バイク研究 & 実践ブログ

YSS VS オーリンズ 【検証】オーリンズ最強説は本当か? サスペンションのえらび方

バイク 社外サスペンション比較

オーリンズサスペンション最強説、「高いサスペンションは高性能」という意見について検証。

今回、取り上げるのはスーパーバイク世界選手権の「スーパースポーツ300」というクラス。

同クラスにはオーリンズとYSS、それぞれのサポートライダーがいるため、シリーズランキングや、表彰台獲得率など、数字と客観的な事実にもとづいて、検証しています。

ほかにも、

YSSサスペンション最新情報や、初心者の方向けにリアサスペンションの機能、えらび方を解説しています。

2023年シーズン、少なくとも10以上のカテゴリーで、YSSレーシングサポートライダーが、シリーズチャンピオンを獲得しました。

以下、一部を紹介

スーパースポーツ300世界選手権
ジェフェリー・バイス選手(YSSは4年連続タイトル獲得)

CIV イタリアロードレース選手権
スーパーバイク1000 ロレンツォ・ザネッティ選手
スーパースポーツ300 ブルーノ・イエラチ選手

ESBK スペイン スーパーバイク選手権
SS600NG アンディ・ヴェルドア選手
SS300 ゴンザロ・サンチェス選手
PreMoto3 アレックス・ロンガレラ選手
Moto4 アンドレス・ガルシア選手

YSSスーパースポーツ世界選手権優勝
2024.2.25追加

2024スーパースポーツ世界選手権(WSSP)で開幕2連勝を果たしました。

目次

WSBKとは?

まず、バイクのロードレースをくわしく知らない方に向けて解説します。

2輪ロードレースの代表的な世界選手権は大きく2つあります。

1,MotoGP
2,WSBK

まずMotoGP(モトジーピー)は、バイクメーカーが総力を挙げて最新技術を投入する「レース専用車両」で競う世界選手権の名称、およびトップカテゴリーの名称です。

事実上の世界最高峰ロードレースになります。

最上位クラスのMotoGP(4ストローク1000cc、最大4気筒まで)、Moto2(4ストローク765cc3気筒)、Moto3(4ストローク250cc単気筒)と3つのクラスがあります。

スーパーバイク motogp違い

WSBK(ワールドスーパーバイク)は、公道用バイクをベースとしたマシンでおこなわれる世界選手権の名称であり、同選手権のトップカテゴリーの名称です。

MotoGPとのちがいは、WSBKは参加車両が市販車であること(レース専用バイクはエントリー不可)、改造範囲がせまいことです。

またWSBKは1つの大会で2回(土曜日・日曜日)レースがおこなわれる「2ヒート」制になっている点が、MotoGP(1つの大会で1レースのみ)と大きく異なります。

2023年から、MotoGPクラスでスプリントレースが開催される事になりました。

ほかにもMotoGPとWSBKには様々な違いがありますが、長くなるので省略します。

このように、バイクのロードレース世界選手権にもいろいろあります。

筆者が確認できたかぎりでは、YSSがスーパーバイク世界選手権でサポートしているカテゴリーは「WSSP」と「WSSP300」(WSS300とも呼ぶ)です。

WSSP300 スーパースポーツ300世界選手権

WSBKと併催されるレース。4スト単気筒または2気筒、300〜400cc以下の市販バイクがエントリー可能。

若手ライダーの登竜門的な位置づけとなっているクラス。

YSS Thailandの公式情報によると、2022年、同クラスでYSSがサポートしているライダーは9人、6チーム。(筆者が確認できたのは7人)

事実1:トップ10のうち6人がYSS

まずは結論から。

年間ポイントランキングの1位/2位/3位/7位/8位/9位が、YSSサスペンションのサポートライダー。

上位10人中、6人がYSSのサポートライダーという結果になりました。

ちなみに、YSSサポートライダー以外は、オーリンズなど他メーカーのサスペンションを使っています。

2022 wssp300 最終ランキング
https://www.worldsbk.com

2022年シーズンの最終ポイントランキング。トップ10のみ掲載。

ライバルが弱いから勝てた?

興味深いことに、WSSP300でオーリンズユーザーをサポートしているのは、バレンティーノ・ロッシや、ミック・ドゥーハン、アレックス・クリビーレなど、歴代MotoGPチャンピオンや、ワークスライダーと共に仕事をしてきた元SHOWAスタッフが設立したサスペンション会社。

(オーリンズのプロショップ)

つまり、YSS以外のライダーのサスペンションが純正のままとか、「オーリンズ勢をサポートしてるサスショップがいまちだからYSS勢がライバルに勝てた」というわけじゃないんですね。

むしろ相手は精鋭中の精鋭だという事が判明しました。

上記注:世界チャンピオン

バレンティーノ・ロッシ(2001 WGP500cc/2002-2005、2008、2009 MotoGP)

アレックス・クリビーレ(1999年 WGP500cc)

ミック・ドゥーハン(1994-1998 WGP500cc)

事実2:表彰台獲得率93.75%

WSSP300で、筆者が確認できたYSSサポートライダー7名で集計。

リザルトは各ラウンドごとの入賞者(トップ3)。

WSSP300 YSSサスペンションライダー表彰台
2022年

公式結果(Yマークが、YSSサポートライダー)

全8ラウンド16戦中

表彰台を独占した数:3回(Round2レース2/Round4レース2/Round6レース2)

1位:10回
2位:10回
3位:9位

表彰台獲得率:93.75%

Round3エストリル戦レース2を除き、すべてのレースでYSSサポートライダーが表彰台に登っています。

YSSサポートライダー 戦績一覧

YSSサポートライダー成績
2022年

2輪・4輪サスペンションで世界的シェアをほこるオーリンズですが、同グレードのサスペンションで比較した場合、性能面でYSSは引けをとらないと言えます。

リザルトがそれを証明しています。

グレードとは
一般的にリアサスペンションは大きく分けて、レーシングサスペンション、ストリート兼サーキット対応モデル、ストリート向けの3種類あります。

レーシングサスペンションが最も高額。大きな理由は、きめ細やかな調整ができる構造になっているからです。

なぜ、オーリンズはYSSに惨敗したのか?

