YSSリアサスペンション購入者で、フロントフォークをオーバーホール、セッティングされる方向けのアドバイスです。(公道向け)
リアサス交換後、まずは100から200kmほど走行してください。
(タイヤの空気圧チェックを忘れずに)
体が馴染んできますから、もしフロントフォークのオーバーホールをおこなうなら、それからがいいでしょう。
一度に2つ以上変更すると、なにがどういう影響をおよぼしているか、判断しにくくなるからです。それに交換直後と、慣れてからだと、最初と印象が少し変わってくることがあります。
フォークオイルの粘度や、油面はサービスマニュアルのメンテナンス情報が基準となります。
ただ、フォークスプリングがへたっていたり、ライディングスタイルや、走行シーンによっては、必ずしも標準値がベストとは限りません。
あくまで一つの基準と考えたほうがいいでしょう。
もし、一度もフロントフォークオイルを交換した事がなければ、まずは標準値でいいと思います。
それでも柔らかい(硬いという事は、ほぼないと思います)と感じるなら、油面やオイル粘度を変えてみるといいでしょう。
フロントフォークオイルは意外な盲点
一般的に車検のあるバイクでも、何十年もフロントフォークオイルが交換されていないケースはめずらしくありません。整備済み中古車の場合でも、交換されていなかったりします。(別料金)
ライダー自身、オイルが劣化しても、すぐ走行不能になるわけではないため、気づかずにそのまま乗っている事が多いです。ダンパーの抜けたリアサスを交換するのと同様、フロントフォークをオーバーホーすると、走行フィーリングが良くなる事におどろかれます。
フロントフォークの内部部品
フリーバルブ式フロントフォークの内部パーツ。写真はNS-1です。


シール、ワッシャー、クリップ、ピストンリングは交換。スプリングについては、使用限度に達していたら交換を推奨します。
では次に、フロントフォークオイル粘度や、油面によってバイクの挙動がどのように変化するのか?
について解説します。
オイル粘度による変化
フォークオイル粘度を変えると、ズバリどういう変化が起きるのか?
かんたんに言うと、フロントフォークが伸び縮みする際のスピードが変わります。
たとえば、時速60キロでブレーキをかけた時、粘度が高くなるほど、(抵抗が増えるため)ゆっくり沈むイメージです。逆に粘度が低いと、抵抗が減るため、伸び縮みするスピードが早くなります。
またフォークオイルが劣化している場合も、粘度低下により急激に伸び縮みするようになります。
フロントフォークオイルにはさまざまな粘度があります。
例:#5、#10、#15・・・
番手が大きくなるほど高粘度(硬いオイル)になります。
A社 #10
B社 #10
「同じ番手だから、どっちも同じ硬さだろう」
と思いますよね。ところが、フォークオイルはちょっとややこしい事になっています。
どういうわけか、製品ラベル上の番手が同じでも、実際の粘度はメーカー各社で異なるのです。エンジンオイルのように規格が統一されていないんですね。
SAE粘度表示があったり、なかったり、正立・倒立用の用途指定があったり、なかったり・・・
私たち消費者側にとって、ひじょうにわかりづらい状況になっています。
いずれにせよ、標準と異なる粘度のフォークオイルを使用する場合、最初はおおきく粘度を変えすぎないほうが無難です。
油面による変化
油面が高い(オイル量が多い)と、フォークが沈んだ際、底付きしにくくなる傾向があります。
逆に油面が低い(オイル量が少ない)と、フォークがめいっぱい沈む傾向になります。
50cc〜125ccなど小排気量クラスは比較的、フォークオイル量が少なく、フロントフォークは柔らかい傾向にあります。フォークオイルが劣化した場合、フロントフォークが底付きしやすくなります。
つまり、フロントブレーキをめいっぱいかけた時、フロントフォークがフルボトムしやすくなるわけです。
フルボトムしている時に、路面の凹凸などを通過すると「ガシャン」という衝撃がライダーに伝わってきます。雨天時など、路面状態によっては転倒につながります。
このような場合、油面を高くして、沈み込む量(フルストローク量)を調整します。
これを油面調整といいます。
油面調整と粘度調整の使い分け
さきほどのオイル粘度と合わせて考えると、
「伸び縮みするスピードは変えなくていい。フルストローク時のフィーリングを変えたい」
このような時は油面調整をおこないます。
またフルストローク時のフィーリングは良いけど、サスペンションが伸び縮みするスピードを変えたいという場合は、オイル粘度で調整します。
この場合も、やはり標準値から大きく油面を変えすぎないようにしてください。
では実践編ということで、具体例を紹介します。
事例1 油面調整
フロントブレーキを強化したCB125T(CB150T)

