CB125T用 中華製142ccボアアップキットを組んで47,968km走行した、走行と耐久性のインプレッションです。
についてお伝えします。
「どうすればエンジンを長持させることができるのか?」興味のある方の参考になればと思います。
はじめに
最初にブログ(アメブロ)に記事を公開したのが2015年11月14日。
当時、ネット上で実際にボアアップキットを組んだという情報はありませんでした。おそらく、ネット上で情報公開したのは私が最初ではないかと思います。
記事の直後から「CB125T ボアアップ」でブログに訪れる人が日に日に増えたり突然、街で声をかけられたこともありました。(かなり驚きました)
それからだんだんネット上で、CB125Tをボアアップしたという人を見かけるようになりました。
その後、筆者は60基以上のバイクエンジンオーバーホールに立ち会っています。
1970年代から2000年代の旧車、インジェクションのスーパースポーツ車など、分解されたエンジンを実際に目にしつつ、車種ごとの構造的に弱い部分や、傾向をプロから教えて頂いています。
エンジンを長持ちさせる方法を研究しています。
ボアアップしたバイク

空冷4サイクルOHC二気筒 125cc 2001年モデル
中国製 142ccボアアップキット

某オークションで手に入れました。
シリンダー、ピストン、ピストンリング、クリップ、ピストンピン、ガスケットなどが一式揃って5,000円〜6,000円ぐらいでした(ちなみに純正品はシリンダー単体で35,000円ほど ※執筆時)

47,968km走行後のシリンダー・ピストン
冒頭でお伝えしたとおり、ボアアップ後47,968km走行しました。写真を見ながら解説します。



上下とも同じボアアップキットのピストンで、同一のものです。
2015年11月13日 メーター走行距離37,526km 142ccボアアップ(腰上OH)
2017年11月12日 メーター走行距離66,724km クランクシールからオイル漏れのため、エンジンフルOH(シール類の交換とカーボン除去のみ)
2021年7月21日 メーター走行距離85,494km エンジン分解検証
カーボンの付着ぐあいが違うのは、18,770kmという走行距離の差だけではなく、ボアアップ直後からオイルシール交換のためのエンジンOHまでの間、継続的にガソリン添加剤を使用していた影響がおおきいと思います。
皮肉なものですよね、良質なエンジンオイルを交換しただけのほうが、ピストンがきれいなんて。

検証結果を踏まえて、2017年のOH後はガソリン添加剤を使用せず、引き続きエンジンオイル管理を徹底。
その結果が、両者のちがいになりました。
ちなみにCB125T用の中華製ボアアップキットは、交換用の部品が販売されていないので、ピストンリング交換なしで47,968kmです。
(そのうち15,820kmは、「エンジンにダメージを与える」と一般的に言われているパワーフィルターを装着して走行)
にもかかわらず、目に見えてエンジンオイルが(燃焼して)減ったり、マフラーから白煙を吹くことは最後まで、一度もありませんでした。
驚異的な結果といえるのではないでしょうか。
他車のピストン
排気量・走行距離は異なりますが、エンジンをOHしたほかの車種のピストンを見てみましょう。


かなりカーボンがたまっている部類です。

同じリッターバイクでも、ZX-10Rは走行距離が1.8万キロということもあって比較的、カーボンは少なめ。



ここまでは、平均的な状態です。
燃調状態にもよりますが、排気量が大きくなるほどエンジンを高回転まで回せないため、カーボンがたまりやすくなる傾向にあります。小排気量でも、短距離走行を繰り返したり、あまりエンジンを回さないで乗っていると、ピストンやマフラーにカーボンがたまります。
(よくあるのが、カブやスクーターのマフラーがカーボンで詰まるというケース)
摩耗状態のチェックと計測

400ccからリッターバイクのエンジンを見ていると、状態が悪いピストンピンは、あからさまに段付き摩耗しています。CBTのピストンピンも見た目は摩耗していますが、そこまでひどい段付きはありません。
走行距離や、中華製ということを考えると、なかなか優秀です。
続いて、新品の142ccピストンと、軽く洗浄したあとのピストン(47,968km走行)。



1,080基以上、エンジンのOHを手がけているガレージ湘南の日向社長いわく「ピストンリングさえ交換すれば、まだまだ使えるレベル」のピストン。
実際にマイクロメーターで計測してみました。

純正ピストンの使用限界:43.87mm以下交換
仕様限度:0.1mm以上交換
142cccピストン
新品:46.99mm〜47.00mm
47,968km走行後:46.98mm
おなじ中華製新品と比較して、使用したピストンはおよそ0.01mmしか減っていませんでした。もし、交換用のピストンリングがあれば、リングを交換して、ピストンに表面処理を施せば、おもしろいでしょうね。
では、シリンダーはどうでしょうか?