サスペンションのことをくわしく知っているライダーは、かなり少数派です。

(レースをやっている人でも、あまり深く知らなかったりします)

さらに、日本人はブランド志向が強めの傾向があるせいか「サスペンション=オーリンズ」という人が多いです。

筆者もサスペンション業界のことを知る前はそう思ってました。

オーリンズが2輪・4輪サスペンションで世界的シェアをもち、知名度が高いのはまぎれもない事実です。

価格も高いので、「すぐれた製品に違いない」という心理作用も働きます。

じゃあ、ほかの有力サスペンションメーカーと比較して、オーリンズが圧倒的に優れているかというと・・・

必ずしも、そうじゃないんですね。

そもそも、オーリンズが性能面でほかのサスペンションよりも優れているなら、WSSP300で、YSS勢を相手に惨敗することはなかったはずです。

それにもし、オーリンズが最強なら、MotoGPやスーパーバイク、オフロードレースなど、あらゆるトップカテゴリーのレースで、全てのライダーがオーリンズを使っているはずです。

勝つために、チャンピオン獲るためにレースをやっているわけですからね。

勝てるなら多少、金額が高くてもオーリンズを使います。

ところが現実には、オーリンズ以外にもSHOWAや、WPサスペンション、KYB(カヤバ)、Bitubo、YSSなど、さまざまなメーカーのサスペンションが使われています。

つまり、メーカーごとの違いはあっても、勝敗をひっくり返すほどの性能差はないという事です。

もちろん、それを裏付ける根拠があります。

くわしくはのちほど。

論理的に考えると・・・

もし、オーリンズがYSSより優れているなら、性能差があるのにYSSに大敗したことになります。

逆に「YSSはライダーが優れていたから勝てた」と主張するなら「オーリンズにはライダーの実力差を埋め合わせるほど、大きな優位性はない」ということになります。

(実際はオーリンズのサポートライダーには、チャンピオン経験者、優勝経験者がいます)

事実3:オーリンズ以外にも勝利

ほかの有力サスペンションメーカーにKTMグループのWPサスペンションや、イタリアのBituboがあります。

オーリンズだけではなく、これらのメーカーにもYSSが勝利した、という事実があります。

YSSサスペンション WSSP300 2023タイトル獲得
WSSP300 2023年ワールドチャンピオン

2023年、YSSはWSSP300クラスで4年連続タイトル獲得。

バイス選手は、2020年にもMTM Kawasaki(YSSサポートチーム)からWSSP300に出場し、チャンピオンを獲得しています。

MotoGP世界チャンピオンの担当者にインタビュー

さらに深掘りして、「性能に大差がない」という根拠をお伝えします。

冒頭でお伝えしたMotoGPのホンダワークスチームで、チャンピオンマシンを手がけていたサスペンションエンジニアに直接、インタビューした内容をシェアします。

小澤 仁樹 YSSサスペンション
https://www.yss.co.th/newsAndEvents/153

レーシングスペシャリスト 小澤 仁樹さん

※以下、筆者による要約(意訳)

オーリンズの日本総代理店ラボ・カロッツェリア、SHOWA勤務を経て、YSSに入社。その間、数々のワークスチームや、ワークスライダーたちとともにキャリアを構築。

サポートしたライダー

MotoGP(ロードレース世界選手権)
マックス・ビアッジ選手(レプソルホンダ)
ニッキー・ヘイデン選手(レプソルホンダ)2006年 MotoGPクラス 世界チャンピオン
中野 真矢選手
カルロス・チェカ選手

ニッキー・ヘイデン motoGP

世界最高峰のカテゴリで、しかもワークスチーム、チャンピオンマシンに携わっていらっしゃいます。

マシンもライダーも、周囲のスタッフやメカニックも、一流どころです。

・世界の頂点を経験

・オーリンズやYSSはもちろん、4輪ふくめ他メーカーのサスペンションにも精通している

・YSSでは製品開発のほか、全日本選手権やARRC(アジアロードレース選手権)、鈴鹿8耐などに参戦するライダーをサポート

インタビューするのに、これ以上の適任者はいないでしょう。

幸運にも直接、小澤さんにいろいろとお話しをうかがう機会に恵まれたので、

「オーリンズ最強説」について、本当のところはどうなのか?

突っ込んで聞いてみました。

オーリンズ、YSS、WP、ショーワ、KYBなどの主要メーカーのサスペンションについてうかがいます。同グレードの製品を比較した場合、実際のところ、どれぐらい性能差があるのでしょうか?

(以下、回答は筆者の意訳です)

最新のサスペンションで、同じグレード(たとえばレース用ハイスペックサスペンション)同士を比較した場合、主要サスペンションメーカーの製品であればほぼ、性能面の差はないと考えていいです。

理由はサスペンションで画期的な技術が発明されると、ほかのメーカーが追随する(似たようなものをつくる)からです。

補足すると、

まだコンピューターが無かった時代は、たとえばホンダのバイクをヤマハが購入して、分解・分析したり、その逆のパターンがあったり・・・という時代がありました。

ロードレースだと、直列4気筒が主流だったのが、各メーカーがV型4気筒を採用するようになったり、1980年代には、16インチサイズのフロントタイヤが流行った時期もありました。

こういう流れとか、トレンドって、サスペンション業界も例外ではないという話です。

とくに現代は3Dスキャナーなどがありますから、製品として世に出回った時点で、ライバル会社に情報が筒抜けの状態です。

(サスペンション以外のいろんなパーツでコピー製品が年々、増えているのもこうした背景があると思います)

ただ、勘違いしてはいけないのは、構造や中身がわかることと、同じクオリティのものを作れる(再現できる)というのはまったく別の話です。

スキャナーや、CNC加工などの技術で見た目を真似できても、金属の精錬技術や、目に見えない技術までは真似できないからです。

(人気ラーメン店が使っている調味料や材料がわかっても、まったく同じラーメンをつくれないのと同じ)

サスペンションに話を戻すと、主要メーカーであれば高い技術を持っているので、あるメーカーから画期的な製品が発売されると、他メーカーは再現度の高い製品がつくれるわけです。

なので、「主要メーカーで同グレード製品なら性能は横並び」という現象が起きるんですね。

バイク業界以外、家電製品や自動車、住宅など、ほかの分野を見てもおなじような現象が起きています。

主要サスペンションメーカーとは

世界選手権で使われていて、実績のあるメーカーを基準とした場合、SHOWA、KYB、オーリンズ、YSS、WPサスペンション、Bituboなど。

主要メーカーの見た目だけをコピーした製品や、中華製の安物は含みません。

ラーメンとサスペンションの法則

ちなみにYSSの研究開発責任者ヘンリクス・エッセンス氏は、元WPサスペンションの主要エンジニアです。

YSSサスペンション CEO
右端がエッセンス氏

WP(旧称 ホワイトパワー)が本拠地をオランダから移転する際、反対したエンジニアたちが流出。

そのうちの一人がエッセンス氏です。

エッセンス氏はサスペンション設計歴35年以上のキャリアを持つベテラン。彼ら元WPエンジニアが加わったことで、YSSの技術水準が飛躍的に向上した、と聞いています。

yssチーフディレクター
自らデザインするエッセンス氏

ほかのサスペンションメーカーでも、同じように主要メーカーのエンジニアが独立して、新たなブランドを立ち上げたりしています。

○○系ラーメンみたいな感じですね。

ラーメンの味が修行した店に似るのとおなじように、サスペンションも設計思想が、出身メーカーに似てくるようです。

バイク用サスペンションメーカー

1990年代は、じつに数多くのサスペンションメーカーがありました。

日本メーカー SHOWA(ショーワ 現在は日立Astemo)/KYB(カヤバ 萱場)は、当時も現在も、主に純正部品に採用されています。

コラボレーション製品

アドバンテージSHOWA

ヨシムラKYB

モリワキエンジニアリングSHOWA

ビトーR&D KYB(現JB-POWER KYB)

