バイク研究 & 実践ブログ

純正リアサスオーバーホール VS 社外リアサスペンション

純正リアサスオーバーホール VS 社外リアサスペンション比較

どちらが得か、気になりますよね。

ホンダワークスチームのスタッフとして、MotoGPの世界チャンピオンマシンに関わったエンジニアの方に直接、話をうかがう機会がありました。

小澤 仁樹 YSSサスペンション
https://www.yss.co.th/newsAndEvents/153

レーシングスペシャリスト 小澤 仁樹さん

※以下、筆者による要約(意訳)

オーリンズの日本総代理店ラボ・カロッツェリア、SHOWA勤務を経て、YSSに入社。その間、数々のワークスチームや、ワークスライダーたちとともにキャリアを構築。

サポートしたライダー

MotoGP(ロードレース世界選手権)
マックス・ビアッジ選手(レプソルホンダ)
ニッキー・ヘイデン選手(レプソルホンダ)2006年 MotoGPクラス 世界チャンピオン
中野 真矢選手
カルロス・チェカ選手

https://inuiyasutaka.net/bikeblog/wsbk2022/
ニッキー・ヘイデン motoGP

レースに詳しくない方のために説明すると、MotoGP(モトジーピー)は、世界最高峰の二輪ロードレースのこと。

自動車で言うと、F1に相当します。

つまり、世界の頂点(マシン・ライダー)を知るサスペンション エンジニアということです。

これ以上、アドバイスを求めるにふさわしい人物はいないでしょう。

早速、本題に入りますが、

・1980〜90年代のバイクの純正リアサスペンション

・現代のリプレイス リアサスペンション(いわゆる社外品)

を比較した場合、圧倒的に現代のサスペンションに分があるそうです。

「現代のリプレイスリアサスペンション」とは?

現行モデルの社外サスペンションのこと。中華製などの安物は含まない。

あくまで有力サスペンションメーカーの製品と、純正品を比較した場合の話。
例:SHOWA、KYB(カヤバ)、YSS、オーリンズ、WPサスペンション、Bitubo

有力メーカーの根拠はこちらの記事で解説している。

「もし、(プロである)自分自身がどちらかを選択する場合、わざわざ設計の古いリアサスペンションをオーバーホールする選択肢は考えられない」

そのように話されていました。

もちろん、この結論にいたる理由があります。

たとえば、タイヤは「3年周期で進歩している」と言われています。

同じく、エンジンにしてもブレーキにしても、あらゆる部品が進歩しています。事実、現代のリッター スーパースポーツバイク(市販車)は、むかしのレーシングマシンよりも速いです。

にもかかわらず、サスペンションだけが昔のまま変わっていない、なんてことはあり得ないですね。

それはレース向けのハイスペック サスペンションだけの話ではなく、ストリート向けのサスペンションだって同じです。

金額的な面で「純正リアサスペンションをオーバーホールしたほうが安くつくのでは?」と考えるのは、筆者も経験しているので理解できます。

ただ、実際にはオーバーホールしたからといって、新品と全く同じ状態になるわけではありません。

目次

オーバーホール費用の真実

サスペンションをオーバーホール(分解・整備)する場合、劣化すればするほど、新品のコンディションに近づけるためには高額な費用が発生します。

YSSリアサスペンション 分解
分解したMG456(2018年)

レーシングリアサスペンションを構成するパーツ

たとえば

A 20,000km走行したリアサス
B 50,000km走行したリアサス

まったく同じ条件で両者を比較した場合、5万キロ走行したリアサスのほうが、痛みが激しいことは想像できると思います。

そのぶん、交換する部品の数が増えて、部品代がかかります。

オーバーホール費用が高くなるわけです。

C 50,000km走行したリアサス(オーバーホールなし)
D 70,000km走行したリアサス(15,000kmごとにオーバーホール)