残念ながらエンジンが小さすぎて、適合するシリンダーゲージがありませんでした。
しかし目視で判断する限りでは、ピストン同様、まだまだ使用できる状態。
ちなみに400cc以上の旧車(製造から10年超)は、メーター走行距離3万km以下でエンジンオーバーホールするケースがめずらしくありません。
今回は、CB150T(CB125T改)を降りるタイミングでエンジンを分解して、検証をおこなっていますが、そのままでも十分、乗り続けられる状態でした。
一般にミドルクラスから大排気量と比較して、小排気量はエンジンへの負荷が大きいです。
しかも、今回テストしたシリンダーやピストンは中華製。それでここまで長持ちした要因は
1)CB125T用中華製ボアアップキットに関しては、純正品と遜色ないレベル
2)油温管理(エンジンオイル管理)がエンジン寿命を決定づける
といって、差し支えないでしょう。
純正品や、有名な社外品を使ったとしても、扱うライダー次第で、エンジン寿命が通常より短くなることがあるからです。
実際のところ、何十基と分解したエンジンを観察していると、「走行距離のわりにダメージがひどい」エンジンが少なくありません。(くわしくは後述します)


64,000lm以上走行した、CB750 RC42後期型のシリンダー。カムシャフト含め、良好な状態だった。
走行テストの条件
今回、検証するにあたって、いくつかのルールを設けてテストをおこないました。
1,プロのメカニックにより正しく組んでもらった
当然ですが、誤った組み方をしてしまうと、きちんと検証できないため、プロに依頼しました。
といっても、バルブを擦り合わせするとか、特別なことは一切せず、単純にエンジンのカーボンを除去して、ガスケットやシール類を交換して、組んでもらいました。
ただし、より正確にテストするため、交換できるパーツは新品に総取っ替えしてもらいました。
ボアアップ時に交換した部品
シールバルブステム、ホルダージェット、ニードルセット、バルブEX、バルブインレット、リテーナバルブスプリング、コッター、ガイドカムチェーン、Oリング、スプリングアウタ、スプリングインナー、パッキンヘッドカバー、ガスケットシリンダーヘッド、ピストンリング、CDI、キャブレター本体、ステーターコイルその他
2,プロが推奨する方法を守る
エンジンの暖気や、オイル管理、走り方などを教わってほぼ、そのとおりに実行しました。
まさかこれほど、中華シリンダーが長い距離持つと思っていなかったので、40,000kmまでは90%以上の精度でルールを徹底して、その後は、わざとエンジンに厳しい扱い方をしてみました。
冬など、気温が低い時期に、エンジンが冷えた状態でエンジンを高回転まで回してみたりですね。


ちなみにボアアップ後の慣らし運転は100km。新車ではないので、1,000kmもやる必要はないからです。
バルブガイドを交換した場合は、もう少し長めにした方がいいでしょうね。
走行シーン
オールシーズン、市街地、高速道路、峠などあらゆる条件下での走行を実施しました。
都心ほどではないですが、渋滞を走る事もありましたし、終盤は10km以下のチョイノリも多かったです。
もともとCB125Tは高回転型エンジンですから、かなり回して走っていました。
使用したオイルと交換サイクル
ニューテックシリーズとBIKE FS HR Ver3 10W-40
初回オイル交換100km、2回目500km、3回目1000km、以降3000kmごとに交換