※現在は販売を終了している製品もあります。

1990年〜2000年の雑誌広告を見ると、オーリンズ/ホワイトパワー(現WPサスペンション)が2大ブランド。

WPは前出のとおり、主要エンジニアの離脱、KTM傘下を経て、KTMグループ企業の一員になりました。

時系列:
1999年 KTMがWPを傘下に収めた
その後、WPが工場移転などを実施
2005年 ヨーロッパの元WPエンジニアがYSSに加わる

2023年現在、KTM、ハスクバーナ、ガスガス、WPサスペンションは、同じ親会社を持つグループ企業です。

2000年に日本で流通していたメーカー・ブランド

日本
ダイナミック(富樫エンジニアリング)

QJ-1(ブルーポイント 閉業)

英国 Quantum(クァンタム)/Hagon(ヘイゴン)

ドイツ Technoflex(テクノフレックス)

オランダ Koni(コニー 現在2輪はIKONに名称変更)

フランス Fournales

アメリカ
WORKS PERFORMANNCE(ワークスパフォーマンス)

Fox Racing Shox(フォックスレーシングショック)

PROGRESSIVE SUSPENSION(プログレッシブサスペンション)

20年以上も経つと、サスペンションメーカー自体がなくなっていたり、日本代理店が消滅したり、変わったり、自転車(ロードバイク)に経営路線を変えたり、4輪にシフトしたり・・・

栄枯盛衰があります。

サスペンションメーカー選びの決め手

つまるところ、「現在進行系で、ハイクラスのカテゴリーでレース実績があるかどうか」これが誰の目にもわかりやすい有力メーカーの基準だと思います。

「レース実績がある」広告文にそう書いてあっても、レースもピンからキリまで、レベルがありますからね。どのレベルのレースで実績があるのか?

もう一つ大事なのは「過去の話」ではなく、現在進行系で実績があるかどうか。

時代の流れとともに、人が入れ替わり、メーカーが譲渡・買収されるのは、先ほどお伝えしたとおりです。創業何年とか、過去の実績も大事ですが、それ以上に「現在どうなのか?」が大事。

世界各国で活躍するYSSライダーたち

日本ではあまり知られていませんが、モータースポーツの本場、ヨーロッパ各国のロードレース選手権で、YSSサスペンション レーシングサポートライダーが優勝しています。

直近のレースだけで、下記のタイトルを獲得しています。(筆者が知るかぎり)

YSS CIVスーパーバイク チャンピオン獲得
イタリア スーパーバイク クラスでタイトル獲得

YSSサスペンション 海外レースタイトル

・スーパーバイク世界選手権 WSSP300 4年連続タイトル獲得
ジェフェリー・バイス選手 2023シリーズチャンピオン
アルヴァロ・ディアス選手 2022シリーズチャンピオン
アドリアン・ウエルタス選手 2021シリーズチャンピオン
ジェフェリー・バイス選手 2020シリーズチャンピオン

・CIV イタリアロードレース選手権
スーパーバイク1000 ロレンツォ・ザネッティ選手 2023シリーズチャンピオン
スーパースポーツ300 ブルーノ・イエラチ選手 2023シリーズチャンピオン

・スペインESBK スーパーバイク選手権
SS600NG アンディ・ヴェルドア選手 2023シリーズチャンピオン
SS300 ゴンザロ・サンチェス選手 2023シリーズチャンピオン
PreMoto3 アレックス・ロンガレラ選手 2023シリーズチャンピオン
Moto4 アンドレス・ガルシア選手 2023シリーズチャンピオン
STK600 エリック・フェルナンデス選手 2022シリーズチャンピオン
SBK junior アルヴァロ・ディアス選手 2021シリーズチャンピオン
SBK PreMoto3 アルヴァロ・フエルテス選手 2021シリーズチャンピオン
SBK Moto4 アレックス・ロンガレラ選手 2021シリーズチャンピオン

・スペイン クラシック・スピード選手権
セルジオ・フエルテス選手 2022-2023シリーズチャンピオン

・NZSBK ニュージーランド ロードレース選手権
SS300/SS600 コーマック・ブキャナン選手 2023シリーズチャンピオン
2つのクラスでシリーズチャンピオン獲得
SS600 コーマック・ブキャナン選手 2024シリーズチャンピオン

・ヤマハ R6 Cup
アルヴァロ・フエルテス選手 2023シリーズチャンピオン

現在のMotoGPライダーの出身国を見ればわかるとおり、スペイン・イタリアは2大強豪国です。

オフロードレースについてはくわしく把握していませんが、ヨーロッパの国内選手権で優勝したり、シリーズチャンピオンを獲得しているようです。

日本や、タイなどアジア選手権の優勝・入賞を含めると、膨大な数です。

yssサスペンション レーシングサポートライダー

写真はシリーズチャンピオン獲得・表彰台を獲得したYSSサポートライダーの一部。

直近、2年間のレースです。

yssサスペンション レーシングサポートライダー

イタリアCIV、スペインESBKだけでも、気が遠くなるくらいの数の表彰台を獲得しています。

yssサスペンション レーシングサポートライダー

あくまで筆者が把握している範囲ですが、

ドゥカティ パニガーレV2/V4、ZX-10RR/ZX-10R、ZX-6R、ニンジャ400、CBR1000RR-R、アプリリア RS660、YZF-R3、YZF-R25、YZF-R6、KOVE 321RR、ARJ、BEON、ハーレー・・・etc.

じつに多様なメーカー、車種で優勝、もしくはシリーズタイトルを獲得しています。

出典:YSS正規販売店 ガレージ湘南Facebook

海外の旧車ユーザーたち

ドイツのオッシャースレーベンで開催されている2023 クラシックバイクレースで、多くのYSSユーザーがいることが確認できました。

※掲載写真は、ほんのごく一部です

yssサスペンション クラシックバイク
yssサスペンション クラシックバイク
yssサスペンション クラシックバイク

サスペンションの決め手は?

小澤氏にインタビューした際、有限会社ガレージ湘南の日向社長も同席していました。

ライダーの視点からも検証してみました。

VFR750R RC30 日向正篤
鈴鹿8耐 VFR750R(RC30)
gsx-r1000 YSS
GSX-R1000

有限会社ガレージ湘南 代表

ロードレース国際A級ライダー。バイクショップを経営するかたわら鈴鹿8耐に15年連続参戦。公道レースマカオGPに出場するなど、国内外で豊富なレース経験を持つ。

レースで走った車両
Z1/GS1000SZR/GSX750E/油冷GSX-R750/SV1000S/GSX-R1000/SRX600/FZR750R(OW01)/TZ250/ホンダRS250/NS400R/VFR750R(RC30)/RVF750(RC45)/VTR250/VTR1000SP2/DUCATI 888ほか

​公道用
バイク雑誌BGで約1,000台の新車インプレッション(80年代後半から90年代前半にかけて5年間。排気量やカテゴリを問わず)、バイクショップの業務として36年間、Z系・CB系などの旧車からインジェクション車までさまざまな車種に試乗。

アドバイザーとして
2021年、全日本選手権ロードレースJ-GP3クラス 小室旭選手(サニーモトプランニング)のアドバイザーに就任。小室選手の駆るKTM RC250R(2014年型)は前後ともWP製サスペンション。

HRCのサポートを受けるNSF250R勢(台数が多いためセッティングデータも部品も豊富にある)を相手に小室選手はキャリア初となるドライコンディション優勝を飾った。

3勝、シリーズランキング2位。

https://garage-shonan.wixsite.com/info/roadrace

Q.サスペンションに性能差がなければ、なにが重要な決め手になるか?