おなじく、同条件でCとDを比較した場合、こまめにメンテナンスしたDのほうが、(たとえ走行距離が長くても)状態は良い、ということが想像できますね。

一般的にリアサスペンションのオーバーホール料金の最低ラインは20,000円とか、30,000円ぐらいの金額が提示されています。

ただ、これはあくまでサスペンションの状態が良い場合の話だと思ってください。

メンテナンスせず、何年も使い倒していたり、メッキが錆びていたりすると、再メッキが必要になったり、交換しなければならない部品が多くなります。

古いサスペンションの場合、交換に必要な部品が無く、新たに作らないといけないケースもあります。

結果、オーバーホール費用で新品のリプレイス リアサスペンションが買える金額になったりします。

逆に、状態が悪いにもかかわらず、低予算ですませる場合、100%にはほど遠い仕上がりになるばかりか、走行してしばらくすると、オイル漏れが発生することがあります。

価格ありき→金額に見合うだけの作業しかできないため、金額相応の仕上がりになる

100%に限りなく近い状態にする→状態によるが、それなりの費用と時間がかかる

決して「オーバーホール費用が高いのは、そのショップが有名だから」

ではないんですね。

住宅のリフォームと同じで、安いものには安いだけの理由がちゃんとあるわけです。

ショップによってクオリティが異なる

1,作業をする人の知識と経験
2,どこまでやるか(範囲、予算)
3,どのようにやるか

同じ「オーバーホール」でも、作業内容や、やる人によってクオリティが異なります。

オーバーホールの定義も、ショップによってちがいます。

安易に仕事だけ受注して、肝心のクオリティは・・・というショップもあるので、えらぶ際は注意が必要です。

こうした背景を知らないと、表面的な金額だけで比較して、後悔するリスクが高くなります。

(エンジンのオーバーホールと同じ)

純正サスをオーバーホールしても100%にならない理由

さきほどは費用の話。

ここからは、物理的な話をわかりやすくお伝えします。

分解することを前提に作られていないリアサスペンションを強引に解体した場合、その時点で元の状態(100%)に戻ることはありません。

純正サスペンションには分解可能(オーバーホール可能)なものと、分解不可なものがある。

たとえば非分解式のサスペンションを切削したり、溶接した時点で、もう100%には戻らないわけです。

それに手間がかかる分、費用もかかります。

そこまでやったとしても、現代のリプレイスサスペンションに性能は劣るわけです。

「にもかかわらず、高いお金を払ってまで、何世代も前の純正リアサスペンションをオーバーホールする意味はあるのか?」

このように考えた場合、(前出のプロは)「やるメリットがない」と判断するわけです。

もちろん、世の中にはオリジナルパーツにこだわる人がいる事も、理解しています。

そういう方でも、たとえばタイヤは、現代のテクノロジーで作られた製品を履きますね。20年、30年前に製造された古いカチカチのタイヤを履かないはずです。

ブレーキパッドや、ブレーキフルード、エンジンオイルも現代の製品を使いますね。

だったら、「サスペンションだけ設計の古い純正にこだわる理由はないのでは?」と筆者は思います。

以上の話を踏まえて、あなたはどう考えますか?

Q.程度の良さそうな中古の純正リアサスはどうなのか?

「オークションで良さげな中古を手に入れたら、いいんじゃないか」

これも多くの人が考えることです。

先に結論をいうと、「旧車で程度のいい中古サスペンションは期待できない」と考えておいたほうがいいでしょう。

中古パーツの注意点

エンジンパーツは、摩耗状態で再利用の成否が決まります。クリアランスや摩耗状態が規定の範囲内かどうか。

ですから比較的、見た目が良さそうでも、全く使えない事がよくあります。見た目(外装)だけをきれいにして、実際には使用できないものを平気で出品する(不具合を隠す)、悪質な出品者も増えています。

プロがおこなうバイクエンジンの焼き付き修理方法とオーバーホール料金

上記はエンジンパーツの話ですが、サスペンションもおなじです。

海外オークションでも、見た目だけマシ?な古いリアサスが出品されていて、海外のサスペンションプロショップが「中古品を信用しないで!」と警鐘を鳴らしていました。

それを見た筆者は「国がちがっても、人間のやることは同じなんだな」と、思わず笑ってしまいました。

そもそもサスペンションの程度が良いか悪いか、見た目でわかるのは外観だけで、中身まではわかりません。

(ダンパーやバネの状態を計測している出品者、見たことありますか?)