【カタログスペック】■空冷4サイクルOHC2バルブ2気筒 124cc 最高出力15PS/11,000rpm 最大トルク1.0kg-m/8,000rpm 変速機5段リターン ■燃料タンク14L ■ブレーキF:ディスク R:ドラム式 ■車両重量139kg ■シート高770mm

フロントディスクCB750F用流用(ディスク大径化)、ブレンボ4ポットキャリパー+ワンオフキャリパーサポート

ブレンボ製ラジアルポンプ式マスターシリンダー
フロントブレーキを強化したが、純正フォークスプリングが劣化していることもあって、フルブレーキングのたびにフルボトムに近い状態になっていた。
フロントフォークをオーバーホールする際、粘度は変えずに、油面を上げてもらう事でしのいだ。

事例2 粘度・油面調整

フォークオイルが劣化していることもあって、フルブレーキングすると、完全にフルボトムしていたLEO120SE。
(ブレーキはノーマル)
ちなみに、この時点ではリアサスペンションは完全にダンパーが抜けきっている状態。つまり前後とも、フワフワで安定感のないバイクだった。
粘度40.27のオイルを使用し、油面も高めにしてもらった。
これは実際にフォークを動かして、硬さを確かめながら調整していった。
しっかり加速した状態からのフルブレーキング、という筆者のライディングに合わせてもらっているので、おそらく、ほかの人が同じバイクに試乗すると、ブレーキが利きにくい、乗りにくいと感じると思う。
実際、20km/hなど低速域だと、もう少し粘度が低いほうが乗りやすい。しかし、低速域での乗り心地よりも、高速域での扱いやすさを重視したため、こうしたセッティングにしている。
もし、これが大阪市内なら(高速コーナーは皆無。短いストップ・アンド・ゴーが多い)、同じセッティングにはしない。乗りにくくなるからだ。

速度とギャップの深さによって当然、サスペンションの動きは変わる。
サービスマニュアルが無いバイクだと、経験がものをいうと思う。LEOはロードレース国際A級ライダー、元モトクロス国際A級ライダー立ち会いの下、アドバイスをもらいながら調整していった。
フロントフォークセッティング
「セッティング」というとおおげさですが、粘度や油面を調整するにあたって、手順や考え方をシェアします。
※話をシンプルにするため、イニシャル調整、フォーク突き出し量は割愛します。
ステップ1:現在の状態を知る
ふだん走っていて、不満に感じたり、怖いと思うときはどんな時か? 「もし、こうだったら、もっと走りやすいのにな」と思う事はどんなことか?
これらを紙に書き出します。
次に、フロントフォークの沈み具合をチェックします。フルストロークした時の状態です。
つまり、いつもどおり走っていて、どこまでフロントフォークが沈んでいるか(ストロークさせているか)を知るという事です。