答えは、レース・公道を問わず「サスペンションセッティング」です。

これは日向社長も小澤氏も同意見。

というか、それしかないですよね。50万円、30万円するサスペンションを使っていても、セッティングが狂っていたら、数万円のサスペンションに負けてしまいます。

実際、日向社長がレースで、なかば冗談で中華製サスペンションを試したところ、オーリンズ(セッティングが合っていなかった)よりもタイムが良かったというエピソードがあります。

その後、中華製はすぐダンパーが抜けて、ダメになってしまったそうですが。

乗り心地はどうやって決まる?

硬いサス VS やわらかいサス 心理学と物理で解説

ある統計によると、

一般公道の走行において、ほとんどの日本人ライダーが「よくストロークするサスペンションが、良いサスペンション」という認識を持っているそうです。

やわらかいサスペンション or やわらかすぎるサスペンション

に慣れすぎていることが、おおきな理由だと思います。

コンフォートゾーン

心理学では「快適な空間」「居心地の良い場所」という意味で使われます。

個人的には「慣れ親しんでいるもの」と表現したほうが、より的確だと思います。

コンフォートゾーンの範囲

場所、仕事、収入、人間関係、食べ物、匂い、趣味、活動、情報、習慣、考え方や価値観など、日常的に私たちが関わっているもの全般がコンフォートゾーンの中に含まれます。

たとえば仕事。

現在の仕事や職場が、快適ではなかったとします。

ですが、もし1年、2年と続けているようなら、実際には仕事はコンフォートゾーンの一部と言えます。

たとえば転職する場合、慣れ親しんでいない職場や、人間関係に飛び込むことになります。

それに転職が、かならずうまくいくとは限りません。現状とたいして変わらないか、もっと悪くなる可能性もあります。実際に転職してみないと、わからないですね。

本能的に人は「未知=リスク」と判断します。

だからコンフォートゾーンの外に行く、という行為を基本的に避けようとします。

結果、いろんな理由をつけて、転職しない(コンフォートゾーンに留まる)ことを選択するわけです。

逆にいうと、給料が大幅に減額されたり、極端に労働環境が悪化した場合、コンフォートゾーンの外に放り出された状態なので、転職します。

作話システム

人は自分の選択や決断、行動が正しいと思い込むようにできています。

そうじゃないと、矛盾を感じてしまい、ストレスになるからです。

たとえば、衝動買いをした場合、「いかに、その買い物が正しかったか」天才的な理屈をならべて、自分の行動を無意識に正当化します。

実際、アメリカで何十人と殺人を犯した凶悪犯が、「自分は悪くない。そうするしか他に選択肢がなかった」と主張したといいます。

つまり、第三者から見て、理由に矛盾や無理があったり、合理的じゃない選択だったとしても、本人にとっては自分の考え、選択こそが「正しき真実」なのです。

この無意識におこなわれている作話システムによって、私たちはコンフォートゾーンに留まろうとします。

結果として、いままでと同じ思考パターン、行動パターンを繰り返して、新しい考え方が受け入れられなくなるわけです。

興味深い事実

筆者は仕事柄、老若男女、さまざまな年齢層、職業の方から相談を受ける。

なかには作話や、コンフォートゾーンという概念を、すでに何年も前から知っている人たちもいる。そういう人々であっても、自分自身の「作話」に全く気づいていない事が多い。

つまり、意識的に本能に逆らって進化することは、それだけ難しい、ということ。

成長を邪魔する原因

200万年ぐらい前、草原を駆け回っていた原始時代を思い出してほしいのですが、

どこにどんな危険があるかわからない場所、どんな生物がいるかわからない状況で、未知なるものへ飛び込んでいったら、人間が絶滅するおそれがありますね。

見た事もない巨大な生物を発見して、「なんだろう、近づいてみよう」興味本位で近づいたら、マンモスに襲われたり、トラに食べられてしまうかもしれません。

だから原始時代とか、むかしは「未知=恐怖」と認識して、できるだけリスクを避けることで、人間は生き延びてきました。

しかし現代社会の場合、こうした防衛本能が、時代の変化に適応するためのブロックになることが、往々にしてあるわけです。

コンフォートゾーンの解説

宝くじに当選した人々のその後

日本は前後賞合わせても数億円ですが、アメリカだと3000億円近くになります。

アメリカで、宝くじに当選した人々を追跡調査したデータがあります。くわしい数字は忘れましたが、8割から9割の人が自殺するか、破産しています。

詐欺に遭ったり、浪費したり、無謀なビジネスに手を出したり・・・

要は、自分のコンフォートゾーンを超える資産を急に手にしたため、無意識に資産を減らして、当選する前の状態に戻ろうとするわけです。日本の芸能人でも、何人かこの手の話を聞いたことがあります。

ダイエットや、禁煙・禁酒が続けられないのも、コンフォートゾーンという概念を無視して行っているからです。

ちなみに、

以上の話は、オリンピック金メダリストの選手を輩出する世界トップクラスのコーチが、選手たちにおこなっているトレーニングの初歩的な概念の一つです。

筆者は長年、ビジネスや教育分野で活用しています。

やわらかいサスペンション=良い?

コンフォートゾーンという概念を踏まえた上でいうと

1,純正サスペンションは比較的、やわらかい傾向が多い(とくに日本車)

2,抜けたサスペンションに慣れすぎている

=「やわらかい(よく動く)サスペンションがいい」

そう思う人が多いのだと、推測します。

とくに中古車に乗っている場合、リアサスが抜けていても気づかない人が多いため、感覚的にやわらかいほうがなじみ深くなる(コンフォートゾーンになる)のは、容易に想像できます。

ところが客観的・物理的に考えると、少しちがってきます。

のちほど、くわしく解説していきますが、サスペンションはそもそもの前提として「セッティングが合っているかどうか?」が重要だからです。

たとえば

・バネレート
・ダンパーのストローク位置

もし、客観的に見て、これらが合っていない場合、フィーリングはどうであれ、物理的に走行が危険な状態ということもあるわけです。

実際、プロから見て、フロントフォークが「やわらかすぎじゃね?」「硬すぎでしょ。全然、沈まないよ」という場合でも、乗っているライダーは、気づかないで走っていたりします。

