はじめに
CB125Tを購入後、ほぼレストア。
142ccボアアップして軽二輪登録、ブレーキ強化、CB125T専用リアサス開発など、6万km以上にわたって数え切れないほど、さまざまなテストをおこないました。
その間、100台以上の旧車・絶版車のレストア、修理に立ち会っています。
最初の記事から6年以上が経過し、いまとなっては古くなった部分もあるので、あらためて内容を更新しました。
これから旧車を購入する方、購入されたり、レストア・カスタムを検討している方の参考になればと思います。
本題に入る前に、より記事の内容を正確に理解していただけるよう、基本的な考え方や、認識を共有しておきたいと思います。
調子の良し悪しはどうやって決まる? 心理学的に解説
基本は「購入したバイクの状態」が、そのまま自分の判断基準になります。
たとえば新車を購入した場合、100%がスタートになります。
「このバイクって、こういうものなんだ」
たとえバイク初心者でも、中級者やベテランライダーでも、程度の差はあるものの、調子の良し悪しを判断する際の基準が、最初に乗った時の状態で決まるわけです。
ところが中古車を購入した場合、(バイクの程度にもよりますが)古いバイクほど、新車の状態から大きく下がっています。
仮にそれが60%だとすると「60%の状態」が自分の基準になります。
すると、中古で購入した時点でなにか不具合があったとしても、気がつきにくいのです。
実際、筆者がお世話になっているバイクショップのお客さんの多くが中古車に乗っていますが、調子が悪くても気がつかず、
「(中古で)購入した時からこうなってました」
みんな口をそろえて同じ事を言います。そういう事実があるという話です。
人間は最初にじぶんが経験した事を基準として、のちのちの事を判断する
これは心理学的に証明されている。
例:
初めての一人暮らしで家賃5万円のワンルームを借りた。その後、ワンルームを借りる場合、「5万円」が自分の基準となり、安いか高いかをジャッジするようになる。(一人暮らしの家賃の判断基準)
さらに掘り下げると、人は自分の思い込みや考え方、信念や願望がミックスされて「こうにちがいない」という結論を導き出す。だから自分の中では絶対的に正しいと思っていることでも、第三者のプロからすれば、間違っていることが多い。
言ってみれば、レストアやきちんと整備してバイクの状態を良くすることは、意図的に自分の基準を上書きして、最新の状態にアップデートするようなもの。そうすれば調子が悪くなった場合(パーセンテージが下がった時)、気がつきやすくなる。
以上を踏まえた上で言うと、よくある中古車のインプレッションの多くが、整備不良や各所の劣化と、マシンの仕様を混同していると実感しています。
たとえば30%状態のバイクを購入して、「このバイクは加速性能がどうのこうの・・」と言ったところで、「その前に、ちゃんと整備した状態で走ってるの?」という話になりますよね。
実際に整備(修理)の現場を見ていると、キャブセッティングが狂っていたり、ドライブチェーンがたるんでいたり、スプロケットの山が無かったり、ブレーキを引きずっていたり、バルブクリアランスが適切でなかったり・・・タイヤの空気圧が0なんて、よくある話。
「それじゃあ、ちゃんと走らないのも無理ないよ」という事が多いです。
もともとバイクの仕様なのか? たんに整備不良や経年劣化によるものなのか?
30%の状態のままいくら走ったところで、そのバイクのことを正しく判断できないという事です。
100%がむりでも、せめて70%、80%の状態にして、それからだと思うんですね。そのバイクについて、どうのこうのと言えるのは。
とくにバイクに対して悪い評価をする場合、きちんとした状態で走らせないと、開発者の方々や、メーカーの人たちからすると、
「そりゃ整備不良だからだろう。完調な状態で走らせてから言ってくれ!」
と思うはずです。
本記事では以上を踏まえて、インプレッションをお伝えするよう心がけています。ただし、あくまで筆者の主観であり、正しい情報ではないという事を理解して、読み進めてください。
筆者のCB125T JC06 最終型
【カタログスペック】
■空冷4サイクルOHC2バルブ2気筒 124cc 最高出力15PS/11,000rpm 最大トルク1.0kg-m/8,000rpm 変速機5段リターン ■燃料タンク14L ■ブレーキF:ディスク/R:ドラム式 ■車両重量139kg ■シート高770mm
2013年 東京のバイクショップにて購入(購入時 メーター走行距離19,500km)、その後、ほぼフルレストア。
エンジンオーバーホール2回(142ccボアアップ含む)、トータル6万km以上を走破。
年式・型式による違いはスペック情報を参考にしてください。
オールラウンドで使えて、官能的なツインサウンドが楽しめる125cc
