有限会社ガレージ湘南 日向社長と検証をおこないました。
YSSでもっとも低価格帯のスクーター用サスペンションのテストです。しかも流用。
果たして、うまく取り付けられるのか? 機能するのでしょうか?
有限会社ガレージ湘南
YSSサスペンション正規販売店。YSSと共同開発したサスペンションを販売している。かつてはオーリンズのプロショップを手がけていた。
代表 日向社長は、鈴鹿8時間耐久ロードレース15年連続参戦、公道レースマカオGPなど、国内外のレースに出場経験のあるレーサー。2021年には全日本ロードレース選手権J-GP3クラス 小室旭選手のアドバイザーを務め、シリーズランキング2位に貢献。
20年以上前のバイクなので、国内に純正はもちろん、社外品のサスペンションも出ていません。
まずは合いそうなリアサスペンションを探すところからスタートしました。
ダンパーの抜けきったモノサス(1本)は筆者のCB125Tで散々、経験しましたが、ツインショックはレオが初めてかもしれません。
ツインショックのダンパーが抜けると、モノサス以上に挙動が不安定に感じました。
モノサスは車体の中心にレイアウトされているので一定方向ですが、ツインだと、車体が左右にグニョグニョしているイメージ。これがコーナーリング中とか、マシンの切り返し時になんとも気持ち悪いんですね。
ただでさえ、リアタイヤのグリップ感が不足しているところに追い打ちをかけるような感じです。
路面の凹凸で激しく跳ねるので、街中を走っていても、腰痛の原因になります。
流用リアサスペンション選び
筆者が計測したところ、レオの純正リアサスは取り付けピッチが275mm。
取り付けピッチは、取り付け長と同じ意味。上下、ボルトを差し込む穴の中心から長さを測った数値のこと。販売メーカーによっては「自由長」と読んだり、表現方法にバラツキがある。
「カブに似せたデザインなので、カブ用のサスペンションが流用できるかな?」
と思ったのですが、寸法が特殊なレオには合いませんでした。
いくつか候補が残ったものの、日本語の怪しいメーカーの製品や、まったく聞いたことのないメーカーの製品は(いくら安いとはいえ)買う気がおこらず。
車体のディメンションが変わる点は妥協して、YSSのスクーター用(AF27 AF28・スーパーDio・スーパーDioZX・スーパーDioSRなど)を選択。
製品はモノショック(1本)ですが、レオはツインショックなので2本使用します。
純正の取り付けピッチが275mm、本製品は270mm。つまりリアが5mm下がることになります。
レオはもともとフロントホイル17インチ、リア18インチという尻上がりの設計ですので、個人的にはこのほうが好都合です。これ以上、リアが高くなるのはちょっと。。。
ということで早速、YSS販売代理店に注文。
リアサス加工
通常、国内正規品のYSSリアサスペンションにはメーカー保証があります。
ただし、他車種への流用や、加工をおこなった場合は保証適用外となります。
上下を逆にしてフッティングしてみると、やはりそう簡単にポンづけできないですね。穴の大きさが合いません。
リアサスの穴は、写真ではわかりづらいですがネジの溝が入っています。
下側は問題なく取り付けできそうです。
そんなわけで、日向社長にリアサス上側の穴を14.5mmまで拡張してもらいました。
難なく取り付け完了。記事にすればあっという間ですが、リアサス探しから計算すると、結構な時間を要しました。
インプレッションはこちらのブログに寄稿しました。
なぜ、流用は最後の手段なのか
いくつか補足しておきます。
リアサスをつくる側を経験すると、どうやってサスペンションが作られているか、流用の何がダメなのかが、分かるようになりました。
いろいろ分かった上でいうと、他車種の流用は本当に最後の手段と思ったほうがいいです。