客観的に良くなっても違和感を感じる理由

純正のリアサスから社外品に交換した場合、ごくまれに「硬い」というライダーがいます。

ご本人が感じていることなので実際、硬いのでしょう。

この「硬い」を物理的に考えると、「いままで装着していた純正サスがやわらかすぎた」という見方もできます。

とくに劣化している純正サスペンションと比較した場合、交換した社外サスペンションを硬く感じるのは、ごく自然なことです。バネレートの違いもありますが、古いバイクの場合、ダンパーが抜けていることが多いからです。

セッティングが合っていて、客観的にバイクが良くなっていても、乗り始めてしばらくは違和感を感じます。コンフォートゾーンの外に出た状態(慣れていない)だからです。

繰り返しになりますが、コンフォートゾーンという概念は強力で、人は現状より極端に良くなることも、悪くなることも本能的に避けようとします。

なんでもそうですが、コンフォートゾーンが切り替わっている最中に早合点して、結論を急がないことが大事です。(反射的に合わない=慣れていないだけ、という事が多々あります)

「柔らかい」「硬い」にも種類がある

「やわらかいサスペンションは、よく沈んで、よく動く」

「硬いサスペンションは沈まない、動かない」

このように白と黒、ON・OFFでサスペンションの硬さを考えがちですが、じつは、種類があります。

・あきらかにバネの硬さをミスっている(バネレートが合ってない)

・イニシャルや、ダンパー(減衰)のセッティングが適切ではない

・サスペンション自体の劣化

こうした場合を除けば、サスペンションが全然、動かない(沈まない)とか、逆にフワフワと動いて、沈みすぎるという極端な例は少ないです。

通常であれば、程度の差はあるものの、走行中、ある程度までサスペンションは沈んで、奥では踏ん張ってくれるからです。

この時、初期の沈み込みが少ないと、硬く感じます。

また沈み込む量が多いと、動きがあるぶん、柔らかく感じます。

次に、サスペンションが奥で踏ん張ってくれるかどうか。

極端な話、凹凸の激しい路面を通過した際、サスペンションが沈んで、そのまま一気に底付きするようなら、柔らかすぎますね。

「初期の沈み込みはある程度、ショックを吸収してくれて、奥行きで適度に踏ん張ってくれる」

しなやかさが、サスペンションにとっては大事なのです。

今はイメージしづらいかもしれませんが、読み進めていただくうちに、意味が理解できると思います。

サスペンションは、表現として「硬い」「やわらかい」という言葉が使われるが、状況に応じて、複数の意味がある。

乗り心地よりも大事なこと

次に、もうワンランク上の話をします。

乗り心地がどうとか、硬さよりも、もっと大事な「サスペンションが存在する理由」です。

どうして、バイクにはサスペンションがあるのでしょうか?

・・・

・・

答えは、路面追従性を良くするためです。

アスファルトって、凹凸がありますね。サーキットは公道より整地されていますが、それでも凹凸があります。

凹凸をバイクが通過した際、もし、サスペンションがなかったら、車体で衝撃を吸収することになります。

たとえば、ママチャリで、歩道と道路の段差(高さ20センチぐらい)を降りると、ガシャン! という衝撃がありますね。

バイクだと、車重が200kg以上あったり、スピードも自転車とは段違いです。

とてもじゃないですが、サスペンションなしでバイクに乗ってられませんね。

だから凹凸をサスペンションで吸収して、タイヤの路面追従性を良くしているのです。

つまり、もっとも重要なのはサスペンションにしても、セッティングするにしても、「路面追従性が良いかどうか」それがポイントになります。

リアサスペンションの選び方

YSSパニガーレV2サスペンション

ESBK スーパーバイク選手権 エリック・フェルナンデス選手のパニガーレV2

中間グレード(ストリート・スポーツ走行)のリアサスペンションが5,6万円だとして、レーシングサスペンションは20万円以上だったりします。

この価格差は何だと思いますか?

答えは「調整できる範囲と、きめ細かさ」です。

一般的に、さまざまな調整機能が付くほど、構造が複雑になって、製品価格が高くなります。

逆にシンプルになればなるほど、調整機能は少ないですが、リーズナブルな価格になります。ストリートメインで、調整機能が必要ない人にとっては、そっちのほうが良かったりするわけです。

リアサスペンションを知ると、おのずと自分にとって、ふさわしいサスペンション選びができると思います。

逆に、よくわからないまま購入すると、必要ないのに高い買い物をするハメになるかもしれませんし、「高いわりにあんまりしっくりこない・・・」なんて事になりかねないです。

(実際、金色のサスペンションを装着して、不満を漏らしている人を何人も目の当たりにしてきました)

そこで、「これだけは知っておいたほうがいい」重要なポイントをお伝えします。

2つだけ理解すればOK

リアサスペンションは「ダンパー」と「スプリング」の2つで構成されています。

この2つの役割を理解すると、全体像がつかめます。

まずスプリングは、路面のギャップによるショックを吸収するためにあります。一見すると、平坦に見えるアスファルトも、実際は凹凸があります。

しかもバイクの場合、自転車よりはるかに速いスピードが出ていますので、路面から受けるショックも大きくなります。そのショックを受け止めるのがスプリングです。

次にダンパー(減衰装置)。

スプリングが伸びたり、縮んだりするスピードを、ゆっくり動くようにするための装置です。

ダンパーの役割を理解するには、もう少しスプリングを知る必要があります。

vt250スパーダ 社外サス
VT250スパーダ用 ME302

スプリングの役割

スプリングは縮めば縮むほど、反発力が大きくなります。

たとえばトランポリンの上で、小さくジャンプした際、トランポリンから受ける反発は小さいです。大きくジャンプしたらその分、着地したときの反発力が大きくなって、高くジャンプできますね。

つまりバイクのサスペンションに置きかえると、スプリングが大きなギャップを拾った際、急激に縮んで、縮んだ状態から急に伸びるわけです。

危ないですね。

もう一つ、伸縮したスプリングはすぐに動きが収まらず、伸び縮みを繰り返し続ける、という性質があります。

スプリングの動作

もし、お近くの公園に遊具があれば、実際に動かしてみると「秒」でスプリングを理解できると思います。

力を加えれば加えるほど、揺れが大きくなって、完全に揺れが収まるまでしばらくの間、揺れ続ける

まさにスプリングの性質を体感できるからです。

(逆にいえば、理屈や頭だけで理解しようとするとむずかしい)

バイクの場合、走っているわけですから絶えず、路面のギャップを拾います。そのたびにスプリングが急激に縮んだり、伸びたりを繰り返して跳ねていたら、とても乗れたものではありませんよね。

そこで活躍するのが、ダンパー君です。

ダンパーの役割

ダンパーの中にはオイルが入っていて、スプリングの急激な伸び・縮みをおさえたり、スプリングが動き続けようとするのをおさえる働きをします。

スプリングを親分だとすると、ダンパーは子分です。

yss リアサス ダンパー
ダンパー(スプリングを外した状態)