CB125Tの特徴をひとことで表現すると、こうなる。
なんと言っても、CB125T最大の特徴であり、魅力なのは高回転型のエンジンだ。
250ccクラスを中心に、いまでこそメジャーになった2気筒エンジンだが、125ccクラスでは、2気筒エンジンを採用しているのはCB125Tや、CD125T系など、ごく一部の旧車のみ。
まさに特別な存在だ。
(注:2020年より、スペインのレオンアート社から水冷二気筒エンジンを搭載したアメリカンモデル「ヘリテイジ125」、「パイルダー125」が発売されている)
比較的、マイナーな存在だった二気筒
250ccクラスで言うと、〜2000年ぐらいまで4気筒が主流だった。
2気筒エンジンが増えたきっかけは、2008年発売のNINJA250。ニンジャのヒットや、アジア諸国のバイクブームによりYZF-R25(2015年)、GSX250R(2017年)、CBR250RR MC51(2017年)など2気筒マシンが相次いで発売。国内では比較的、マイナーな存在だったツインエンジンが主流となった。
筆者がCB125Tを選んだ理由は、高回転エンジンのサウンド。
2ストにハマっていた(4ストはまったく眼中になかった)頃、たまたま通りがかった「いい音」がするバイクが、まさかの、教習所でおなじみCB125Tだった。
「あのバイク、こんないい音がするのか・・」
見た目はともかく、官能的なエキゾーストサウンドは記憶に焼き付いた。
それからずいぶんと時を経て、CB125Tを購入。
購入後、少しずつほぼフルレストアしたり、気になるところをカスタムしながら、日常の移動手段として市街地走行、ロングツーリングや峠道など、多用途でほぼ毎日、乗っていた。
筆者のCB125Tコンセプトは「走る実験機」
レストア、カスタム、チューニング、都市伝説の検証・・・さまざまな実験をするための素材として、CB125Tを選んだわけだが、最終的に専用パーツ開発・販売も手がけることになった。
リアサスのテストランで、1月の大雨の中を数時間、走ったことも。
ライダーの好みもあると思うが、筆者がCB125T(CB150T)に乗って楽しいと感じるのは中高速コーナー。
とくに高速道路のカーブをアクセル全開で旋回するのが好きだ。
いっぽうで、カブみたいにゆっくり走りながら、景色を楽しむ走り方も苦にならないのがCBTの良いところ。
ボアアップのメリット・デメリット
一般的に「ボアアップすると、エンジンの耐久性が低下して、壊れやすくなる」と言われている。
CB125Tの142cc化は、結論だけ言うとメリットのほうが多かった。
くわしくは、下記の記事で解説している。
124ccと142ccの走行性能のちがい、耐久性など。(追記:2023年版 エンジンチューニング)
こう見えてスーパースポーツ
世代的に60歳以上の人じゃないとわからないと思うが、CB125T(1982年 JC06初期型)はスーパースポーツとして発売されていた。
2サイクルのミニバイクが主流になる前は、CB125TやCB125JX(単気筒)でレースをしていたと、当時のレーサーの方から聞いたことがある。
CB125Tは、見た目はいわゆるネイキッド(この言い回しも古いか)だが、実際に走ると、エンジンも運動性能も、非常にバランスがとれていて、扱いやすい。
楽しすぎるエンジンフィーリング
低回転でのんびり走っていると、エンジンフィーリングはカブに似ているかもしれない。
きちんと低速トルクはあるし(ただし車重が重めなので加速力は良いとは言えない)、低回転でのエキゾースト音は控えめ。深夜でもそれほど気を遣わなくてもいい。
ところが、6000rpmを超えたあたりから、CB125Tは豹変する。
まず排気音が官能的になる。現行車で例えると、CBR250RR MC51に近い排気音だ。
MC51が発売された際、エキゾースト音を耳にして思ったファーストインプレッションが「あ、CB125Tだ」である。ただ、騒音規制の影響もあるからか、MC51のほうがエンジン自体の音は静かだと思う。
CB125Tの場合、エキゾースト音だけではなく、エンジン音そのものがエキサイティングなのだが、こればかりは、実際に乗っている本人にしかわからない(聞こえない)。
排気量の大きいバイクで高回転まで回すと、多大なリスクを負うことになるが、CB125Tの場合、絶対的なスピードが低いため比較的、小さなリスクで高回転型ツインエンジンを堪能することができる。
これこそCB125Tならではの楽しみ方だと思う。
前後18インチタイヤのハンドリングは癖がない
筆者は17インチのほうが好きだが、それでも扱いづらいと感じた事はない。
よく「優等生」「つまらない」と揶揄されるHONDA車だが、裏を返せば、扱いやすく乗りやすいバイクということ。
同じく、長きにわたって教習車に採用されていたCB400SFもそうだが、CB125Tもトータルバランスに優れている。
