燃料による違いや、標高差、オイルによる燃焼の違いなど、プロを交えて検証した結果をシェアします。
一般的なキャブレターの話は、ほかの記事で解説していますし、検索すればたくさん情報が出てくると思うので、今回は2ストでよくある疑問・議論にフォーカスしてお伝えします。
プロが教えるキャブセッティングのマインドセット
マインドセット:直訳すると、心構え。考え方のこと。
キャブセッティングでは、理論上は「プラグがきつね色になるのが良い」と言われています。
自分でキャブレターをセッティングする場合、メインジェットなどを交換しては走行し、プラグを外して、焼け具合を確認する・・・
を繰り返した経験がある方もいると思います。
ところがプロの実務を注意深く見ていると、根本的な考え方からして、アマチュアとは違うんだなと実感しました。
たとえば、排気量無制限のエンデューロレースにDT50で出場して、優勝した某有名ライダーの担当メカニック(自身も元国際A級オフロードレーサー)いわく
国際A級レベルのモトクロスレーサー、エンデューロレーサーだと、早くアクセルを開けたいから、濃いセッティングを好むライダーもいる
だそうです。
公道でもアクセルをどれくらい開けて走るか、乗り方や常用回転域はライダーによって違いますね。
(標高、気温、湿度も関係してきます)
つまり最適なセッティングは、ライダーや目的によって異なるという事です。
とくに公道用バイクの場合、エンジンのコンディションなど、個体差のバラツキが大きいため、なおさらです。
モトクロス レースにおける2ストオイルの使い方
さきほど紹介したメカニックは、潤滑油メーカーの依頼で400〜500以上ものエンジンオイルをテストされています。
「キャブセッティングで詰め切れない部分を、2ストオイルでおぎなう」
という位置づけだそうです。
たとえば、筆者が公道を走った時の話ですが、夏場の気温35℃以上での渋滞走行や、標高が高い場所を低速で走る時に、オイル燃焼のちがいによるアクセレーションの違いを実感しました。
LEO120で実験したところ、カストロールでは、スロットル開け始めにもたつきます。
スロットルを開けて加速するまで、わずかにタイムラグがあるんですね。
ところがモトレックスのオイルだと、もたつきがなくて、瞬時に加速します。
ほかには、標高が高い場所で、スロットルを開けて加速する時も、同じく燃焼のちがいによる加速感、トルク感のちがいを実感しました。
オイルと標高差のちがいをプラグで比較
使用するエンジンオイルだけではなく、気温や標高によって、燃焼は変わります。
これも、実際に走行してテストしました。
AとBは、エルフのMOTO2 OFF ROADを使用。
Cはホンダ ウルトラGR2。
キャブセッティングは3つとも同じ。プラグは、A・B共通、Cは新品を使用。
使用オイル:MOTO2 OFF ROAD
プロのメカニックによる、キャブレター再調整後のプラグ。
(ニードル、ジェット類の交換なし)
撮影は12月。その後、真冬・春でもプラグの状態は大きく変わらず。
真夏でほんの少し、くすぶり気味になる程度。(プラグB)
実際の乗り味は、国際A級ライダー仕様?なので、調整前とアクセルのツキが別物。キビキビ走るようになった反面、より繊細なアクセルワークや、正確なブレーキ操作、ドライビングが求められます。
現在の筆者にとっては楽しい仕様ですが、免許取得したばかりの頃に乗ったら、危なくて乗れないと思います。
もう少し濃くしたほうが、初心者には乗りやすくなるでしょうね。
キャブセッティングで調子が良くなるとエンジンが壊れる
公道走行でキャブセッティングを詰めていくと、エンジン焼き付きのリスクが高まる場合があります。
とくに、エンジンが完調ではない場合です。
完調ではないエンジン→キャブセッティングを詰める→より回るようになる→エンジンが焼き付く
こうした隠れたリスクがあるにも関わらず、エンジンの状態を無視して、理論上のベストセッティング(プラグがきつね色になる状態)を出すのは、かなり危険だと思うし、エンジンが壊れたら割に合わないと思います。
(エンジンの状態が悪いとセッティングを出すこと自体、困難ですが)
調子が良くなる=メリットばかりではない、という事は知っておいた方がいいと思います。
標準プラグか? イリジウムか?
