ブレーキが引きずっていたので、ブレーキをオーバーホールしました。その様子をくわしく解説します。
軽微な引きずりだとわかりにくいですが、バイクを押して歩くと、かなり重いです。
筆者は修理に持ち込まれるバイクを数十台、見てきましたがけっこうな割合で、ブレーキが固着しているケースが多かったです。
とくにミドルクラス〜大排気量だと、パワーがある分、ブレーキが引きずっていても気がつかないようです。
事前の確認

Fタイヤ、Rタイヤを手で回してみると、回転が重い。ホイルベアリングにガタがある様子はなかったので、やはりブレーキのようです。

小排気量は非力な分、ブレーキの引き摺りや、ドライブチェーンなどのコンディションが顕著に走りに影響します。
ブレーキフルード交換はそう難しい作業ではありませんが、第一関門はマスターシリンダーをとめているネジ。
3年前にレオ君に乗った時もそうでしたが、サビだらけですっかりネジが固着していました。ドライバーでネジを緩めようとすると、ねじ山がボロボロになってしまいました。
ここでメカニックの橋立氏にバトンタッチ。
鮮やかに封印を解いてくれました。
レオのブレーキフルードは「コーラ」みたいな茶色。新しいフルードに交換です。
ブレーキフルードの選び方と交換時期

あるスクーターのフロントマスターシリンダー。ブレーキフルードが茶色に変色し、ほとんど入っていない。それどころか、ゲル状に変質している。古いバイクではよく見る風景。

フルードはDOT4の規格ならどのメーカーでもいいと思います。
今回はお店にあるワコーズを使用。
筆者はワコーズ、純正やブレンボ、ニューテックなど様々なブレーキフルードをテストしましたが、公道を走行する限り、大きな差は感じられませんでした。
メーカー云々よりも、新しいブレーキフルードを使用する事の方が重要です。
というのもフルードは湿気に弱いからです。
ブレーキフルードを購入して開封すると、置いておくだけで湿気を吸収し、少しずつ劣化します。フルードが湿気を含むと、バクテリアが増えたりしてフルードが劣化し、シールを傷めることになります。
ですので、開封後は密栓して、できるだけ早く使い切ったほうがいいです。
またブレーキフルードの温度が高くなると、劣化しやすくなります。逆にブレーキの放熱性が高ければフルードは劣化しにくくなります。
ブレーキフルード取扱いの注意点
・DOT5を使用する場合、DOT4と混ざるとゼリー状になってしまうのできれいに落としてから交換すること。
・ブレーキフルードが塗装面などに付着した場合、すぐに拭き取りましょう。あっという間に、塗装がはがれてしまいます。水道水で洗い流すか、水拭きするのがいいです。あらかじめ準備してから、作業しましょう。
ブレーキフルード劣化のサイン
ブレーキフルードは無色透明で、湿気や熱によって劣化すると、だんだん色が付いてきます。
茶色とか、黒とか、色が濃くなると要交換時期です。
なかにはフルードに色が付いてるものがあります。
ブレンボ社のフルードは、新しい時はうす茶色で、劣化するにつれて、だんだん淡い色(透明にちかい)になります。なので、その事を知らない人に「フルード交換したほうがいいんじゃない?」と何度か言われました。
・・・実際は交換したばかりなんですけどね。