もちろん、CB125Tと現行125ccモデルを比較した場合、古さを感じる部分や、及ばない点もあるが、高回転型ツインエンジンならではの楽しさや、さまざまな用途をカバーしてくれる懐の広さという点において、CB125Tは現行125ccモデルにない楽しさがあると思う。
CB125Tの弱点とカスタム
筆者自身が気になった点を挙げていく。
CB125T 最終型
あえて「最終型」と記載したのは、最終型だけキャブレターの仕様がほかのモデルと大きく異なるからだ。
最終モデルは排ガス規制対応のため、キャブセッティングが、かなり薄めになっている。
そうとは知らず購入した筆者は、乗ってすぐ「壊れているんじゃないか?」と思ったほどだ。ブローバイガス還元装置のキャンセルはあまり効果はないが、メインジェットに関しては番手を上げたほうがいいかもしれない。
あまりにも薄すぎる。
キャブレター最終モデルあるある
キャブセッティングが薄めになっているのは、CB125Tにかぎった話ではない。2000年ぐらいに販売された排ガス規制対応のバイクは排気量を問わず、乗り心地を犠牲にして排ガスを薄くすることで、規制に対応している。
(キャブレター採用最終モデル、インジェクション車 初期モデルどちらも同じ)
ダイノジェットによるパワーチェックデータシート。メーター走行距離26,000kmの時に計測したもの。
ボアアップする前、かつてキャブレターパーツ「バクダンキット」で有名だったケンソー(現在は廃業)で、ジェットニードルとメインジェットを製作してもらった。
セッティング後の数値は、11.9PS(シャーシダイナモ計測)。
8000rpmぐらいで頭うちしていたエンジンがそれ以上、回るようになり、乗りやすさ・楽しさは倍増した。
数字だけ見れば、たったの1.3馬力アップにすぎないが、パワーの乏しい小排気量バイクだと、まるで別物のエンジンになったように違いを感じる。
こうした小さな変化も楽しめるのが、小排気量クラスのいいところだと思う。
メーカー公称馬力とシャーシダイナモのちがい
いわゆるメーカーが公表している馬力はエンジン単体(クランク)で計測した場合の数値。
シャーシダイナモの場合、タイヤ、ドライブチェーン、スプロケットなどを介して計測するため、数値はメーカー公称値よりも低くなる。(後軸計測といいます)
また計測する機械や、スプロケット、ドライブチェーン、タイヤなどの摩耗状態によっても計測結果は変わります。
カタログ馬力の約80%ぐらいが、後軸計測の馬力となります。
ちなみに最終モデルのみ、各パーツが以前のモデルと異なる。
もし、これから購入するのであれば最終型はお勧めしない。
最終型は「販売台数が最も少ない=部品が少ない」うえに、前モデルと互換性のない部品が多いからだ。どうせなら、部品調達がしやすいモデルを選んだほうがいい。
逆にいうと、最終型を選ぶメリットはないと思う。
CB125T JC06用キャブレターセッティングパーツが発売されました。
ポジション(ハンドル、シート、ステップ)
身長160cm以上の人であれば、シート高の低さと軽い車重の恩恵で、立ちゴケする事はないと思う。
筆者の場合、ジーンズで乗ることが多いため、シートが滑るのが気に入らなかった。そのため、株式会社丸直のノンスリップシートに貼り替えてもらった。
純正シートの表皮とちがい、雨でも滑らない。
シートの固さに関しては固すぎず、柔らかすぎずで、ちょうどいい。
純正ハンドルは当初、セパハンに慣れていた筆者は乗りにくさを感じたが、なじんでからは非常に扱いやすかった。
オフロード走行した時も、大雨の中での走行でも、まるで不安なくコントロールできたし、100kmを超えるロングランでも、腕が疲れることもなかった。
ポジションについては、身長や体格、手足の長さで個人差はあると思うが、筆者にはピッタリだった。
ステップは「峠道ですりやすい」という声もあるが、ステップをすらずにコーナーリング速度を高くする走り方をすれば、なんら問題ない。
ようするにバイクの問題ではなく、ライダー側のライディング技術の問題だと思う。
強いて言うと、ステップのゴムが劣化して、雨で滑りやすかったのでステップラバーは交換した。
ブレーキ
キャブセッティング、シートと並んで、気になったのがブレーキ。
筆者は体重50kg以下だが、フロントブレーキは物足りないと思った。もちろんタイヤを新品交換して、空気圧も基準値。購入時にフロントフォークもオーバーホールしていた。
ステンレス メッシュホースに換装して、フロントブレーキ キャリパーをオーバーホール。
ディスクローターを純正新品に交換して、さらにブレーキパッドも変えてみたが・・・筆者が期待するほど改善しなかった。
車重に対して、明らかに制動力が不足しているという感が否めなかったのだ。