中古リアサスペンション オーバーホール WP
SHOXWORX

走行距離2万km以上、KTM390アドベンチャーのWPリアサスペンション

ちなみに、オイルは経年劣化により、徐々に酸化します。

つまり、走行距離が少なくても、サスペンションオイルはへたっていくわけです。それが20年、30年も経つと、どうでしょう。

奇跡的にダンパーが正常な中古サスペンションに当たったとして、おそらく、走行しているうちに、すぐへたるのが落ちだと思います。

サスペンションやエンジンに限らず、さまざまな中古パーツ購入「その後」を目の当たりにした上で言うと、あまり中古パーツにファンタジーを求めすぎないほうがいいと思う。

ダメで元々。オーバーホールやリビルド前提で買うとか、もしハズレを引いても、痛くも痒くもない金額のものにとどめたほうが賢明です。

オーリンズの中古品を購入した後に、オーバーホールできないことに気づく(オーリンズのプロショップに断られた)、という事例もありますからね。

オーバーホールのメリット・デメリット、リアサスペンションのえらび方は、下記の記事でわかりやすく解説しています。

シャーシづくりの難しさと進化

サスペンション関連の歴史と余談。

NSR500の欠陥サスペンション

興味深い話がある。

NSR500は、ロードレース世界選手権が4ストロークへ移行し、「MotoGP」になる以前に走っていたホンダの2ストローク500cc V型4気筒マシン(1984年-2002年)だ。

NSR500のシリーズチャンピオン

1985 WGP 500(フレディ・スペンサー)
1987 WGP 500(ワイン・ガードナー)
1989 WGP 500(エディ・ローソン)
1994 WGP 500(マイケル・ドゥーハン)
1995 WGP 500(マイケル・ドゥーハン)
1996 WGP 500(マイケル・ドゥーハン)
1997 WGP 500(マイケル・ドゥーハン)
1998 WGP 500(マイケル・ドゥーハン)
1999 WGP 500(アレックス・クリビーレ)
2001 WGP 500(バレンティーノ・ロッシ)

レプソルカラーのNSR500に乗るマイケル・ドゥーハン
通称ミックことマイケル・ドゥーハン選手

90年代、1994年-2001年まで圧倒的な強さを誇っていたNSR500。

ところが、80年代の歴史をひも解くと、またちがった事実が見えてくる。

「コーナーリングでの旋回性能に優れるハンドリングのヤマハ。エンジンパワーのホンダ」

よく言われる表現だ。

80年代のNSR500もエンジンパワーに秀でていたが、実際のところ、ハンドリングでは大きく、ヤマハに水をあけられていた。

(ヤマハYZR500は1980-1982年にケニー・ロバーツ、1984年、1986年、1988年にエディ・ローソン、1990-1992年はウエイン・レイニーがシリーズタイトルを獲得)

八代俊二さんの著書「突っ込みハッチの七転び八起き」によると、’85年型NSR500のリアサスペンションは動きが渋く、『ロクでもないバイク』と評するほどのバイクだったようだ。

八代 俊二(やつしろ しゅんじ)
鹿児島県出身、1960年8月26日生まれの元世界GPライダー。モリワキエンジニアリングのライダーを経て、HRCに移籍。
1987年、ホンダのワークスチーム「ロスマンズ・ホンダ」からセカンドライダーとして世界GPにフル参戦。チームメイトのワイン・ガードナーをサポートし、NSR500の開発を担った。
親からの援助を受けることなく、プロライダー(レースだけで生計を立てる)になった人物でもある。現在はモーターサイクルジャーナリスト、レース解説者として活躍している。

'85年型NSR500
’85年型NSR500

’85年型NSR500は、八代さん自身がNS500(NSR500の前モデルマシン。V型3気筒)で記録したラップタイムを更新できないどころか、セッティングもままならない有様だった。

「リアサスペンションの取り付け位置に原因がある」と判断した八代さん。

HRCの設計者に取り付け位置の理由を尋ねたところ、見た目のため(デザイン上の理由)という予想外の答えが返ってきた。

(もちろん設計者の判断ではなく、そのような指示を出した人間がいた)

八代さんがどう反応したかは、ぜひ著書を読んで確認していただきたいが、筆者は読んでて、呆れかえってしまい、しばらく固まった。

・・・それはともかく、

八代さんが生命を懸けて走り、根気強くHRCに訴え続けたことで、少しずつNSR500のハンドリングの問題は解消されつつあったが、HRC(ロスマンズ・ホンダ)は1988年の開幕戦から惨敗。

’87年王者のワイン・ガードナーでさえ、すっかり意気消沈するほどだった。

ところが、シーズンが始まる前のテストで、’88 NSR500に乗った八代さんは異変に気づき、チームにその事を必死に伝えていた。

(ガードナーは気づいてさえいなかった様子)