身近なところだと、玄関扉や、自動車のバックドアにダンパーが付いています。

勢いよくドアが開いたり、閉まったりしないようにするためです。

別体タンクの効果

鈴鹿8時間耐久ロードレース(真夏に8時間ぶっ通しでおこなわれる国際レース)では、スタート時と、数周走ったあとを比較した場合、まるでリアサスペンションの挙動が変わるそうです。

スタート時は気温と同じくらいだったダンパーオイルの油温が、走行するうちに熱で上昇して、オイルが柔らかくなるからです。

市販車でも、夏場に長時間の連続走行をしていると、サスペンションの伸び・縮みするスピードが速くなります。

(峠道で切り返す時に体感しやすい)

そこで、レース用で使われるリアサスペンションには別体式タンクが設けられています。

丸い筒状のものが別体タンクです。

YSSリアサスペンション分解
右側の筒が別体タンク
YSSリアサスペンション構造
黄色はダンパーオイルのイメージ

タンクを設けることで、ダンパーオイル量を増やし、油温の上昇を抑えています。

コップ一杯の水と、40リットルの水を比較した場合、40リットルのほうが沸騰するのに時間がかかりますね。

それと同じ理屈です。

ほかの記事でお伝えしたとおり、中華製などの安物サスペンションの別体タンクは、ただの飾りだったりします。

本来は写真のように内部が構造的につながっています。なんちゃって別体タンクは、構造的につながっておらず、まったく無意味です。(分解の様子を見たことがあります)

ここまでのまとめ

・サスペンションは路面の凹凸をスプリングが吸収する

・ダンパーはスプリングの動きを抑えるサポート役

ただし、ダンパーはメリットばかりではありません。減衰の効きを強くしすぎると、スプリングの動きをダンパーが邪魔して、危険な場合もあります。

ある意味、「ダンパーがスプリングの動きを邪魔している」という見方もできるわけです。

リアサス調整機能の種類

なんとなくリアサスの全体像がつかめたところで、調整機能について紹介します。

まずなによりも重要なのは、サスペンションの主役はスプリングということです。

スプリングには硬さがあって、硬さをあらわす数値を「スプリングレート」(またはバネレート)と言います。

例:バネレート:130N/mm

サスペンションを設計する段階で、バイク、ライダー、使用するシチュエーションに応じて、適切なバネレートが決定されます。

・1人乗り or 2人乗り(あるいは荷物を積む)

・ストリート走行 or サーキット走行

・初心者 or 中級者〜上級者

・飛ばす人、飛ばさない人

・オンロード(舗装路) or オフロード(未舗装路)

・バイク、ライダーの重さ

状況によって、適切なバネレートは異なります。

これがストリート用で、たとえば純正サスペンションの場合、不特定多数の人、多用途で使える仕様にしなくてはなりません。

万人向けにするのが、すごくむずかしいんですね。

サーキット走行を前提にした、リッタースーパースポーツバイクも同じ。

実際、サーキットを走るにもいろいろで

・比較的、初心者向けの走行会

・初心者向けのレース

・草レース(中級者から上級者)

・国内選手権(地方選手権 or 全日本)

・世界選手権(若手ライダー育成、WSBK、MotoGP)

種類も、レベルもさまざまあります。

本格的にサーキット走行する場合、リアサスペンションを交換している率が高いです。

純正サスペンションでもバイクによっては多少、調整できるものもありますが、もの足りなくなるからです。

で、話をバネレートに戻すと、「リアサスセッティング」云々の前にスプリングレートが適切であることが重要です。そもそも硬さが合ってなければ、ダンパーを調整しても徒労に終わります。

(ダンパーについてはのちほど)

スプリングレートの変更

ストリート向けのサスペンションを使用する場合、メーカーが想定した標準体重よりおおきく外れていなければ、スプリングレート変更の必要性は低いと思われます。

たとえば標準体重60kgの場合、1人乗りで、荷物を積んだりせず、それほど飛ばさないのであれば、ライダーの体重が80kgでも問題ないと思います。

頻繁に2人乗りをしたり、重量物を積んだり、飛ばして不具合が発生したら、レートを上げたほうがいい場合もあります。(ケース・バイ・ケースです)

逆に標準体重60kgで、ライダーが40kgの場合、あまり気にならないと思います。

もし、足つき性に問題があれば、レートを下げればいいです。ただし、イニシャルを全抜きして、シート高を下げるのはお勧めしません。

ちなみに標準体重は地域、サスペンションメーカーによって異なります。

YSSの場合、タイ人と日本人はほぼ、同じ体格なので、標準体重は共通です。

オーリンズのヨーロッパ仕様だと、標準体重80kgで設定されていたりします。(全ての製品かどうかは不明)

YSS R&D ITALYでは、75〜85kgが標準体重に設定されています。

日本で販売されているYSS正規輸入品であれば通常、標準体重60kgで設定されていると思います。(商品説明に書いてあるはず)

もし、気になるなら販売店か、YSS日本代理店に問い合わせてみるといいでしょう。製品によって、スプリングを交換できるものと、できないものがあります。

調整機能の効果と役割まとめ

公道を走る場合、あまり頻繁に調整する必要性は少ないと思いますが、念のため解説します。

・スプリングレート

リプレイス品のサスペンションは基本的にスプリングレート(硬さ)の変更が可能。

(思い込みでレートを決めて失敗するライダーが散見されるので、わからなければ自己判断せず、プロに相談したほうが無難)

・イニシャル(プリロード)調整機能

スプリングのテンションを調整して、ダンパーストローク位置を調整する機能。

(プリロードもイニシャルも、表現がちがうだけで意味は同じ)

以下、拙著「イニシャル調整マニュアル」から引用して、解説します。

リアサスペンション イニシャル調整マニュアル
拙著 イニシャル調整マニュアルより
リアサスペンション イニシャル調整マニュアル
拙著 イニシャル調整マニュアルより
リアサスペンション イニシャル調整マニュアル
拙著 イニシャル調整マニュアルより
リアサスペンション イニシャル調整マニュアル
拙著 イニシャル調整マニュアルより

ダンパーがフルストロークした際、底付きするようならイニシャルをかけます。

逆に、マージンが多すぎる場合、ストロークしていないのでイニシャルを抜きます。

公道で使用する場合は、フルストローク時にマージン(イラスト黄色の部分)が残るように調整します。

リアサスペンション イニシャル調整マニュアル
拙著 イニシャル調整マニュアルより

純正・社外品サスペンションを問わず、メーカー出荷時は標準体重に合わせているので、必ずしも自分に合っているとは限りません。

100kmほど走って、フルストローク時の位置を確認して、必要に応じて調整しましょう。

イニシャル調整でよくある誤解

勘違いする人が多いですが、イニシャル調整でサスの「硬さ」は変わらないです。

スプリングの動きが変わって、乗り心地が変わるため、感覚的に硬さが変わったと感じるだけです。

イニシャルを抜く→サスペンションがよく動く→やわらかいと感じる

イニシャルをかける→サスペンションが動かない→硬いと感じる

スプリングの硬さはレートで決まっているため、物理的な硬さを変えるには、スプリングを交換する事になります。

「硬い」「やわらかい」の表現

サスペンションの話で使われる「硬さ」という表現には、感覚的な硬さ、物理的な硬さ、2つの意味があります。

(さらに細分化すると、初期の動作、奥行きの動作、低速時と高速時の動作、ストローク量、ストロークスピード、などがあります)