レオのように現在のリアサスが完全に終わっていて、純正部品・社外品が手に入らない時の非常手段ですね。
というのは、バイクによってバネの硬さが異なりますし、同じくらいの車重のリアサスであっても、ダンパーの強さはバイクによって変わります。
ダンパーの強さが合っていなければ、状況次第では、転倒するリスクが高くなります。
「寸法が合っていて、車重が近ければOK」
そんなに単純なものではないという話です。
レオのリアサス選定にあたっては、事前に「50cc用しか合うサスがないのですが、2本使えばレオに使っても大丈夫ですか?」日向社長に相談しました。
「理論上は2本使えば、現在の抜けたサスより、悪くはならないだろう」ということで、交換に至りました。
ちなみにサスペンションは、上下を逆さまにして良いものもあれば、ダメなものもあります。
バネレートでよくある間違い
リアサス流用で多いのが、バネレート(スプリングレート)に対する誤解。
バネレートは、スプリングの硬さを示す数値で、数値が高いほど硬くなります。で、問題なのはバネレートという数値だけを見て、判断してしまうことです。
バネレートとは
ばねの硬さ(反発力の強さ)をあらわした「ばねの定数」のこと。
ばねの定数とは、ばねを1mm縮めるために必要な荷重を計測して、数値化したもの。
CBR250RR MC22用
バネレート:130N/mm
車両重量157kg
VT250 SPADA用
バネレート:135N/mm
車両重量153kg
※いずれもYSS ME302
どちらも250ccで、リンク式サスペンション。車両重量もほぼ同じで、バネレートも近いです。
ところが、
CB125T JC06
バネレート:200N/mm
車両重量139kg
リンク式サスペンション
より軽量なCB125Tのバネレートは、MC22やスパーダを上回っています。
(念のために言っておくと、CB125T用が特別、硬い仕様になっているわけではありません)
つまり「バネレート」という一部分だけを見て、流用の是非や、硬さを判断できないという事です。リンク式サスペンションの場合、リンク比(レバー比)を考慮する必要があります。
奥が深いスプリング
ばねの巻き数が少ないものが、高荷重向け。
バネレート
スプリング自由長が同じ場合、高レートのスプリングのほうが硬い、ということになります。
スプリング自由長
縮めない状態、無負荷でのスプリングの長さを「自由長」と言います。
一般的にスプリングが長いほど、スプリングの有効ストロークが増えます。つまり、より高荷重に耐えられるわけです。
有効ストローク=最大許容作動長。縮んだスプリングが密着するまでの長さのこと。
一般論として、スプリングの自由長が長いほど、スプリングが縮んで伸びる時の反発は、ゆっくりになります
逆に、スプリングが短くなると、素早く反発します。
ロードスポーツと、オフロード車を見比べると、スプリングの長さが大きく異なりますね。
ひとくちにスプリングといっても、素材や、加工技術、塗装技術によってピンキリ。
写真は海外の粗悪品です。
スプリングの種類
バネとバネの間の間隔によって、不等ピッチと、等ピッチがあります。
リアサスのスプリング上部の間隔が狭くなっていて、中央から下は、間隔が広くなっています。
これを「不等ピッチ」と言います。
スプリングの間隔が均一な等ピッチ。
フロントフォークスプリングにも、等ピッチと不等ピッチがあります。
いずれも目的、用途に合わせて使い分けられます。(長くなるので詳細は割愛します)
スプリング内径
スプリング内径は「ID」とも呼ばれます。
スプリング内径で、スプリング特性が変わります。
内径が大きいと、スプリングの断面二次モーメントが小さくなるため、ばね定数が低くなります。逆に、内径が小さくなると、ばね定数が高くなります。
「46」がスプリング内径。
ちなみに135がスプリングレートで、150が自由長のこと。
断面二次モーメントとは?