しかし、八代さんの必死の訴えをだれも信じなかった。その結果の惨敗だった。

その後、ヤマハからホンダに移籍したエディ・ローソンが1989年にタイトルを獲得したが、’89 NSR500の完成度はけっして高くなかった。

エディ・ローソン ロスマンズカラーNSR500
1989 エディ・ローソン選手

エディ・ローソン
アメリカ出身のライダー。WGP500(MotoGP 500cc) 1984、1986、1988(ヤマハ)、1989(ホンダ)世界チャンピオン。カワサキのライムグリーン「ローソンカラー」は、AMA時代にエディが乗ったマシンのカラーリングにちなんでいる。

前年ヤマハでタイトルを獲得したローソンは、ホンダに電撃移籍。

HRCではなく、名メカニック アーブ・カネモト氏率いる「ロスマンズ・カネモト・ホンダ」から500ccクラスに参戦。

ホンダにスイッチして1年目で、HRCワークスチームを破り、シリーズチャンピオンに輝いた。

「このマシン(’89 NSR500)は俺を殺す気か」

ローソンの有名な名言。つまり、ローソンを持ってしても、’89 NSR500はコントロールが容易ではなかった、という事だと推測される。

いっぽうで、HRCワークスチームのマイケル・ドゥーハンは年間ランキング9位、ガードナーは10位と沈んだ。

ドゥーハンはのちに「あのマシンで、チャンピオンになったエディはすごい」と述懐している。

NSR500勢が常勝マシンとして幅を利かせるのは、それからずいぶんと時が経ってからのことだ。

パワーは出ているのに勝てない!

「RACERS Vol.37 RS750D 全米を席巻したホンダのワークスダートトラッカーRS750D」によると、ダートトラック(フラットトラック)レースでも、「直線は速いのにレースで勝てない」という事があったようです。

過渡期だった1980年代と神話

筆者は1970年〜2000年代のバイクに関わる機会が多い。

そのほとんどは修理やレストア、エンジンのオーバーホールだが、CBXやCBシリーズ、空冷Z系エンジン、GSやGSXなどを見ていると、まさに手探りの時代だったと感じる。

エンジンやサスペンションもそうだし、シャーシや、ホイル一つとってもそうだ。

「どうして、こんな構造に???」

不思議に思う事がよくあるが各社、試行錯誤の時代だったと思えば納得できる。

(納得できない場合もあるが)

ひとつ言えるのは、1980年代、1990年代、2000年代のバイクを比較した場合、個人的な好みや、感情はさておき、性能や加工精度については、新しいほど良くなっている、ということだ。

近年は、旧車が神格化されすぎているように思う。

バイクを売る事を生業とする人にとっては、そのほうが好都合なのだろう。

旧車を持ち上げて、はやし立てるメディアも、自分たちは責任を負わなくていいから、好き放題言える。

実態とはかけ離れて、もはや神話だ。

神話
実体は明らかでないのに、長い間人々によって絶対のものと信じこまれ、称賛や畏怖の目で見られてきた事柄。

https://www.weblio.jp

しかし、夢を壊すようで申し訳ないが、機械として見た場合、「旧車のほうが優れている」という点はほぼ、見当たらないのが実際のところ。

ベテランメカニックの方と話していて、いつも同じ意見に落ち着く。

もちろん、多くの場合、バイクは趣味で乗るものだから年代に関係なく、自分が乗りたいバイクに乗ればいい。

ただ、いくら自分が好きだからといって、妙に旧車を神格化させたり、「当時物は優れている」と思い込む(アンカリングというバイアスの一つ)のは、話が別。

さきほどのHRCのエピソードが物語るように、昔はバイク自体はもちろん、各パーツも手探りだった。

当時は「最新技術」でも、その後、消えてしまったものは数多くある。

例:アンチノーズダイブ機構、エアサスペンション、フロント16インチタイヤ・・・etc.

フロント16インチタイヤの裏話

レースでは早い段階で見切りがつけられていたが、販売を促進するため”ワークスマシン技術”というお題目で市販車に採用された。

結果、フロントからの転倒者が相次ぎ、ごく一部の車種を除いて消滅したのは周知のとおり。

筆者はフロント16インチも、アンチノーズダイブサスペンションもRZV500Rで経験したが、とても乗れたもんじゃない、というのが正直な感想。

新しいものが良くて、古いものはダメ

お伝えしたいのは、

白か黒か、神か悪魔か、みたいな欧米的な考え方ではなく、「旧車でも、新しい製品のほうがいいパーツもあるよ」という話。

エンジンパーツもそうだし、ブレーキ、タイヤ、サスペンションもその一つだと思う。

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