ところが伝える側(メディア)の人たちを見ていると、どの意味で「硬い」「やわらかい」という表現を使っているのか、明確ではありません。

結果、一般のライダーにとって、わかりづらかったり、誤解が生じているのだと思います。

逆に、私たちライダーがお店の人に伝える場合、「いつ」「どんなシチュエーションで」どう感じるかを伝えるようにしましょう。硬い、やわらかいだけだと、漠然としすぎています。

・ダンパー調整機能

ダンパーの効き具合(強弱)を調整する。

伸び側が「リバウンド」調整、縮み側(圧側)を「コンプレッション」調整という。

NSR250R YSSリアサス リバウンド調整
NSR250R MC18用 MZ

コンプレッション調整なし。リバウンド調整(ダンパー調整とも言う)のみのシンプルなモデル。

パニガーレv4 YSSレーシングリアサスペンション
DUCATI パニガーレV4 R レーシングサスペンション

リバウンド調整のほか、コンプレッションが高速・低速それぞれ調整可能なハイスペックモデル。

ダンパーはあくまでスプリングを補佐する役割。スプリングの動きを邪魔しない程度の強さにする。とくに伸び側の減衰を強くすると、タイヤがグリップを失って転倒リスクが高くなる。

・車高調整機能

+−10mmの範囲でリアサスペンションの全長を変える事ができる。厚底ブーツのようなイメージ。

リアサスペンション 車高調整機能

以下、NSR250R MC18用 MZを使って、解説します。

NSR250R YSSリアサス 車高調整

上記の写真ではサスペンションの下側に車高調整機構がありましたが、MC18用 MZは上に付いています。

黒いナットを緩めると、マウント部分のネジが緩みます。

NSR250R YSSリアサス 車高調整

マウント部分のネジを取り外した状態。

NSR250R YSSリアサス 車高調整

MC18用 MZは、筆者が計測したかぎり、ネジ山部分の全長が18mm。

しかし、めいっぱい伸ばして使用すると、サス本体とくっつく部分がごくわずかになります。

「そこに強い力が加わると、どうなるか?」

当然、破損につながりますね。

ですので、実際に長さを調整できるのは10mm前後まで。残り8mm(赤線の部分)は強度に必要なため、サス本体に締め込んでおかなくてはなりません。

「商品説明に10mmって書いてあったけど、もっと高くできるじゃん。めいっぱい伸ばそう」

なんてことをやってしまうと、破損や事故につながります。

実際、使い方をよく知らない方が、誤った使用方法で破損した、という事例を何度か見た事があります。

それでも自分の失敗に気がつかないと、「壊れたのは製品が悪い。メーカーのせいだ」という事になってしまうんですね。完全に勉強不足だと思います。

もともと車高調整機能がついていない製品モデルもあります。車種によっては、取り付け時のスペースの関係上、車高調整機能がない場合があります。

「車高調整 最大10mm」はYSSに限らず、各メーカー共通のようです。

オーバーホールのメリット・デメリット

リアサスには分解可能なものと、分解不可(非分解式)なものがあります。

どちらが良い・悪いではなく、それぞれにメリットとデメリットが存在します。

分解できるリアサス

メリット

・オーバーホール(分解整備)可能

・定期的にオーバーホールし続ければ、継続的に使用できる

デメリット

・分解不可な製品と比較して、製作コストが高い

・オーバーホール費用がかかる

・オーバーホールしている間、バイクに乗れない

・オーバーホールしたからといって、100%新品時の性能になるとは限らない

分解不可なリアサス

メリット

・分解可能な製品と比較して、製作コストが安い

・サスが消耗した場合、本体ごと交換なので待ち時間なしでバイクに乗れる

・新品交換なのでアップデートされた製品を使うことができる

デメリット

・原則としてオーバーホール不可

・サスが消耗した場合、本体ごと買い換えが必要

オーバーホール費用に少し、上乗せした程度で新品が買えるので、調整機能が必要じゃない人にとっては、シンプルな分解不可モデルのほうがお手軽だったりします。

筆者自身、まだサスペンションのことを詳しく知らなかった頃は、「OH可能で、調整機能があれこれ付いてるサスのほうがいい」と思ってました。

現在は基本的に公道を走行する場合、非分解式のほうがメリットが多いと実感しています。

フロントフォークのパーツ

フロントフォーク カートリッジキット

パニガーレv4 YSSサスペンション スーパーバイク選手権
イタリア ロードレース選手権 DUCATI パニガーレV4 R
パニガーレv4 YSSフロントフォークカートリッジキット
YSSフロントフォークカートリッジキット

フォークスプリングのイニシャル調整、圧側減衰力30段階、伸び側減衰力30段階などの調整機能があります。

パニガーレv4 YSSフロントフォークカートリッジキット

スーパーバイク世界選手権や、各国のロードレース選手権だと、レーシングステアリグダンパー、フロントフォークカートリッジキットが装着されていて、フロント側もサス調整できるようになっています。

※レギュレーションで禁止されている場合をのぞく

倒立フロントフォークキット

ハーレー用 yss倒立フロントフォークキット

ハーレー用に開発された新製品。フロントフォークを丸ごと交換するタイプの製品です。

ハーレー用 yss倒立フロントフォーク
タイのタイムアタックレースで優勝

日本でも人気のハーレーダビッドソンですが、タイでも人気のようです。

YSSインナーチューブ DLCコーティング
KG308R / KG308S

日本(YSS Japan R&D)で開発された製品。インナーチューブにDLCコーティングがおごられるなど、機能性とデザインを追求したモデルです。

前出のYSSレーシングスペシャリスト 小澤さんが手がけたと聞いています。

主な適合車種
ZRX1100・ZRX1200R・ZRX1200DAEG
XJR1200・XJR1300
CB1300SF・CB1300SB

https://www.win-pmc.com/yss/archives/1309

フロントフォーク アップグレードキット

YSS フロントフォークアップグレードキット

公道メインのライダーや、サーキット(またはオフロード走行)を楽しむ人向けのキットです。

イニシャル(プリロード)アジャスター、フォークスプリング、PDバルブの3点で、フロントフォークをチューニングします。

日本だとホンダCT125や、サーキット走行をするGSX-R125(150)に装着する方が多い印象です。

(小排気量は比較的、サスがかなり柔らかめの設定になっている事があります)

日本車は、車両販売価格を抑えるためにサスペンションがコストダウンされています。

なのでスポーティーな走りをしたり、林道やダートなどを走ると、もの足りないことがあります。

フォークスプリング、PDバルブ(オリフィス)、イニシャル調整、フォークオイルと併せてセットアップすることで、ノーマルとは違うフィーリングが得られる、というわけです。

フロントフォークのカスタムと注意点

価格の高い順に、1,フロントフォークキット、2,カートリッジキット、3,アップグレードキットになります。

2と3は内部パーツ交換のため、見た目にあまりカスタム感はありません。フロントフォークキットは、カスタム感、機能面とも大きく変わる反面、なかなかの価格です。

予算や目的に合わせて、選ぶといいでしょう。

組み付けにあたっては、サスペンションを理解しているショップに依頼することをお勧めします。

× 設備がある(とりあえず組めなくはない)

○ サスペンションを熟知した上で組むことができる

両者は別物です。なかには安易に仕事だけ受注して、クオリティはさっぱり(がっかり)というショップもあるので、注意が必要です。

リアサス調整機能はあったほうがいい?