もちろん車間距離を開ければいいのだが、そうすると割り込まれたりするし、急ブレーキをかけなければならない事が多々、あるのが公道。
なにより、スポーティーな走りをすると、あきらかに頼りなく感じてしまう。
そこでブレーキ周りを強化する事にした。
筆者のなかでは、とても満足度の高いカスタムだった。
・ブレンボ製 ブレーキキャリパー P4 30/34 40mm 汎用 型番20.5165.58
・ガレージ湘南製 ワンオフキャリパーサポート
・CB750F(FA/FB)用ディスクローター流用
・ブレンボ製 ラジアルマスターシリンダー 型番10.4760.80
・グッドリッジ製 ステンメッシュホース(ノーマルより10cm短い)
・ミラーホルダー
・ブレーキスイッチ
一般的にディスクの大径化は「ハンドリングが重くなる」と言われるが、筆者の場合まったく気にならない程度だった。
ディスクローター、キャリパーサポート、キャリパーを合わせると重量増だが、それ以上にメリットが大きすぎるため気にならない、というのが正確だろう。
旧車(国産車)の純正ブレーキの固着ぶりをいくつも見ていると、入門モデルにもかかわらず5年間、ほとんどノーメンテで固着しない・コントロール性が損なわれないブレンボキャリパーは、大したものだと思う。
ブレーキカスタムの注意点
筆者は当初、機械式のブレーキスイッチを使用した。
ところが、ちょっとした接触不良でブレーキランプが点かなくなることが何度もあった。追突される恐れがあるため危険なので、ブレーキスイッチは油圧式を使う事をお勧めする。
ブレンボのOEMメーカーであるFRANDOも検討するといいだろう。
(ブレンボキャリパーを製造しているメーカー)
格安キャリパーの中には粗悪な製品もある(有名メーカーのコピー品も存在するので注意)と聞くが、少なくともFRANDOに関しては安全面・コスト的に選択肢の一つとして良いと思う。
ブレンボの鋳造キャリパーと、そう変わらない金額でワンランク上の鍛造キャリパーが購入できる。
ブレーキホース交換の際は、とくに教習車仕様の場合、アップハンドルのため長さに注意すること。
教習車じゃなくても、ハンドルを交換している場合は長さや、取り回しを確認しておこう。
(短すぎても長すぎてもNG)
近年、中華製などの格安ブレーキパーツが増えているが、危険な製品も少なくない。ブレーキは命に関わる重要パーツなので、お金をケチるぐらいなら、純正のままのほうがいい。
キャリパー、ブレーキホース、ブレーキディスク・・・
見た目が有名メーカーの製品に似ていても、強度不足だったり、耐久性が乏しい(そもそも耐久試験をおこなっていない)という話はよく耳にする。
最近では、フロントに中国製ウェーブディスクを装着してハンドルが振られたため、まともなディスクに交換したところ、おさまったという事例があった。
旧車の場合、大半がブレーキを引きずっていることが多い。ブレーキに不満がある場合、キャリパーピストンが正常に動作しているかどうか、ディスクローターやブレーキパッドの減り、ブレーキフルードの劣化をまず疑ってみよう。
ブレーキフルードが交換されていないケースも多々、ある。
固着したブレーキキャリパーのピストンをオーバーホール
ブレーキ強化のメリット
ひとことでいうと、圧倒的な制動力とコントロール性の高さだ。
「ブレーキの強化」というと、すぐにブレーキがロックして扱いづらくなる印象があるかもしれない。ブレーキングに対する慣れや、好みもあると思うが
ブレーキレバーで利きを自由自在にコントロールできて、その気になれば指2本で急制動が可能
といった感じ。(手が大きい人なら指1本でも可能だろう)
筆者のCB125Tは142cc化して、高速道路も走っているが、100km/h以上からの急制動も難なくできる。感覚的には教習所の30km/hからの急制動と同じ。
レバーの入力で強弱を調整できるため、絶対的な安心感があるのだ。
いつでも自由自在に、思いどおり減速できるというのは、何が起きるか分からない公道を走る上で、おおきな安心感につながる。これは高速道路を走るとか、飛ばす飛ばさないとは関係ない話。
公道だと、どこでも否応なく、急制動や緊急回避を迫られる事がある。
もし、筆者がノーマルブレーキのCB125Tに乗り続けていたら、もっと早く降りていただろうし、決してボアアップしようと思わなかったに違いない。
6万キロ以上にわたって乗り続けられた要因は、ブレーキによるところも大きい。
ブレーキングが怖いどころか、楽しくて仕方がなかったからだ。
絶対的な制動力でいうと、3万キロ以上走行して摩耗したフロントタイヤであっても、フロントブレーキだけで十分、減速できる。(リヤのドラムブレーキを一切、使わなくても不足はない)
35,012km走行したフロントタイヤ「ミシュラン パイロットアクティブ」(バイアス)
タイヤの摩耗状態はどの程度ブレーキに影響する?