真新しいブレンボ製ブレーキフルード。光の加減で色が違って見えますが、同日に撮影したものです。
好みですから、着色してあるフルードを選ぶもよし、無色透明のフルードを選ぶのもよし。ただ、元の色を自分で忘れないようにしましょう。
誰が見てもわかりやすいのは無色透明です。
ブレーキフルード交換時期
遅くとも、バイクメーカーが推奨するメンテナンスサイクルを守りましょう。
おそらく「2年に1回交換」と定められていると思いますが、できれば1年に1回は交換したほうがいいと思います。
私自身は、ふだん早めに交換しています。
フルードが劣化するとブレーキタッチが変わってくるので、気になったら即、交換。
走行距離が長い場合は1ヶ月や2ヶ月ぐらいの交換サイクルです。ここまでやらなくてもいいと思いますが、どんなにサボったとしても、2年に1回は交換しましょう。
万が一の時、ブレーキが効かないと一巻の終わりですからね。
ブレーキキャリパー固着の原因
メーカー純正のキャリパーピストン(真鍮製)は錆びやすいです。
メンテナンスを怠ると、サビが発生して、ピストンが戻らなくなったり、2つあるピストンのうち、1つだけ固着する(片利きする)ことがあります。
同じ純正キャリパーでも、ピストンがステンレス製やアルマイト処理されたものはほぼ、錆びないため固着しにくいです。

写真はブレーキパッドを外した状態。キャリパーピストンがサビだらけです。
続いて、ブレンボキャリパー。

同型キャリパー
同じキャリパーでも、ブレンボ製のキャリパーピストンはアルミ製。アルマイト処理されているため、さびたり、固着することはありませんでした。(5年間使用。ほぼノーメンテ)
手でピストンを押すと、スッと入ってくほど、動きはスムーズなまま。

本来ならブレーキレバーを離すと、キャリパーピストンが赤い矢印の方向に動きます。
ところがご覧のようにピストンがサビたり、中のシールが劣化すると、ピストンが戻らなくなって、ブレーキを引きずったり、ピストンが固着したりします。


キャリパーのくぼみ(写真上)にシールが入っていて、シールの中にピストンがハマっています。その状態で、ピストンがブレーキパッドを押し出しているわけです。
で、錆などでシールを傷つけたり、キャリパーピストンに凹ができる(錆を落とすために磨きすぎる)と、ブレーキフルードが漏れてきます。この原理は、フロントフォークと同じですね。
今回はワイヤーブラシを使ってピストンのサビを取り除きました。
ついでにスライドピンのサビ取りと、グリスアップも。

ブレーキパッドの裏側、パッドピンやキャリパーを止めるボルトにシリコングリスを塗布。
固着させたくない箇所にシリコングリスを使用します。
(念のために言ってきますが、ブレーキパッドのディスクに当たる面には塗らないように)

一度サビが発生すると、またサビやすくなります。
LEOもキャリパーの片側が固着して、ブレーキの利きが甘くなることがあります。できれば、ピストンやシールを新品に交換した方がいいでしょうね。
せめてもの対応として、サビを取り除いたキャリパーピストンをパーツクリーナーできれいに清掃したあと、ブレーキフルードを少量、塗ってからピストンの揉み出し作業をおこないました。
(ピストンを押し戻したり、360℃回転させること)
手で押してスッと入るほど柔らかくはなりませんでしたが、当初に比べれば、ピストンの動きがスムーズになりました。
ここまでの話を簡単にまとめると、ブレーキの利きはフルードやキャリパーピストン、ブレーキホースやパッド、ディスク。キャリパーの戻りは、キャリパーシールによって決まります。
キャリパーピストンを磨く3つのポイント
錆の程度によりますがLEOの場合、錆だらけだったので、ブラシとコンパウンドを駆使しました。
1,ピストンを押し出し、しんちゅうブラシで錆を取り除く(錆の凸を取り除くイメージ)
2,ピカール(研磨剤)など、やや粗めの研磨剤をボンスターに付けて軽く磨く
3,#9800ぐらいの細かいコンパウンドとスポンジで磨く
何度もいいますが磨きすぎないことと、コンパウンドが付いたまま、ピストンをキャリパーの中に押し込まないよう注意してください。(ブレーキ液の中にコンパウンドが混入して変質する恐れがあります)
ピストンプライヤーを使って、ピストンを回し、くまなく磨きます。
マスターシリンダーを組むときのポイント
純正のマスターシリンダーは、ネジが固着しやすいです。

