バイクを購入する際、「正規ディーラーで買うか、それ以外のショップで買うか」議論されることがあります。
正規ディーラーで購入する理由は、購入後のアフターフォローを期待してのことですが、じつは、あまり一般に知られていない落とし穴があります。
・正規ディーラーが突然、閉店したり
・ショップは存続するけど正規ディーラーではなくなってしまう
というケースです。
なかなか私たち、一般のライダーが知る事のできない正規ディーラーの仕組み(大人の事情)を、事実にもとづいてレポートします。
おそらく、知っていると知らないとでは、180度バイクショップを見る目が変わると思います。
正規ディーラーとは
バイクメーカー(もしくはバイクメーカーの子会社など)と特約店契約を締結した販売業者のことです。
新車バイクの販売だけではなく、純正部品の販売、点検整備、リコールやサービスキャンペーンなどもおこないます。
ディーラーブランド名の一例
・ヤマハスポーツプラザ(旧称YSP)/YOU SHOP(主にスクーターやビジネスバイクを扱う)
・Honda Dream(ホンダ車の全排気量)/Honda Commuter(250cc以下)
・スズキワールド
・カワサキプラザ(401cc以上はプラザ店専売/カワサキ正規取扱店は400ccまで)
メーカー子会社の直営店もあれば、地域のバイクショップもあります。
たとえば、たんにHONDAのバイクを販売している場合だけだと、HONDAのディーラーとは限らないです。
正規ディーラーになるには?
特約店契約にあたっては、メーカーの定める条件をクリアする必要があります。
たとえばショップの敷地や、売り場の面積、整備スペースの面積、工具や設備が決められていたりですね。あとは他メーカーのバイクを扱ってもいいとか、扱ってはいけないとか、いろいろ制約があります。
いくつものハードルを乗り越えて、やっと正規ディーラーの看板を掲げることができるわけです。
ただ、これで終わりではありません。
契約ハラスメント
毎年、特約店契約の更新があります。
つまり「更新されない」ケースもあるわけです。
具体的に言うと、12月に来年度の更新の有無が、メーカーからディーラーに告知されます。12月に更新しない旨の通知が届いた場合、来年度からはディーラーの看板を下ろさなくてはなりません。
あるいは、メーカー側がなにかと理由をつけて、ディーラーに多額のお金を要求したりします。
たとえば純正部品の買い取りとかですね。
バイクメーカーは全国各地のディーラー(販売店)の売上を管理しています。
どこの販売店の売上がいくらあるか、把握しています。
で、年間売上も把握していますから、来年度の契約を更新するにあたってディーラーに対して「この条件をのまないと更新できません」みたいな事を言うわけです。
ディーラーとしては、商売を続ける以上、無理難題でも条件をのむしかないですよね。
ところが、そうやって何十年もメーカーに言われるがままに協力してきたディーラーでも、あっさり契約を解除します。その結果、廃業したショップは筆者が知るだけで複数あります。
メーカーの思惑と問題点
メーカーとしては、できるだけ自社の営業人員を減らしたいという思惑があります。
そのためには数多くの販売店を抱えるよりも、各地域に売上成績のいい店舗があれば十分。
つまり販売拠点を集約した方が効率的なわけです。
こうした背景があるいっぽう、
メーカーの上層部と親密な関係にあるショップは、売上面や、店舗の面積など特約店契約の条件がかなり緩かったり、バイクの卸値がほかの販売店よりも好条件だったりします。
(バイクの卸値も優遇されています)
ただ、これはあくまで一時的な話。
上層部の知り合いが定年退職したり、人員配置換えされた途端、更新の条件が厳しくなるそうです。
ディーラーはタダ働き同然
リコールや、サービスキャンペーンが発生すると、ディーラーがメーカーの尻ぬぐいをしなくてはなりません。
対応にあたって、作業が発生するとメーカーからディーラーにお金が支払われるのですが、はっきり言ってタダ同然。
売上的に通常業務を優先しないと、経営的に成り立たないぐらい、わずかな金額です。
かといって、断れないため、ディーラーは泣く泣く対応しているのが実情だったりします。
手のひらを返す外車メーカー
実際、とある地域の外車ディーラーが契約更新の際、メーカーに無理難題を吹っかけられて廃業した後、すぐ同じ地域で新しいディーラー(地場の大手会社が運営するバイクショップ)ができたという話があります。
バイク業界これでいいの?
メーカーも慈善事業ではありませんし、生き残りがかかっていますから、リストラ(組織再編、再構築)や、効率化を追求するのは理解できます。
ただ、鶴の一声で特約店契約が解除されてしまうディーラーの立場は、あまりにも弱いですし、フェアじゃないなと言うのが、筆者の印象です。
バイクショップのお金の流れ
収入:作業工賃・バイク販売・部品販売、保険手数料など
支出:地代家賃・光熱費・租税・保険料・通信費・人件費、部品代・油脂類その他
新車販売は多くの人が考えるほど、ディーラーにとって利益がありません。
1980年代後半(バブル時代)のように、1週間でバイクが何十台、何百台も売れる時代なら話は別ですが、販売メインでやっていけるショップはせいぜい、中規模・大手ぐらいではないでしょうか。
作業工賃の裏話
販売以外で言うと、工賃が発生する作業です。
修理や、消耗品の販売・交換、車検などですね。
一般的に作業は数をこなすのに限界があります。バイク販売みたいに「薄利多売」ができないんですね。
さらにいうと、実際にかかった時間をそのままま、お客さんに請求するショップばかりではないため、実際は作業に3時間かかっても、請求金額は1時間という場合もあります。
つまり、ショップは2時間分の利益を失っている(マイナス)なわけです。
にもかかわらず、バイク業界は工賃が安い。
当然、ショップ側の利益も少なくなり、従業員の給料も少なくなる傾向があります。そのため、整備士を続けたくても将来性・収入面を考えると、辞めざるをえないケースが多いです。
(楽器のリペアも同じような状況のようです)
お客の立場から見ても、スタッフの入れ替わりが激しいと、そのショップを利用しにくくなりますね。
個人的には、工賃に対する考え方をショップ側も、消費者側もアップデートする必要があると思います。
バイクの整備・修理って、だれがやっても同じ作業じゃなくて、技術職ですからね。
・工具の損耗
・油脂類などケミカル品
これらの費用は当然、発生するものなので工賃に加味しないといけないですし、技術力(技術習得に費やした時間、労力、お金)に対して、個々で工賃を設定すればいいと思います。
美容師さんでも、新人とキャリアのある人だと、料金がちがって当然ですね。
基本的に技術職って、腕が上昇するものなので、料金が上がることはあっても、安くなることはあり得ないと思っています。
それに「急ぎなら特急料金がかかる」というのは、どの業界でも常識ですが、バイク業界はなぜか、不思議と別料金で設定しているショップは少ない気がします。
本記事では、おもに経営的な観点でバイクショップを考察しました。
ショップは、メーカーだけじゃなく、安さだけを求める消費者や、無理難題をふっかけるサイコパスなクレーマーの対応も迫られます。
まっとうにやってるショップに対しては、筆者はもはや「続けてくれてありがとう」の心境です。