検証のためロングランテストをおこなった。
フロント:ミシュラン PILOT ACTIVE/リア:ブリヂストン BT45
新品のフロントタイヤを100%とした場合、はっきりとグリップ感の低下を実感したのは1万キロを超えたあたり。2万キロになると、ドライコンディションでも性能低下を感じるし、制動距離も明らかに長くなる。
2万キロを超えると、さすがに新品タイヤのようにピタッと急制動することはできなくなる。
ただ、マージンをとって走行すれば問題ないし、怖い思いをすることもない。では、もっと距離を重ねて、
3万5,000キロ走行したタイヤ
整備された純正ブレーキ+きちんと山のあるタイヤを履いたCB125T
を比較するとどうか?
ブレンボを装着して、3万5,000キロ走行したタイヤを履いているCBTに軍配が上がった。
圧倒的に制動力もコントロール性もちがうため、いくらタイヤが摩耗しているとはいえ、純正ブレーキの比ではないというのが結論。
(これはあくまでテストなので、タイヤはきちんと交換しましょう)
ブレーキ強化のデメリット
強いて言うなら、コストがかかること。
しかし、事故に遭ったり、怪我したり、命の危険にさらされるリスクを考えれば、安いと思う。
(もちろん不満がなければ、変える必要はない)
ブレーキを強化する場合、サスペンションやタイヤと、トータルで考えることが大事。
インプレッション
とくに説明がない限りCB125Tの話。
(ボアアップした状態での話は、CB150Tと表記している)
エンジン
CBシリーズの元祖CB92の流れを組むCB125Tのエンジンは設計こそ古いが、
CB750F、CB900F、GPZ750F、ゼファー400、GSX400E、CBR1000RR、CBX400F、CBR400F、ZRX400、GPZ1100F、CBR250RR(MC22)、XJ750E、Z750FX・・・etc.
などと比較しても、しっかりしたエンジン。
ガソリン添加剤、カーボンクリーン、マフラーのカーボン除去、エンジンオーバーホール(2回)
・・・いろいろ経験した。
「なにをすべきで、なにをしないほうがいいのか?」
筆者の考えは、すでにほかの記事で述べているとおりだ。
ボアアップ後の走行インプレッションはこちらの記事に掲載している。
オーバーヒートだけじゃない油温の注意点
オーバーホールに持ち込まれるエンジンを70基以上みていると、空冷エンジンのオイル漏れはめずらしくない。
(筆者のエンジンを除いて、CB125Tのエンジンは2基オーバーホールに立ち会っている)
筆者のCB150Tもシールの劣化により、オイル漏れ(要修理レベル)が発生したことがある。ただ、オイルにじみや、オイルの減り、マフラーからの白煙はなかった。
CB125T購入当初、気になったのは夏場のオーバーヒート。
しかしエンジンオイルの銘柄を変えたり、乗り方を工夫することで解消された。油温計を取り付けて通年、モニタリングしていたが、オーバーヒートしたことは一度もない。
むしろ、寒い時期はオーバークールになる傾向があるため、オイルクーラーの取り付けは見送った。
オイルポンプが純正のままだと、油圧が低下し、トラブルを招くことがあるからだ。
CB400SF(キャブ最終型) VS CB125T 油温上昇テスト
冬場、エンジンが完全に冷えた状態でテストを実施。同時にエンジンをスタートさせ、それぞれ油温計で、油温の上がりぐあいをモニタリング。
エンジンスタート後、数十秒で40℃まで上昇するSFに対して、CB125Tは10℃から20℃までなかなか到達しない。
また同じく冬場にCB125Tで、適正油温までの到達時間をテスト。エンジンを始動して暖気後、20℃で走行。油温に合わせて、徐々にエンジンの回転を上げていくと、およそ30分間の走行で75〜80℃に到達。
(外気温が低い場合や、雨天時はそれ以上かかることも)
通年、油温をモニタリングした結論として、CB125Tはオーバーヒートよりも、オーバークールに注意すべきだと思う。
なかなか適正油温まで上がらない=「オイルが冷えて硬い状態の時間が長い」ということ。ついエンジンを高回転まで回したくなっても、(エンジンを長持ちさせることを考えると)グッと我慢しなくてはならない時間も長くなる。
油温計をつけるメリットや意味については、下記の記事でくわしく書いているので参考にしてもらいたい。
CB125Tはオイルフィルターが存在しないため、とくにオイル管理(油温管理含む)が重要になる。
エンジンを長持ちさせたいなら、良質なエンジンオイルを使用する、定期交換する、油温管理することが大事。
エンジンの耐久性は?