※オイルフィルターは、存在しないバイクなので交換していません
ちなみにスーパーゾイルを使用しています。

インプレッション
走行性能 124ccと142ccのちがい
124ccと142ccでは数字上、あまり大きな違いが無いように思えるかもしれません。
ところがこの「ちょっとした差」が、いざ乗ってみると、大きな違いになります。
とくにパワーやトルクのすくない小排気量車ですから、体感的にはトルク感のちがいが顕著です。低速、低回転域で乗りやすくなりますし、回しても力強さを感じられるようになりました。
125ccよりパンチがあって乗りやすく、高速道路も走れる。
250ccクラスより車体が軽くて、エンジンを回して楽しめる。
・・・比較的、安全な速度領域で。
私にとっては、理想的なエンジンでした。
ボアアップした2015年当時では、ジクサー150やCBR150R、YZF-R15など、2021年現在とちがって150ccクラスは、日本ではほとんど注目されていない存在。
「もし、150ccクラスの魅力に気づいたら乗る人が増えるだろうな」
と思ったものですが、数年を経て予想どおり、ジクサー150やGSX-R150を筆頭に、日本でも注目される排気量になってきました。
扱いきれるパワーや、軽い車体を好むライダーにとっては、楽しめる排気量ですから、当然といえば当然でしょう。
強制的にスピードが出ない排気量なので、飛ばさずにスポーティーな走行が楽しめるクラスだと思います。
(なかでも高回転型ツインエンジンを思う存分、回して走れるのはCB125Tだけだと思う)
ふだんはソロツーライダーの筆者ですが、CB150Tでミドルクラスのバイクと一緒に走ったり、リッターバイクに混じってマスツーに行ったことがあります。相手がその気になれば直線で離されますが、CBはコーナーで詰めていく(あるいは離していく)という感じ。
ちなみに高速道路などの巡行を考慮して、フロントスプロケを標準の15丁から16丁に変えていました。
耐久性
「価格が安い割に長持ちする」と言うよりは、純正品と同等以上の耐久性が確保されている印象です。
もしかしたらCB125T用が特別なのかもしれません。
同じ中国製のほかの車種と比較しても、ここまで高耐久性があるのは珍しいようですからね。詳細は不明ですが、CBTのボアアップキットを作っているのは、現地法人と縁のある会社かもしれません。
CB125Tは2003年に日本国内での生産が終了。非公式だが「日本国内モデル生産終了後は中華人民共和国で現地法人の嘉陵本田が引き続き生産を行っていたが、2005年に製造を終了した。」という情報がある。
少なくともCB125Tのボアアップキットについては、見せかけだけの単なるコピー商品ではない気がします。
もう一つ、
今回のテスト結果の要因としては、エンジンのマネジメントが挙げられます。先ほど触れましたように、エンジンオイルの管理を徹底するだけでエンジンの寿命は大きく変わります。
つまりライダーのエンジンに対するふだんの扱い方です。
実例 エンジンが壊れる原因トップ3
・オイルを交換していない
・オイルが規定量入っていない
・エンジンが冷えた(油温が低い)状態で高回転回す(とくに冬場、暖機運転を怠った場合)
むかしは「当たりエンジン」などと言いましたが、当たりのエンジンでも扱い方が悪ければ劣化します。
きちんとエンジンを組んで、丁寧に扱えば意外と長持ちする
それが142ccボアアップキットの印象です。
ボアアップやエンジン改造の注意点
CB125Tにかぎらず、エンジンパワーを上げると、弱い箇所に負荷がかかるため、そこから壊れることがあります。
ヨシムラがCB750Fでレースをやっていた時代、4発ともピストンがヘッドに当たって、エンジンが壊れることがあったそうです。よく調べてみると、伸びていた純正コンロッドが原因。
つまりピストンの重量が増える(純正より重くなる)ことによって、コンロッドが耐えきれなくなったわけです。
このような事があったため、ヨシムラではCB750F用のボアアップキットを販売しなかったと聞いています。
(こうしたことを知ってか、知らずか、他社は販売していたようですが・・・)
純正で鋳造ピストンが使われているものを、鍛造ピストンに交換した場合、CB750Fのような事例が起こるようです。たとえば、CB223S(FTR223)とかをボアアップして、ワイセコピストンを組んだりした場合ですね。
CBTの場合、排気量UPはごくわずかですし、ピストンも純正と同じく鋳造だったので、ボアアップによる直接的なトラブルはありませんでした。
ただ、排気量を大きくすると、場合によってはコンロッドだけではなく、クランクシャフトやオイルポンプなどの交換が必要になることがあります。
一般的にノーマルエンジンの出力に合わせて各部品は設計されているので、パワーが上がれば上がるほど、エンジンの耐久性は落ちますし、強度の弱い部分が壊れるというリスクが高くなります。
100人VS1000人の物置
機械などを設計する際、「限界度設計」という考え方があります。
かんたんにいうと、「どのぐらいのキャパまでならOK」という限界値です。
たとえば、100人乗っても壊れない物置をつくるのと、1000人乗っても壊れない物置をつくるのでは、設定する限界値が違いますね。
限界値を100人にしている物置に、1000人乗って壊れるのは当然といえますし、1000人乗っても大丈夫な物置に、100人乗っても全然、余裕があります。
「それだったら、1000人に耐えられるものをつくればいいじゃないか」
と思うかもしれませんが、限界値を高くすると、そのぶん頑丈につくらないといけなくなります。たとえば、柱を太くしたり、壁を厚くしたりですね。
そうすると、重くなったり、コスト(費用)がかかるという問題が発生します。
とくにバイクの場合、走って動くわけですから、重くなるのは大きなマイナスです。
つまり「強度」「重さ(軽さ)」「コスト」など相反するものを、どうにかバランスをとりながら設計しているということです。(たいへんな作業だと思います)
で、話を一気にすすめると
まだコンピューターなどが現在ほど進歩していなかった時代は、「どこまでがOKで、どこまでが限界なのか?」まだわからなくて、手探りしていた時代だったわけです。
だから比較的、安全マージンをとって設計せざるを得なかったんですね。
ところが、いろんなテストや、技術の進歩、コンピューターの進歩によって、だんだん限界というものがわかってきた。そうすると、必要なぶんだけ安全マージンをとればいい。
言い換えると、「念のため」という不安から限界値を高く設定せずにすむようになりました。
その結果、
生産コストが安くなった反面、ちょっとでも限界値を超えると、壊れてしまう。という事が起きるようになりました。
なんでもメリットとデメリットは表裏一体ですからね。
そういった意味で、むかしのバイクと現在のバイクを比較した場合、むかしのバイクのほうが若干、許容範囲に余裕があるイメージです。ただ、新しいバイクでも古いバイクでも、あらかじめ設定された限界値を超えると、壊れるのは同じです。
とくに熱的にきびしい空冷エンジンを下手に改造すると危険です。
(グロムをボアアップする人が多いようですが、よく壊れるという話を耳にします)
さて、ここまでちゃんと読んでくださった方は、「エンジンを改造するって、簡単じゃないな」ということがお分かりいただけたかと思います。
逆にいうと、簡単に考えている人ほど、よくエンジンを壊してしまいます。
そもそも論になりますが、ボアアップやエンジンチューニングはもともと、レースが前提で、公道で長く走ることを前提としていませんからね。
やればやったで、ノーマルエンジン以上に、扱い方やライディングに気をつける必要が出てくることもあります。
ボアアップや改造をする際は、デメリットを理解した上で検討するほうがいいと思います。
それが筆者自身が検証したり、修理に持ち込まれるバイクを見てきた上での結論です。