趣味として考えた場合、「見た目が格好いい」という理由で、レーシングサスペンションを装着してもいいと思います。

ただ、「必要性があるかどうか」で考えると、答えは変わってきます。

イニシャル調整やダンパー調整は、最初はおもしろがって、あれこれ調整機能を触るかもしれません。

ただ、頻繁に調整しなければならない状況は、ストリートではほぼ、ないと思います。

「調整機能はたくさんあるけど、ほとんど使わない」

もしくは全然、使わないという事になると思います。

レースだと、サーキットによってセッティングが変わりますし、マシンのセットアップを変えたり、自分のスキルが向上すれば、セッティングを変えたりします。

つまり調整の必要性があるから、レーシングサスペンションにはこまかな調整機能があるわけです。

もし、レーシングサスペンションを装着するだけで、サーキットを速く走れるなら、みんな装着します。

こんな事がありました。

テイスト・オブ・ツクバ(日本最大級の草レース)で、

・レーシングサスペンション

・ストリート兼サーキット用サスペンション(中間グレード)

をそれぞれ装着したバイクがありました。同じ車種で、エンジンもほぼ同じ仕様。

しかしレース開始後、前を走っていたのは中間グレードのリアサスを装着したライダーでした。

ストリートメインの人や、1年に1回、走行会などでサーキットを走るぐらいなら、中間グレードのサスペンションで十分だと思います。

もちろん、ご自身が必要性を感じたり、「どうしても付けてみたい」と思うなら装着するのは自由です。

たまに、サスペンションを含め、あちこちカスタムしたバイクのオーナーさんと話す機会がありますが、「見た目だけカスタムです!」自分から堂々と、宣言する人がいます。

いさぎよいですね。

調整機能があったほうがいい時
オフロード走行をメインに楽しむ方であれば、舗装路と比較して、路面状況が変わるため、調整機能があったほうがいい場合もあります。あとはタンデムや、荷物を多めに積んで走ることが頻繁にある場合ですね。

2本サスと1本サスのちがい

おおまかに、現代のスポーツモデルや、オフロードバイクはモノショック(1本サス)が多いです。

ネイキッドや、クラシックバイク、アメリカンはツインショック(2本サス)が採用されています。

もともとはツインショックが主流。1973年、ヤマハがモトクロス世界選手権(250ccクラス)でモノショックを採用し、ヤマハ初となる世界チャンピオンを獲得。

のちにスポーツモデルの基準が、モノショックとなるきっかけとなりました。

モノショックは、走行性能に優れるというメリットがある反面、

・取り付け位置がシビア

・ツインショックと比較して熱的に厳しい(走行風が当たりにくく、またエンジン熱の影響を受けやすい)

・コスト高になる

というデメリットがあります。

ツインショックは車体の外側に取り付けるため、取り回しが容易。比較的、低コストでつくることができます。

また露出しているため、モノショックほど熱的に厳しい環境ではありません。

市販車の場合、デザイン性を考慮して、ストリート向け(ネイキッドやクラシカル)モデルに、あえてツインショックを採用することがあります。

「なんで1本サスのほうが2本より高いんだ!」

なにも知らない頃の筆者は、そう思っていました。

自分が開発・販売する側を経験して、納得しました。わずか数ミリの差をぬって、ほかのパーツと干渉しないようにしなければならないので、1本サスの製作は本当にシビアです。

「付いていれさえすればいい」というパーツではないので、車体を設計するバイクメーカーの方々は、もっと大変だろうと思います。

サスペンション価格の秘密

ここまでしっかり記事を読んでいただくと、

「調整機能の有無や、こまかく調整できるほど、高くなる理由はわかった」

「でも同グレードの製品で性能差が同じなら、どうして販売価格が2倍も3倍もちがうの?」

メーカー間の価格差に、疑問を感じてると思います。

その疑問に対して、解説します。

ふたたび日向社長に登場してもらいましょう。

日向社長はかつて、オーリンズのプロショップ(販売・オーバーホールをおこなう代理店)をされてました。

ある時、オーリンズ日本総代理店が設立されて、代理店を経由しないとオーリンズ製品や、部品が入手できなくなりました。

それまで海外から直接、オーリンズ製品を輸入していた時と比較して、卸値が高くなったり、総代理店の対応がいまいちだったので、オーリンズのプロショップを辞めたそうです。

・ヨーロッパで販売されているオーリンズサスペンション価格

・日本で販売されているオーリンズサスペンション価格

両者を比較した場合、日本の販売価格のほうがあからさまに高い、という現象が起きていたわけです。

(現在どうなっているかは、わかりません。YSSは世界共通です)

似たような話で、ブレンボキャリパーは高いですが、ブレンボキャリパーを生産しているフランド(Frando)のキャリパーは、ブレンボの半額以下です。

にもかかわらず、ブレンボキャリパーと遜色ない性能だったりします。

こうなってくると、オーリンズが高すぎるのか、YSSが安すぎるのか。

見方によって変わってきますね。

「見た目重視」という人や、「お金をかけてカスタムして、人に自慢したい」という人は、高いほうが価値を感じる人もいるでしょう。

逆にブランドにこだわりがなく、「必要なスペックを満たしていればそれでいい」という人もいると思います。

筆者は後者なので、浮いたお金でタイヤを買うとか、ほかのことに予算を使います。

最終的にはご自身の考え方や、スタイルで選べばいいと思います。

価格の心理学

価格が高いほど、製品に対する印象が良くなることは心理学のテストで実証されています。

その点、YSSの製品は安すぎるので、もし、ブランドイメージを向上させたければ、価格を上げるべきだと思います。

(もしYSSが筆者のクライアントなら、そう提言します。実際、「純正と変わらないぐらいの価格で、安すぎて不安だった」というアンケート結果もありますからね)

ライダーとしての立場から言うと、特別なこだわりがなければ、YSSがお勧めです。(正規輸入品

YSSが経営戦略を変えて、値上げしないうちに購入したほうがいいと思います。

オーリンズ以外の高額サスペンションメーカーは、オーリンズの価格に追随して、値付けしている印象があります。(話せば長くなりますが、価格設定もいろんな裏側があります)

フロントフォークと、リアサスペンションをセットで考えた場合のセッティング、ライディングについては、以下の記事で解説しています。

WSSP300 YSSサポートライダーたちの個人成績は以下の記事で紹介しています。

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