一般的には、走行距離で判断する人が多いようだ。
ところが実際に修理に持ち込まれるエンジンは、実走行で2万km未満もめずらしくない。逆に6万km以上でも比較的、状態のいいエンジンもある。
「走行距離が長くて、ピストンやシリンダーが摩耗したからエンジンを修理しなければならない」
というケースはむしろ少数派。もっとその手前の段階で壊れることのほうが多い。
歴代オーナーや、現オーナーの扱い方や、日々のメンテナンスによるところも大きいが、古いバイクほど、経年劣化や、加工精度・組み立て精度が良くないという理由もある。
CBTエンジンのつくりが、しっかりしているという根拠は以下の記事を読んでいただくと、お分かりいただけると思う。
CB150TにWPC処理
ボアアップして高速道路を走るようになったのを機に、純正新品オイルポンプに、WPC処理をほどこしたものに交換。
WPC処理の恩恵かどうかは不明だが、エンジンがいつもより+500rpmよく回るようになった。
燃費
125cc/142cc、純正エアクリーナー・パワーフィルターに関係なく、リッター35km前後。
高速道路をふくめても、30kmを下回ることはなかった。
メーター・スイッチ類
メーターデザインは好みが分かれるところだが、筆者が気になったのはデザインよりもメーターランプの暗さ。
昼間だと、ニュートランプが点いているかどうか、ほとんどわからないことが不満だったので、LEDに交換。
(製品名は失念したが中華製 10個セットで約1,000円ほど)
交換はメーター裏から電球を変えるだけなので簡単だ。
おかげで真っ暗な山の中でも十分な明るさになった。
CB125Tのウィンカーはプッシュキャンセル式でパッシング機能付き。
ヘッドライトは、250ccクラスと同じ規格。例えば「M&Hマツシマ B2クリア」を使うと、とても明るい。夜中の箱根峠も難なく走れる。
各種テストを行うためデイトナ製のデジタル油温計(兼 電圧計)、軽二輪登録にともなってハザードスイッチを装着。
(ハザードスイッチも、たしかデイトナ製だと思う)
失敗事例:純正・中華製ヘッドライトとLED化
当初、純正ヘッドライトを使用していたが、経年劣化でライトのケースが歪んで使用不可に。
オークションで中華製の純正風ヘッドライトを購入。
これはハッキリ言って、失敗だった。
中華製ヘッドライト(一応ライトバルブ付き。ただし暗い)そのものは3000円ぐらいだが、バルブが特殊(ジレラなど外車と同じ形状)なので高い。
バルブ代がヘッドライトと同等か、それ以上の価格になる。
また中華製は、配線が純正とちがってアバウトで、造り自体が簡素なため、2年ほど使用して使えなくなった。
その後、ライトの中を中華製LEDに変えてみたが、やはり短命に終わった。
CB125T以外にも数多く、ヘッドライトを交換したり、LED化したバイクを見ているが、中華製のクオリティはどれも似たり寄ったりでお勧めしない。
電装系は日本製を使用したほうが無難だ。
前後サスペンション
フロントフォークは、車格のわりに柔らかい印象を受ける。
これは筆者のCBTだけではなく、さまざまな年式のCB125Tを複数台、試乗した上での話。
フロントフォークについては別の記事で詳しく解説しているので参考にしてもらいたい。
リンク式リアサスペンション(プロリンク)は、肝心のリンクが固着しがち。
筆者のCBTも例外ではなかったので、一度グリスアップして、柔らかすぎるリアサスペンションを純正新品に交換した。
しかし年間1万キロ以上、走行する筆者の場合、わずか2年で純正リアサスは寿命を迎えることになった。
その頃には廃番になっていた。
中古で購入(ほどなくしてリアサスが抜ける)→
純正新品リアサスペンションに交換、リンク周りグリスアップ→
本来のコーナーリング性能を取り戻す→またリアサスが寿命を迎える
・・・山と谷の両方を経験した。
結局、YSSと共同開発でCB125T JC06専用のリアサスを製作・販売する事になった。
余談になるが、当初はワンオフでリアサスペンションを製作するつもりだった。海外の有名サスペンションメーカー出身の人たちが興した会社で、たしか50万円〜ぐらいで製作できるとのことだった。
しかし、リッターバイクならともかく実験車両のCB150Tに、50万はオーバースペックすぎる(むしろ、ほかの実験に予算を回したい)ので見送った。
結果としてYSSサスペンションに出会い、筆者が開発やテスト、プロモーションをおこなうことになった。
その後、VT250スパーダ、CBR250RR MC22用、NSR250R MC18、TZR50用リリースにも携わることになったし、これまで250名以上の方にYSSサスペンションを提供してきた。
私たちが想像するよりも多くの方に喜んでもらえたので、ワンオフサスをつくるより、むしろよかったと思う。