昔から議論されていることですが、バイク製造メーカーの指定に従うのが原則です。
熱価
プラグの熱価は、高すぎても低すぎても不調や、エンジン焼き付きなどトラブルを招きます。
例)
低速走行 XXXXES7 熱型(ホットタイプ)
高速走行 XXXXES8 冷え型(コールドタイプ)
数字は熱の逃げやすさを示していて、数字が高くなるほど冷えやすくなります。標準プラグは熱型。冷え型はスポーツ走行など、エンジンが高熱になる環境で使用します。
バイク製造メーカー推奨の範囲で、プラグの番手を変えるのはまだいいです。
危険なのは、たとえば「7番でプラグがかぶるから、6番にしよう」熱価を下げるケース。メーカー推奨より低い熱価のプラグを使用すると、ピストンが溶けることがあります。
例:「6番でもまだかぶるから、5番にしてみよう」
もし、エンジンや点火系統が正常で、メーカー推奨の範囲でプラグの番手を下げてもかぶる場合、
・自分の走り方とセッティングのミスマッチ
・エンジンオイル(メーカー推奨オイルが競技用を前提としていて、公道を走る場合、かぶりやすくなるかも)
を疑ったほうがいいと思います。
「そもそも、どうしてプラグが、かぶるのか?」
根本的な理由を考えないと、プラグ交換だけで劇的に状況が改善されることは、ほぼ期待できないからです。
プラグの種類
諸説ありますが、2ストで公道を走る場合、標準プラグの使用が現実的だと実感しています。
ハスクバーナ、KTMなど現行2ストローク車は「イリジウムプラグ」が推奨だそうですが、山を走るとか、2ストロークに乗り慣れていないと、かぶらせてしまうと思います。
逆に言うと、
エンジンを高回転で多用するシチュエーション以外だと、あまりイリジウムプラグの恩恵は得られないと思います。さきほどのメカニック(元国際A級オフロードレーサー)も同意見でした。
1本数百円の標準プラグも、数千円のプラグも、かぶるときはかぶります。
「数千円のプラグだから、かぶっても性能が元に戻る」だったらいいですが、それはないですよね。
よほど特別な理由がないかぎり、標準プラグで、適切な熱価のものを使用すればいいと思います。
レギュラーか? ハイオクか?
令和になってもまだこの論争が続いているようなので、あらためて書くことにしました。
まず、興味深い研究結果があります。
「エンジンを汚さない要因はオイル? それとも燃料?」
ある日本の科学者が2ストエンジンで実験したところ、エンジンにカーボンが蓄積する一番の決定打は、使っているエンジンオイルだったそうです。
レギュラーとハイオクなど、オクタン値の違いはそれほど大きな差はありません。(出典)
ガソリンの基礎知識
レギュラーガソリンとハイオクの違い
JIS規格でオクタン値が規定されていて、レギュラーガソリン89.0以上、ハイオク96.0以上という違いがあります。
オクタン値とは?
ノッキングのしにくさ(アンチノック性)を示す数値です。
ハイオクとレギュラーガソリンのオクタン値を比較した場合、ハイオクのほうが燃えにくい(アンチノック性能が高い)と言われています。
燃料とキャブセッティングの関係
これが原則です。
私自身、2スト・4ストの両方で複数回テストしましたが、レギュラー車にハイオクを入れると、決まって濃くなり、かぶる傾向にありました。
(2ストスクーターはプラグが濡れて走行不能になりました。レギュラーに交換すると元どおり復活)
とくべつな理由がある場合を除いて、レギュラー指定のエンジンにハイオクを入れたり、ハイオク指定のエンジンに、レギュラーガソリンを入れたりしないほうが賢明です。
やぶ蛇になるリスクのほうが大きい、と実感しています。
ハイオクガソリンは名ばかり GS業界のウソ
2020年6月27日の毎日新聞で「石油元売り3位のコスモ石油が販売しているハイオク スーパーマグナムが、実際にはエンジンの汚れを取り除く添加剤が入っていないにも関わらず、10年以上、『使い続けるほどエンジンをきれいにしてくれる』と虚偽の性能を公式サイトに掲載していた」と報道されました。さらにキグナス、コスモ石油、エネオス、出光、昭和シェル石油など、石油元売り5社がそれぞれ販売するハイオクは、ガソリンスタンドに出荷する前に、他社製品と混ぜられていることも判明しました。
【バイクで検証】ガソリン添加剤の効果 3万kmテストした結果
今はなき昭和シェルの「Shell V-Power」だけが本物であり、それなりに効果があったと言われています。
2ストは低速で走るとかぶる? かぶらない?
