期間の長いエンジンは、シリンダーが錆びていることもめずらしくない(GSX-R750)。

シリンダーとクランクケースが一体型になっている(MC22)場合、ライナー交換できないため、状態によってはクランクケースごと交換する事になります。
シリンダーライナー交換の例
シリンダー焼き付き以外に、錆がひどいとライナーを交換する事になります。

すっかり錆びついていたZRX400のシリンダーライナー。

シリンダーライナー交換は、シリンダーをできるだけ傷つかないようにしながら既存のライナーを取り外し、新たにライナーを製作(純正部品がない場合)。
さらにライナーを圧入するという工程なので比較的、時間と費用がかかります。

ライナー交換するケース
1,ひどく錆びたり、焼き付いている場合
2,ボアアップ or ボアダウンする場合
3,オーナーさんの意向
シリンダーが摩耗してるから要交換・・・というケースは比較的、少ないです。中華製シリンダーでも、4.7万キロ走行して、まだまだ余裕がありましたからね。
以上が70基以上のエンジンオーバーホール現場に立ち会い、よくある修理内容と手法の一例です。
開けてビックリのエンジン
ここからは番外編。
さまざまな排気量、メーカーのエンジンを観ていると、いろんな事例を目の当たりにします。

矢印の箇所を見ていただくと「YAMAHA」の刻印があります。
このピストンは、KAWASAKI Z750FXから取り外したものです。

ご覧のとおり、ピストンクラウンの形状がバラバラです。かなり大ざっぱな加工です。
自動車のエンジンに、バイクのピストンを使用する(流用する)ことはあるそうですが・・・

シリンダーは4気筒とも傷だらけ。流用にすらなっていなくて、ただ「組んだ」だけの状態。
このまま、前オーナーは売りに出したのでしょう。現オーナーは知らずに購入されたそうです。もともとライナー交換の予定だったそうですが、それにしてもひどい状態です。
ここまで極端なものはめずらしいですが、
・ボアアップされていた
・過去にエンジンを開けた形跡があった
・クリアランスがめちゃくちゃ
・でたらめにいじった形跡がある
エンジンを開けて、現オーナーが知らない事実が次々と発覚するのは、日常茶飯事です。
しかし逆に考えると、エンジン(もしくはバイクそのもの)の状態をきちんと把握して、悪いところを修理することで、安心して乗れるメリットもあります。
異音(異変)を感じた時の対処法
まずはエンジンをかけないこと。
そのまま走ったり、「完全に止まったら修理に出せばいい」とは思わないことです。
さきほどお伝えしたように、ピストンだけならまだしも、クランクシャフトや、クランクケースが破損したら修理不可能な場合もありますからね。
下手に自己判断したり、バイク仲間に聞くのもNG。
(聞いてもいいですけど、もし、それで壊れたらその人は責任取ってくれますか?)
早めに信頼できるプロ(日常的にエンジン修理を生業にしている人)に診断してもらう事をおすすめします。
それが最悪の事態を避ける早道です。
不調なエンジンをしばらく保管する場合、エンジンをかけずにセルを回して、オイルを循環させるといいです。
もちろん、日頃からできるだけ壊さないように乗るのが一番です。
少しでもエンジンを長持ちさせるために今日から、明日からライダー側にできる事としては、エンジンオイル管理とバイクの扱い方だと思います。
エンジンを長持ちさせるヒントは、テスト済みの方法を、以下の記事でお伝えしています。