ついでに、構造的に固着するプロリンクをフルベアリング化することにした。
F.B.S.S.のネーミングは半分ジョークだが、機能はすばらしかった。
YSSのリアサスはもちろん、プロリンク改良も、とても満足度の高いものだった。
タイヤ
筆者が購入した当時は、バイアス ハイグリップタイヤ TT900GPが前後に装着されていた。
タイヤは好みや用途で選べばいいと思うので、こちらの記事を参考にしてもらいたい。
キャブレター
整備性という点で、CB125T最大の難所がキャブレター脱着ではないだろうか。
フレームの形状ゆえ、取り外しにくい。
キャブレターの脱着や、リアサスペンションの調整をおこなうたびにエアクリーナーボックスを取り外さなくてはならない。エアクリーナーボックスが、バッテリー置き場になっているからだ。
筆者のCB150Tはリアサス開発にともない、パワーフィルターを装着することにした。頻繁にエアクリーナーボックスを脱着する必要があって、面倒になったからだ。
パワーフィルター装着により、バッテリーケースをワンオフ製作。
CB125Tの純正キャブは、バイク全体で見ても、セッティングがかなりシビア(繊細)な部類に入る。セッティングパーツが皆無なので、なおさらだ。
余談だが、過去に有名メーカーによるCB125T用 キャブセッティングパーツが存在した。
ただ、年式によるキャブの違いを知らなかったのか、筆者の最終型では使えなかった。その事をメーカーに指摘したら、全額返金となりその後、CB125T用はラインナップから外れてしまった。
筆者としては返金よりも、開発してほしかったのだが・・・。
→2024年、再販されたようだ
ガソリンコック
ボアアップに際し、ガソリンの流入量が不足していたため、純正フューエルコックをレース仕様に改造してもらった。
というのも、いくらメインジェットの番手も上げても、まったく濃くならなかったからだ。もちろん二次エアは吸っていないし、キャブレターは純正新品だった。
なお、シンガポール仕様(逆輸入車)をボアアップした際は、とくにガソリン流入量に不足はなかった。
コックのON・OFF機能がなくなった(リザーブ機能も無いため、ガス欠に注意する必要がある)。
アタッチメント式のため、白い部分で簡単にホースを脱着できる。タンクの脱着が容易になった。
(ガソリンフィルターはヒロチー商事製)
未確認ではあるが、CB400SF(年式は不明)のフューエルコックが、CB125Tに適合するという情報がある。
要は、ガソリンタンク側に取り付けるネジのサイズが合えば、コックを取り付けることは可能だ。
電装系・スイッチ類
CB125Tに限った話ではないが、濃くなる(かぶりがちになる)傾向が多いのは旧車の場合、エンジン以外に電気系統が劣化して、プラグの火花が弱くなっている影響もある。
中型・大型バイクの場合、ウオタニSPを使用する人が多い。
濃くなる原因が点火系に起因するものであれば、解消されるケースが多々ある。
昔から点火系パーツは存在するが、いろいろと試した人たちが、最終的にたどり着いて満足するのはウオタニSPだと思う。
なぜなら、某有名な点火系パーツを装着しているバイクが入庫して、ウオタニSP装着後、満足げにしているケースを、いくつも目の当たりにしているからだ。
電気技師の方いわく、「(旧車は)メインハーネスを新品に交換するのがもっとも確実で効果がある」との話だが、さすがに純正新品は廃番になっているかと思う。
レストアされる方は、余裕があれば交換したほうがいいかもしれない。
(一時的に純正新品のメインハーネスが再販されていましたが、当記事で紹介した直後、品切れになりました)
CB125Tにかぎらず、パルスジェネレーターや、ステーターコイル、イグニッションコイル、CDIなどは比較的、経年劣化により故障しやすい。
(20年〜40年前の旧車修理で多い故障箇所)
比較的、交換しやすいものとしてはプラグ、プラグキャップ、プラグコード、イグニッションコイル。
いずれも消耗品なので、必要に応じて交換するといい。
ハンドルの左右にあるスイッチボックス(ウィンカー側/セル側)は、錆による接触不良が起こりやすい(CB125Tにかぎらない)。
コンタクトスプレーで復活することもあるが、中の部品が摩耗すると交換が必要だ。
ウオタニSP装着
これは筆者ではなく、ガレージ湘南でエンジンをオーバーホールしたCB125T(逆輸入車)の話。
始動性の向上が目的だ。
装着後、劇的にエンジンのかかりがよくなり、エンジン冷間時の始動で長々と暖機運転をしなくても、走行できるようになったそうだ。
CB125Tに装着しているのは初めて見たが、CB750F/900やカワサキ空冷Z、GSXやXJでは、ウオタニSP装着はめずらしくない。
むかしから、電気系チューニングパーツは存在するが、さまざまなメーカーの部品を試した結果、最終的に選ばれているのがウオタニ、という印象がある。