「公道用2ストロークバイク」で走る時の、車種による違いについて。
エンジンにきちんと圧縮があって、キャブセッティングが正常な状態、改造などがされていない場合の話です。
市街地を走る場合、40km/hぐらいの走行を余儀なくされる事がありますね。で、サイレンサーからオイルが垂れたり、かぶり気味になる事があります。
すると、
「ノーマルで、バイクに異常がなければ、かぶらないはずだ」
という意見があったりします。
理屈で考えると正しいですが、実際は少しちがいます。
じつは2ストの場合、メーカー出荷状態で、かぶりやすい車種があります。比較的、有名なのがホンダのMVX250F(1983年 水冷2ストV型3気筒)です。
メーカーが焼きつきを恐れて、オイルの吐出量を増やした結果、煙は多いし、オイルは垂れる、かぶりやすい「仕様」になってしまいました。
煙の多さで苦情が来たり、オイルの吐出量を減らした結果、潤滑不足で焼きつきが発生したり、ライダーも、バイク販売店も、頭を悩ませることになりました。
ゆるすぎる?時代だった80年代
こんな逸話もあります。
カワサキのKR250(1984年 水冷2スト2気筒)も、かぶりやすい車種の一つです。
というのは、富士スピードウェイで、テストライダーのK氏が全開走行。
それに合わせたセッティングで販売したため、公道を走ると、かぶりやすくなってしまいました。
あるバイクショップがメーカーに指摘すると、「いいんです。もうすぐ次のモデルが発売されますから」という返事がかえってきたそうです。
RG500ガンマ・RZV500R・NS400の比較
余談です。
スズキのRG500Γ(1985年 水冷2スト スクエア4気筒)は、生粋のファクトリーレーサーレプリカとして、サーキット走行を前提に開発されたマシン。
発売当時、テスト走行をおこなったロードレース国際A級ライダーいわく、RZV500RやNS400と比較して、公道ではかぶりやすかったようです。
前出のライダーいわく「RZVは高速走行でフロントが振られる」とのこと。
といっても公道で、一般のライダーがそれを感じる事はないと思います。
全体的にバランスがとれていたのはNS400(水冷V型3気筒)だったそうです。
1980年代半ばには、鈴鹿8耐にエントリーしていたマシンでもあります。
ロスマンズカラーが格好いいので、筆者がRZVを購入する際、けっこう迷いました。「500ccのV4」にこだわった結果、RZVにしましたが。
メーカー各社による考え方、方向性のちがい
スズキは生粋のワークスレプリカを志向し、ヤマハは「V型4気筒の市販車を発売する」(世界初)ことにこだわった。
NSはレプリカとしての再現度も、排気量も中途半端だったせいか、ガンマやRZVと比較して、セールス的にもっとも不発に終わった、と言われています。
<再現度>
ワークスマシンNS500と同じV型3気筒エンジンだったが、NS500は「前1気筒・後ろ2気筒」、対してNS400は「前2気筒・後ろ1気筒」という違いがあった。しかし、再現度を言うならRZVとYZRも異なる部分がいくつもある。
<排気量>
発売当時は、現代のように教習所で大型免許を取得することができず、一発試験(限定解除)のみだった。そのため、NSはメイン市場である中型免許ユーザーに配慮して400ccにした、という説がある。
公式データはありませんが、3車種で比較した場合、もっとも台数が売れたのはRGガンマ。
といっても、いずれも販売価格がかなり高額だったこと、発売時にはすでにレプリカブームが下火になっていた、など所々の事情でRZシリーズや、NSR250Rのような販売台数には至りませんでした。
3車種とも中古車のタマ数が少ないのは、そのためです。
以上、もともとかぶりやすい車種があったり、明らかにオイルの吐出量が多い車種もある、という話でした。
仕様の場合、知識のあるショップでオイルポンプを調整してもらうといいでしょう。
自分でオイルポンプをいじった結果、焼きついた例をいくつも見ているので、よほど確信がないかぎり、自分で調整するのはお勧めしません。
ほかの要素としては、使用するオイルによって、かなり違いが出てきます。
もしよかったら、参考にしてください。
カーボンが溜まりにくい乗り方については、下記の記事で解説しています。
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