キャブ車を愛するライダーにとって、良いニュースと悪いニュースがある。
まず、2ストの修理現場で起こっている状況を説明しよう。
悪いニュース
ご存じの方もいると思うが、ケイヒン(京浜)やミクニ(三国)などのメーカーが、キャブレターの生産を終了している。
2000年ぐらいまで豊富にあった日本製の社外キャブも、遠い昔の話になってしまった。
そして、いまや純正キャブレターの新品も枯渇してきている。世界的に見て、純正新品キャブが手に入らないのだ。
キャブレターは消耗品
キャブレター本体が摩耗すると、セッティングが出なくなってくる。
すると、いわゆるジェット類や、ニードルなど内部パーツ交換では対応しきれなくなるわけだ。
なかにはキャブレター本体が消耗品であることを知らない人もいるだろう。
もちろんキャブレターは、タイヤやブレーキほど、頻繁に交換したり、消耗する部品ではない。しかしバイク同様、20年、30年以上も使用することを前提につくられた製品ではないのだ。
不注意で壊さなくても、クラック(ひび)が入ったり、割れたり、穴が空くこともある。
純正中古キャブレター
「現在、使っているキャブがダメなら中古品を探せばいい」
だれもがそう思う。
ところが、まともに使える中古品を探すこと自体がむずかしい。お伝えしたように、キャブレターは消耗品なので、見た目だけピカピカでも、機能しなければただの置物になる。
中古のエンジンパーツにも言えることだが、摩耗状態が記載されていない品を購入するのは宝くじを買うようなもの。
安い金額ならまだしも、(たとえばRGV250Γだと)中古のキャブが一つ7万円とかで販売されていたりする。
中古パーツにまつわるトラブル(というかほぼ詐欺)は、筆者もエンジンオーバーホールや、レストア・修理の現場でいくつも目の当たりにしてきた。
中古キャブでよくあるのは、外装をブラストで小ぎれいにして、あまり知識のない人に高値で売るという手法だ。
「見た目には大丈夫そうだから買ったんですが・・・」
いざ中を開けると、ひどいありさまだった。という話は日常的によくある。
良いニュース
さいわいなことに、社外品のキャブレターが存在する。
その多くは、ケイヒン製キャブレターをコピーした海外製。(おそらく3Dスキャナーなどを使ったのだろう)
一例
KOSO 台湾製
DIPPER 台湾製
UmaRacing マレーシア製(日本代理店はKN企画)
キャブレターは、もともと非常に精密なパーツのひとつ。
ケイヒン製キャブをどれくらいの精度で、コピーできているかは、テストしたことがないので不明だ。公道で使用する場合、アイドリングしないと使えないので、アイドリングできるかどうかも重要。
分離給油に対応している製品かどうか?
の確認も必要だ。
・汎用品のため、取り付けに加工(工夫)が必要な場合がある
・単気筒用なので2気筒以上に使用する場合、スロットルワイヤー、チョークワイヤー、取り回しなどをよく検討する必要がある
簡単ではないが、手段として選択の余地が残されているだけ、まだいいかもしれない。
21世紀のキャブレター SmartCarb
レクトロンの設計者がSmartCarb初期モデルを設計した
見た目からして、ケイヒン(またはケイヒンのコピー製品)とは明らかにことなるデザイン。
アメリカのミズーリ州に本拠をおく、SmartCarb Fuel Systems社のキャブレターだ。キャブ世代にとっては、いくつか、信じがたい特徴がある。
・10%のパフォーマンス向上
・燃料効率が30%向上
・排気ガス排出量を50%削減
純正品のキャブと比較した場合、純正の性能を上回る、とされている。
・海抜6705.600mまでの自動高度/気圧補正。
標高差の影響を受けるキャブ車にとって、これは画期的なシステムだ。
ちなみに、世界一高い山エベレスト(チョモランマ)が高さ8,848m、富士山が3,776.12m。一般的に標高が高くなるにつれて濃くなり、吹け上がりがゴボゴボして、アクセレーションが悪くなる。
標高が高いところに合わせれば、トルクが細くなる上に、平地では薄すぎるし、焼き付きのリスクが高まる。
SmartCarbはそのジレンマや、煩わしさがない。
(2ストオイルの記事でお伝えしているように、こうした補正機能はKTMやハスクバーナなど、インジェクション車ぐらいしかなかった)
・ツールを使用せず数秒でキャブ調整が可能
キャブセッティングといえば、走行のたびにキャブを分解して、メインジェットやスロージェットなどを交換。
ひたすらそれを繰り返す・・・というのが当たり前だった。しかしSmartCarbには、キャブのニードル位置を変更するシステムが採用されていて、キャブを分解する必要がない。
キャブの耐久性については、下記のように記載されている。
SmartCarbは非常に耐久性に優れています。ボディーの部品は高級アルミニウムからCNC加工され、スロットルスライドは摩耗に強いテフロンアノダイズでハードコートされています。常にクリーニングを行い、サービスパーツを交換することで、SmartCarbは何年も優れたパフォーマンスを維持することができます。
SmartCarb Fuel Systems 筆者訳
会社概要
スマートカーブ・フューエルシステムズは、2サイクルエンジンのエキスパートであり発明家、そして現在の最高技術責任者であるコーリー・ダイスによって設立されました。現在、チームは彼の家族、信頼できるアドバイザー、メンター、友人、そして業界とつながりのある専門家や思想家の広い範囲で構成されています。
SmartCarbの技術は、性能、排ガス規制、燃費の面で最新の2ストロークEFI燃料システムと直接競合し、シンプルさと費用対効果の面で優れています。
私たちの使命
私たちの使命は、モータースポーツへの情熱を、世界の軽交通機関や個人発電所からの排出ガスと関連する健康への悪影響を大幅に削減する破壊的な燃料システム技術の開発・普及に注ぐことです。
(同社公式サイトより筆者訳)
ラインナップ
オフロードメーカーを中心に2スト・4ストのほか、ディオ(AF27/28)用のキャブレターもある。
ホンダ、ヤマハ、カワサキ、スズキ、KTM、ハスクバーナ、ガスガス、ベータ、シェルコ、スコルパ、ファンティック、フサベルほか
車種専用モデルのほか、セミ—オーダーすることもできるようだ。
SC2 SmartCarb 40mm/38mm/36mm/28mm/26mm
価格は1つ90,542円から119,039円(サイトに掲載されている金額)
もし、2スト2気筒に使えるなら、4気筒のFCRキャブがだいたい20万円ぐらいだから、同じくらいの金額だ。
SmartCarb正規代理店
日本でSmartCarb製品の正規代理店はまだ存在しないようだ。(執筆時点)
キャブレターはとくに、「製品を売ったら終わり」というパーツではなく、アフターケアが必要な部類。それもあって、日本ではまだそれほど普及していないのだと思う。
・エンジンの状態を的確に把握すること
・セッティングに必要な適切な判断力
もともと、キャブセッティングはプロでもむずかしい。
あたらしい技術であれば尚更だ。しかし、2スト愛好家としては、ぜひ日本にも代理店をつくってほしい。
余談だが、SmartCarbをガレージ湘南の日向社長に紹介したところ、ひじょうに興味を示していた。
「資金的な余裕はあるけど、SmartCarbを使いこなせる自信がなくて迷ってる」
という方は(神奈川県まで来られる人限定になるが)相談してみるといいだろう。
SmartCarbを自分で注文して、持ち込みで、取り付けやセッティングを依頼するなら対応してくれると思う。
フェイスブックには、SmartCarbユーザーたちのフォーラムがあるので、情報収集できると思います。