インナーチューブにタイラップを取り付け、タイラップの位置でフルストローク位置をチェックしています。
ステップ2:方向性を決める
数字と、自分の感覚の両方を認識したところで、どうするかを決めます。
LEOの場合
1,フロントがノーズダイブするので、それを解消したい
2,フルブレーキング時、フロントフォークの沈み込むスピードが急すぎる
1が油面、2を解消するのが粘度でしたね。
どの程度、硬くしたり、油面量を増やすかについては、突き詰めるとライダーによって変わってくると思います。そこまで突き詰めなくていい場合、メーカー標準値を基準に、少しだけ変えてみるといいです。
この時、ブレーキや、タイヤとセットで考慮してセッティングすることが大事です。
たとえば、筆者のCB125Tみたいにブレーキを強化した場合、急激にフロントフォークが沈むようになります。
またVT250SPADAのブレーキホースだけをステンレスメッシュホースに交換した場合、やはりフロントの沈み込むスピードが速くなります。
この場合、標準値より粘度を高くしたほうが乗りやすくなると思います。(筆者の感覚ですが)
ちなみにフォークオイル交換後のLEOは、フロントかなり硬め。ブレーキがフルノーマルなので、ホースをステンメッシュに換えると、硬さ的にちょうど良くなると予測しています。
できないこと
粘度調整や、油面調整はある意味、ONかOFFかの二者択一になります。
「フォークが沈み始める最初だけ柔らかくして、もっと深く沈んだところは硬くしたい」という微調整はできないのです。油面や粘度を変えると、全体(高速・低速の伸び側・縮み側)が一緒に変わります。
そのためスポーツモデルのフロントフォークには、イニシャルアジャスター(イニシャル調整機構)が付いていたり、よりスポーティーな走行向けのフォークスプリングや、バルブなどのパーツが販売されています。

より細やかなセッティングができるようにするためのパーツです。
パーツを交換する場合、最もベーシックなのは(フロントの場合)フォークスプリングの交換です。
ただ、「いきなりそこまでやるのは敷居が高い」という場合、油面や粘度を変えるだけでも、変化を感じられますよ、というのが本記事でお伝えしたい話。
一般的にサスペンションに着目するというか、こだわるライダーは少数派です。
サスペンションを気にするライダーの多くは、オフロード経験者や、レース経験者がほとんどだからです。
ただ、サスペンションは一部のライダーだけしか分からない(体感できない)特殊なものではなく、公道をふつうに走るライダーであっても変化は十分、感じられます。
知れば知るほど、より楽しく安全に走れることは間違いないと思います。
完ぺきを求めすぎない
何事でもそうですが、あまり完ぺきを求めすぎないようにしましょう。
たとえばの話、「低速、中速、高速すべてのコーナーで、路面にどんなに大きなギャップがある場所を走っても、全部おなじように気持ちよく乗れるようにしたい!」と思っても、無理があります。