想像してみてください。
あなたは大きな板を持ち上げようとしています。
この板が細くて薄いと、簡単に曲げられますよね?でも、同じ幅で厚い板だと、持ち上げるのが難しくなり、曲がりにくくなります。
板の曲がりやすさ
- 薄い板:
- 軽くて、簡単に曲がる。
- 曲がりやすいから、力を加えるとすぐに形が変わる。
- 厚い板:
- 重くて、曲がりにくい。
- 曲げるにはもっと大きな力が必要。
板の強さと形
この「板が曲がりにくいかどうか」を計算で表したものが、「断面二次モーメント」です。
簡単に言うと、板がどれだけ曲がりにくいかを示す数字です。
- 大きな断面二次モーメント: 板が曲がりにくい。厚い板のようにしっかりしている。
- 小さな断面二次モーメント: 板が曲がりやすい。薄い板のように簡単に曲がる。
実際のスプリングの話
スプリングにも、この「断面二次モーメント」が関係しています。
スプリングの内径が大きいと、同じ材料でも曲がりやすくなります。逆に、内径が小さいと曲がりにくくなります。これはスプリングの硬さや強さに影響します。
つまり、
スプリング内径によって、バネレート、最大荷重、ダンピング特性、スプリングの固有振動数などが変わります。
ここまで読んでいただいた方はわかると思いますが、スプリングだけでも、ざっとこれだけの要素があるという事です。
さらに、ダンパー(減衰装置)とセットになっていますから、話はより複雑になります。
リアサス流用 取り付けミスで破損
わたしは流用を推奨しているわけではないので、今回の内容を記事にするかどうか迷いました。
が、
レオのように、非常手段しか残されていないバイク乗りの方もいるだろうと思って、記事にしました。
どうしても流用する場合、すべて自己責任となりますので、そのつもりでおこなってください。
大事なことなのでもう一度いいますが、「リアサスペンションは取り付けられればいい」というものではありません。不適切な取り付けは重大事故につながります。
写真は正常に取り付けられた状態。
もし、これが流用や改造をおこなって、取り付け方が歪んだり、きちんと固定されていないと、ダンパー破損などにつながります。
たとえば上下の固定部分が青色の矢印の方向に動いたり、黄色の線みたいに歪んで取り付けてはいけないわけです。
もちろん、きちんと専用設計されている製品で、バイクがノーマルであれば、これらの心配はいらないでしょう。
ところが流用したり、改造されたバイクに取り付けると、わずかに歪んでいても、気がつかないという事が起こり得ます。すると、たとえば大きなギャップを通過した際、ねじれた状態でダンパーに力が加わって、サスペンションが破損するおそれがあります。
アマゾンなどのレビューを見ていても、この事を知らないで流用してトラブルが発生し、製品に悪評を付けていると思われるケースが散見されます。
安易に流用すると危険だということを理解した上で、やるかどうか選択したほうがいいと思います。
ただでさえ、リアサスペンションは専用パーツでも、素人の取扱い・取り付けミスによる破損事故が多い(そういう人ほど製品のせいにする)ため、個人的には流用はお勧めしないです。
ガレージ湘南では製品ラインナップにない車種の場合、今回のように流用することがあります。
その場合も、これらの隠れたリスクを考慮した上で検討していますし、必要に応じてYSS本社のレーシングエンジニアにアドバイスをもらっています。本来、それぐらい慎重にやる必要があるという事です。
足回りカスタムでよくある失敗事例
微妙な結果になることもあります。
リアサス流用とは話がそれますが、よくあるのがフロントフォークや、ホイール交換など、足回りのカスタム。
日向社長や、ベテランメカニック(元レーサー)が足回りをカスタムしたバイクを試乗するたび、筆者は感想を求めるのですが、「良い」「普通」はまだ一度もありません。
なにかしら問題があったり、全然、ダメだったりします。
取り付け可能なことと、機能するかどうかは別の話
ほとんどの場合、オーナーさんは気がついていないです。よほどスローペースで走っているのか、感覚が鈍い(悪い意味ではなく、プロレーサーにも鈍い人はいます)のか。
「バイクは趣味だから、自己満足でもいいじゃないか」
筆者もそう思いますが、挙動が不安定で乗っていて、危険なケースもめずらしくないです。
工作が得意なショップが手がけて、「見た目は良いけど、見た目だけ・・・」という事もよくあります。
人間の脳は自分の判断や、決断、考えが正しいと思うようにできていますから、ネガティブな要素が見えなくなりがちです。なおさら気づかないのでしょう。
数々の事例を目の当たりにするたびに、「素人カスタムほど危険なものはない」と実感しています。
プラモデルのように飾るだけなら、見た目重視でいいですが、走るとなると話は別。
自分だけじゃなく、周囲の人も事故に巻き込む可能性があるわけですから、やるなら万に一つも失敗しないぐらい徹底して、取り組むほうがいいと思います。
これは足回りに限らず、どんなカスタムでも同じです。