プロが教えるエンジンを長持ちさせる方法シリーズ【1】
バイクの適正油温とエンジンを壊すライダー、壊さないライダーの違いは?
筆者のCB150T(CB125T改)は空冷エンジン。
都内某所で中古で購入して、納車されたのは夏。オーバーヒート気味だったこともあり、様々なエンジンオイルやオイル添加剤を試しました。
ある時、鈴鹿8耐に15年連続で参戦していたエンジンオーバーホール専門店「有限会社ガレージ湘南」のオーナー、日向社長と出会い、バイクの扱い方やオイルについて教えて頂きました。
その内容を筆者自身が6万km以上、実践して効果のあったことをシェアします。
日向社長はヨシムラ(現ヨシムラ・ジャパン)の創業者 ポップ吉村氏から直接、エンジンチューニングを教わり、バイクショップを経営しながらレース活動されていたそうです。
鈴鹿8耐にはプライベーターとしてRC30(VFR750R)やRC45(RVF750)、NS400R、GS1000SZR、GSX-R750、SV1000Sなどで参戦。(通算16年間)
創業時のワコーズオイルの開発ライダーも務めていて、モチュールやシェルアドバンス、シルコリン、ウインズ、ベリティなど10社ぐらいのオイルをテストしたそうです。
(お店で使ってるグリスのいくつかは、日向社長が独自に作られています)
世代的には、ケニー・ロバーツ、ワイン・ガードナー、三浦昇、八代俊二、宮城光、平忠彦、辻本聡、クリスチャン・サロンなど1980年代を代表するライダーと一緒に走っていたそうです。そのうちの何人かとは、よく一緒に遊んだとか。※敬称略
8耐以外にも公道レース「マカオGP」や韓国・インド遠征など、海外レースに出場。
バイクのエンジンだけで1080基ほどオーバーホールを手がけていて、メカニックとしても、ライダーとしても、百戦錬磨と言って差し支えないでしょう。
(名前は伏せますが、某有名レーサーのマシンの慣らし運転を代わりに務めていたこともあります。レーサー本人は慣らし運転ができず、エンジンを壊してしまったため)
さて、そんな日向社長にお話しを伺いました。
バイクの適正油温は80℃〜100℃、MAXで120℃ほど
これはレースでも市販車でも同じだそうです。
エンジンを壊すライダー、壊さないライダー
鈴鹿8耐の話ですが、ふだんスプリントレース(Moto-GPや全日本など比較的、短い走行距離で競うレース)をやっているライダーは、よくエンジンを壊したそうです。
スプリントと同じ感覚で走るので、エンジンを回しすぎてオーバーヒートさせてしまい、エンジンが壊れるんですね。
たとえば、デビッド・アルダナ選手(アメリカ出身のロードレーサー)はよくエンジンを壊していたそうですが、グレーム・クロスビー選手(ニュージーランド出身のロードレーサー)は巧く乗りこなしていたとか。
ある時、鈴鹿8耐に出場した日向社長がペアライダーと交代する際、油温が120℃もあって驚いたそうです。
日向社長が走ると、100℃ぐらいを推移していたそうですからね。20℃の差は大きいです。
ライダーの走り方によって油温は大きく変わる
という良い例だと思います。
後日、エンデューロレーサー 石井正美氏のメカニックを務めていた橋立氏(元国際A級オフロードレーサー)に話をうかがいましたが、オフロード界でも上手なライダー(とくに国際A級ライダー)ほど、エンジンを壊さなかったそうです。遅いライダー、下手なライダーがよくエンジンを壊すと仰っていました。
一般ライダーが公道を走る上で、注意すべき点は?
エンジンオイルの宣伝文句には「高温にも耐える」と書かれていたりします。
が、油温120℃を超えると、たとえオイルが大丈夫でもエンジンがダメージを受けてしまいます。
(これはオイルメーカーのエンジニアの方が仰っていました。現代の技術だと、200℃〜600℃に耐えるオイルを作ることが可能だそうです)
具体的には、エンジンが焼き付いたり、オーバーヒートして熱でエンジンがひずんで(変形する)オイル漏れが発生する原因になります。
もし夏場の渋滞にハマったら、しばらく休憩をとったり、遅いスピードで高回転を多用しないようにしましょう。
知ってる人は当たり前に思うかもしれないですが、これ、重要です。
電動ファンでもついてない限り、空冷も水冷も、走行風が無ければ油温は下がりません。
私がCB150T(4スト空冷二気筒)でテストした限りでは、真夏は40km/h超で走らないと、油温がほぼ下がりませんでした。
高速道路の場合は10,000rpm以上、回し続けても100km/h以上で走行するので問題ありませんが、ノロノロ運転では、むやみに高回転を使わないようにしましょう。
逆にエンジンが冷えている時(油温が80℃未満の場合)は、始動していきなり高回転まで回さず、エンジンが暖まるにつれて徐々に回転数を上げるようにしましょう。
もし、こうした暖機運転を怠った場合、エンジンが焼き付いたり、エンジンの寿命を縮める事になります。
(とくに冬場はこの手の修理依頼が増えます)
以上が基本的な考え方です。
もちろんバイクによって油温の上昇スピード、走行時の冷却性能は大きく異なります。ノーマル車両なら神経質になる必要はありませんが、できれば油温計があったほうが安心感があります。
走り方が変わりますからね。
日常的な扱い方の積み重ねが、エンジン寿命を大きく左右します。
「そんな大げさな」
と思うかもしれませんが、筆者は70基以上のエンジンオーバーホール現場に立ち会いましたが、走行距離2万キロ以下や、1万キロ以下のエンジンオーバーホールはザラです。
自分でも試した結果、エンジンオイル管理がエンジン寿命を決定づけると実感しています。
よくある疑問
Q.オーバーヒートさせないために信号待ちでエンジンを切ればいいのでは?
そう思った筆者が、油温計を使って信号待ちで検証。
結果は、夏場の炎天下では全くといっていいほど、無意味だとわかりました。
日陰や風の強い日ならまだしも、灼熱が降り注ぐアスファルトの上では、ほんの数分間エンジンをストップさせたぐらいでは油温は、ほぼ下がらなかったからです。
Q.エンジンに冷水をかけて冷やしてもOK?
シリンダーではなく、クランクケースになら、冷水をかけても大丈夫だそうです。
日陰が見当たらないなど、緊急時に覚えておくといいでしょう。
水冷エンジンの場合、エンジンが冷えている時にクーラント(冷却水)がきちんと入っているかどうか、確認しておくことをお勧めします。
古いバイクや中古車(とくに不動車)の場合、クーラントが入ってなかったり、ラジエーターの中が錆びていたりするからです。
エンジン内部の冷却水の通り道(ウォータージャケット)が錆びている。
ラジエーターの電動ファンが動作しているかどうかも、確認したほうがいい。