上記の記事の開発の話で触れていますが、あるていど照準を絞ってセッティングしていくので、矛盾をいかに妥協させるか、どう着地させるかが、セッティングです。
相反するものを、いかにバランスをとるか。
ビジネスでたとえると、価格設定と製品クオリティに似ています。
自然栽培で、新鮮な無農薬野菜を豊富につかったオーガニック料理で、おいしくて、見た目もきれいに盛りつけられていて、ボリュームもあって、ワンコインで食べられる定食。
矛盾してますね。
ちゃんとした無農薬野菜は必然的に高くなりますし、料理だって同じです。でも高すぎると、売れにくくなります。つまり良い製品だから売れるとは限らないわけです。
また一般的に、価格を安くすれば売れやすくなりますが、利益が減ります。
企業にとって利益は人間の血液と同じなので、利益が少ない=経営が続かないという事になります。
人間だって同じです。男性でも女性でも、パーフェクトな人っていないでしょう?
一見、なんでもできて完ぺきそうに見える人はいるかもしれませんが、見た目、性格、精神性、スキル、経済面、健康面・・・全ての要素を兼ね備えている人って、いないと思うんですね。
あまりにもパーフェクトだと、周囲の人が近寄りがたかったりします。
なのでバイクのセッティングも、あんまり完ぺき主義というか、神経質になりすぎないほうがいいと思います。
優先順位を決める
たとえば、自分がふだんバイクで走っているシーンの割合が「市街地走行95%以上/峠5%以下」だとします。
一般的には95%の市街地走行でスムーズに走れるようにしたいと考えて、峠を犠牲にするとはいかないまでも、そこまで重要視しないでしょう。
ただ、これはライダーやバイクによって異なります。
筆者の場合、たとえ5%以下であっても峠道で最大限、楽しめるようにしたい。そのためには95%が多少、犠牲になっても構わないと考えます。(もちろん限度はあります)
つまり自分が一番、気持ちよく走りたい場所に合わせて、ブレーキやキャブレター、サスペンションをセッティングするわけです。
サスペンションに話を戻すと、あまり路面の大きなギャップにこだわらなくていいと考えます。公道の場合、そもそも無用なギャップは避けたほうがいいからです。
万一、フルブレーキング時に大きなギャップを通過した際、危険な挙動がしないレベルで良しとします。
そこで100点満点を目指そうとしません。
割合的に0.1%、あるいは0.001%以下に満たないであろう大きなギャップをどうにかしようと、躍起になってもあまり大きな恩恵が得られないからです。
サーキットではないのだから、どうしても大きなギャップを通過する場合、ブレーキをかけて、スピードを落とせばいい。自分の走り方、意識を変えればカバーできることはたくさんあります。
バイクとライダーの関係性
ビギナーほど、バイクの操作性、機能に頼らざるを得なくなる。運転に慣れていない初心者の場合、自分のライディングを変えるだけの余裕も技量もないからだ。
上級者になるほど、バイクに合わせて乗り方、走り方を変えることができる。
これは公道でもサーキットでも同じ。
前後サスペンションのバランス
サーキット走行の場合、タイムという明確な指標があります。
端的にいえば、乗り心地が良い、悪いに関係なく、タイムが縮めば正解。走行フィーリングが良くても、タイムが遅ければそのアプローチは適切ではなかったという事になります。
ところが公道の場合、タイムのような明確な指標はありません。
サーキット以上にさまざまなシチュエーションを走りますし、ライダーのライディング技術もバラバラ。免許取り立ての初心者もいれば、中級者・上級者もいます。
だからメーカー出荷時の状態は、基本的にどんな時でも万人が、(たとえば)70点以上で走れるようなサスペンションセッティングにします。
もちろん乗り心地、つまりフィーリングも重要な要素になってきます。
ただ、公道を走るぶんには良くても、サーキットでペースを上げていくと支障が出てくるため、フロントやリアのサスペンションを調整するわけです。
ちなみに公道・サーキットを問わず、前後サスペンションのバランスは、前後ともおなじストローク量にします。
具体的にはフルストロークした状態を10割とした場合、8割ぐらいまで沈むようにする。

リアサスペンションのダンパーのストローク量は、バンプラバーに届かない8割程度まで沈むようにセッティングされています。その沈む位置(ストローク位置)を調整するのがイニシャル調整です。
フロントも同じ要領でストローク量を調整します。
ただフロントは、リアほどシビアにしなくても走れると思います。
公道で300km/h、200km/hからフルブレーキングする(できる)人ってほぼいないし、そういうシチュエーションがまずないですからね。
感覚的な速さと実際の速さはちがう
GPライダーが走行して「あんまり速くないな」と感じても、タイムは速くなっていた、という事が実際にあったりします。(NSR500に乗ったミック・ドゥーハンとワイン・ガードナー)
その意味で、サーキットは感覚と実際のズレを認識しやすいといえます。
ところが公道だと、ライダー(自分)の感覚で判断することになります。自分が感じた感覚をどう解釈するか? より的確な結論を導き出せるのが、プロとアマチュアの違いだと筆者は実感しています。
なので筆者も自分の感じたフィーリングや、導き出した考えをプロにぶつけて、フィードバックしてもらってます。
そうすることでまちがった解釈をしていたり、思い違いをしていたら気づけますからね。日々、勉強です。


参考