(実際に現場を観ているかぎりでは)
故障事例
「修理や交換しなくてはならなくなった」という事例を紹介する。
・レギュレーター
納車されて間もなく、夏場に壊れたため新品交換。経年劣化や、熱によって故障する。(レギュレーターはたしかGB250クラブマンなどと共通だったと思う)
・ニュートラルスイッチのセンサー
ニュートラルランプが点きっぱなしになる。
・クランクオイルシール交換
経年劣化やボアアップ(高速道路走行)の影響もあるかもしれないが、オイル漏れが発生。最終型でも製造から20年以上経過するため今後、ごく当たり前に起きると思っておいた方がいい。
・エンジン
圧縮不良。カーボンクリーンが悪影響を及ぼした可能性が高い。
・LスイッチASSY交換
ヘッドライトが点かなくなった(パッシングのみ点灯)。
エンジンオイル、フロントフォークオイル、ブレーキ液・パッド、タイヤ、クラッチ、ヘッドライトやウィンカーバルブ、各種ベアリングなど、日常メンテナンスや比較的、交換頻度の高いパーツをのぞけば、これぐらい。
(実際はレストア状態にするため、数え切れないほどの部品を交換している)
旧車の注意点
筆者のCB125Tでは経験はないが、1980年代から2010年あたりの旧車によくある故障が電気系統。
パルスジェネレーター(ピックアップコイル)や、オルタネーター(ステーターコイル)、レギュレーターなどだ。
とくに厄介なのがパルスジェネレーターで、純正部品は廃番。社外品もない。中古品は高騰していて、落札しても壊れていたりする(もちろん返金や交換不可。詐欺も多い)
CB125Tは中華製が出ていたと思うが、これは例外中の例外。
「ほしいバイクが旧車しかない」「安いから中古車を買う」いろいろな人がいると思うが、壊れたら修理不可能なバイクも存在するという事は、知っておいた方がいいだろう。
そして、買ったあとで気づくより、買う前に調べておいた方が賢明。状況は日々、変化しているのでじぶんで最新情報を調べることをお勧めする。
参考記事:旧車の部品供給
https://garage-shonan.wixsite.com/info/bikeparts
ちなみに筆者が旧車を検討する場合、まずパーツリストを入手して、部品の供給状態を調べることにしている。(結果的に購入を見送ったケースも数多くある)
未完だからこその楽しさ
未完というと、CB125Tの設計者に怒られてしまうが、全体的にバランスが良く、1台でツーリング、市街地走行、峠など、いろいろな用途に対応してくれる懐の深さがある。
きちんとメンテナンスされた車両であれば、ふつうに走る分には十分だと思うし、筆者のように、気になった箇所をカスタムするだけの「余地」も残されている。
そういう意味で、CB125Tは未完のスーパースポーツだ。
実際、1982年(JC06モデル)の発売以来、生産終了までおおきな仕様変更がなかった。
(時代背景として、市場のメインとなる排気量が125ccから中型以上にシフトしていたことも、影響しているかもしれない)
CB125Tはプロダクションレーサー
あくまで筆者のイメージだが、CB125Tはプロダクションレーサーだ。
プロダクションレーサーとは
NSF250R、RS250、TZ250といったメーカーが製作・市販しているレーシングマシンではなく、公道用の市販車を、レース用に改造したレーシングマシンのこと。
例:80年代のAMAスーパーバイク、現在のテイスト・オブ・ツクバ
「スーパースポーツ」のくだりで触れたように、日本国内において、2サイクル50cc(RZ、MB、AR)がレースの主流になる前は、CB125TやCB125JXなど、4サイクル125ccがレースで使用されていた。
各社とも、まだ手探りでバイクづくりをしていた時代だ。
そんな時代に生まれたCB125Tだからこそ、手を加えて遊べる余地が残されていると思う。それに超高額な「絶版車」とちがい、リーズナブルにプロダクトレーサー「ごっこ」が疑似体験できてしまうのも、魅力のひとつだ。
プロの優先順位
筆者は整備・修理に持ち込まれたバイク(スクーターから時価1000万円のバイクまで少なくとも100台以上)を観察しているが、外装やエンジンなど、ほかの部分にこだわる反面、基本的なメンテナンスがおろそかになっているバイクが多い。
たとえばタイヤの空気圧。
新品タイヤでも自然に空気は減るし、古くなったタイヤ、摩耗したタイヤはなおさらだ。ツーリング前や、せめて1ヶ月に回はタイヤの空気圧を確認したほうがいい。
チェーンのたるみとあわせて、多くのライダーが見落としがちな部分だ。
逆にプロや、プロに近い上級者ほど、ステアリングやサスペンション、ブレーキ、タイヤ、チェーンなど、基本的なメンテナンスを重視している。(外装は二の次といった感がある)
洗車したりピカピカに磨くのも悪くはないが、各部の点検を怠らないようにしたいものだ。