失敗事例
ボアアップというより、エンジンオーバーホールでの失敗事例を紹介します。
ボアアップしてから29198km走行後(メーター走行距離66,724km)、クランクシールからオイル漏れが発生しました。

年式や走行距離を考えると、ボアアップが直接的な原因になっているかどうかわかりませんが、「腰上だけOHして、その後、腰下でトラブルが発生する」というのは、よくある話です。
水が高いところから、低いところに流れるように、機械も、もっとも弱い箇所に負荷がかかります。
だからエンジンの腰上をOHすれば、それまでより大きな負荷が、腰下にかかることになります。今日明日、すぐにどうなる事はなくても、徐々に疲労が蓄積してある日、トラブルとなって症状が現れるというわけです。
いまでこそ私も、オーバーホール中のエンジンを数十基ほど観ていますが、ボアアップ(エンジン腰上OH)した当時はこのような原理を知りませんでした。
ですからボアアップから2年後に、またエンジンをオーバーホール(腰上腰下フルOH)する展開になるとは、想像もしてなかったです。
日常的にエンジンをオーバーホールしているプロに言わせると「エンジンOH=腰上腰下を含めたフルOHが基本」なのだそう。理由は先に述べたとおり、腰上だけをOHすると、腰下にまつわるトラブルが発生しやすいから。これは4ストだけではなく、2ストも同じ。
私自身の経験や、ほかのバイクの事例を踏まえた上でいうと、どうせオーバーホール(ボアアップ)するなら、クランクケースも分解することをお勧めします。
乗り続けていると、いずれオイル漏れが発生しますからね。