ネジ山にシリコングリスを塗布しておくと、固着しにくくなります。(ネジの頭ではなく締まる部分です)
ブレーキメンテナンス工具
キャリパーのピストンを押し戻したり、回転させる工具です。参考まで。
ピストンプライヤー
キャリパーピストンは、手で押してスッと入るのがベスト。力を入れないと入らない場合、シールやピストンの交換時期にきているかもしれません。
ワイヤーブラシ
今回のキャリパーはかなり錆がひどかったので、硬めのステンレスブラシで磨きました。
軽い錆なら、柔らかいしんちゅう製がいいと思います。
シリコングリス
個人で使うには量が多いので、ワコーズにこだわらなくてもいいと思います。
ブレーキ(パーツ)クリーナー
ブレーキクリーナーには速乾性と、乾きにくいタイプがあります。
このBC-8は後者の中乾性です。
汚れがひどい場合、速乾性のブレーキクリーナーを使うと落ちにくいので、大量に使わざるを得なくなり、不経済です。
そのため筆者の場合、汚れが激しい場合はBC-8を少し使って、ブラシでこすり、それから速乾性のブレーキクリーナーを使います。そのほうが汚れも落ちやすいですし、クリーナーも無駄に消費しなくてすみます。
トータルで考えると、このほうが経済的かと思います。
(速乾性のブレーキクリーナーに関しては、安いものを使ってます)
ブレーキ(パーツ)クリーナーは、製品によっては樹脂製パーツ(プラスチックやゴムなど)にダメージを与えることがあります。樹脂製パーツに使用するのを控えるか、使用する場合、よく説明書きを確認して、選んでください。
今回使用したブレーキフルード
キャリパーピストン研磨剤 ピカール
液体コンパウンドトライアルセット
手間暇をかけるのであれば、ピカールではなく、コンパウンドトライアルセットを推奨します。あまり手間をかけたくない場合、ピカールだけでいいでしょう。
コンパウンドトライアルセットは、メーターやスクリーン、カウルなど、塗装部品の傷消し・研磨に重宝します。
ブレーキメンテナンスの効果
ブレーキの引きずりや、キャリパーの固着が解消されて、バイクの押し引きが軽くなりました。
とくに気になっていた、フロントブレーキ引きずりによる、スロットルを開けて加速する時の、若干のもたつきがなくなって、スッと加速してくれるようになりました。
利きが向上し、ブレーキがコントロールしやすくなりました。
中古で入手したバイクの場合、ブレーキ回りはとくに確認しておいた方がいいでしょう。
筆者は1980年代の旧車から、インジェクションの大型スーパースポーツバイク60台以上の修理に立ち会っていますが、ブレーキが固着していたり、引きずっているケースがひじょうに多いです。

パッドの残量(ディスクブレーキとの当たり面)がほとんど残っていない。
ギリギリまで使わず、早めの交換を心がけたほうがいい。使用限界を超えるとブレーキの利きが悪くなるだけではなく、パッドが直接ディスクに当たるため傷が入る。
もし、ディスクに深い傷が入ってしまうと、ディスクごと交換しなければならなくなる。結局、修理代が高くついてしまうことになる。
チェックポイントまとめ
ブレーキフルードや、キャリパー以外にも、ブレーキがきちんと動作するために、大事なポイントがあります。
「ブレーキの効きが弱いな」と思ったら、以下をチェックしてみてください。
・ブレーキレバーのタッチ(エアが混入していないか)
・ブレーキパッドの残量
・ブレーキフルードの状態(色や量)
・キャリパーピストン(錆や固着、ブレーキの引きずり、シールの劣化)
・ブレーキディスクローターの減り(厚み)
・ブレーキホースの劣化
・タイヤの溝や製造年月
・タイヤの空気圧
もともと純正ブレーキの効きが弱いのか、整備不良だから効きが弱いのか、的確に判断できるかと思います。
最後に重要な事ですが、ブレーキを整備した後はすぐ走り出さず、車体を押し歩きながら、きちんとブレーキが利くかどうか、確認をおこなってください。



