バイクのエンジンオーバーホール専門店「有限会社ガレージ湘南」の代表 日向社長にインタビューしてみました。
おそらく外からだと一生、知り得ない話が聞くことができたのでその内容をシェアします。
創業期の和光ケミカルのワコーズ(WAKO’S)オイル開発ライダーを務めていた日向社長。
有限会社ガレージ湘南 代表 日向正篤氏プロフィール
バイクショップを経営する傍ら、鈴鹿8時間耐久ロードレースに15年連続参戦(通算16年)。インドや韓国、公道レースマカオGP、もて耐やSUGO6時間耐久レースなど、国内外のレースに出場。
ヨシムラジャパン創業者「ポップ吉村」こと吉村秀雄氏から直接エンジンチューニングを学び、これまでに手がけたエンジンはバイクだけで1,080基(2020年12月時点)を超える。
バイク雑誌「Mr.Bike BG」の新車テストで試乗したバイク(1980年代後半〜1990年代前半の市販車)は数百台以上。
https://garage-shonan.wixsite.com/info
モチュールやシェルアドバンス、シルコリン、ウインズ、ベリティなど10社以上のオイルをテストしたそうです。
- いろんなメーカーのオイルを実際に使って、印象に残っているオイルはありますか?
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レースの場合、チェッカーを受けるまでエンジンが壊れないことが重要。
だからエンジンが壊れなければ、とりあえずそのオイルは合格という考え方。オイルだけが原因でエンジンが壊れたことがないから、特別に良いオイルはないね。
でも、あるメーカーのオイルは、明らかにエンジンの音が大きくて、ペアライダーと「壊れるんじゃないか」って、ヒヤヒヤしながら走行していたよ。
※筆者注:メーカー名は伏せておきます
「エンジンが壊れないオイルがいいオイル」という考え方は、TSR(テクニカルスポーツレーシング)の過去のインタビューでも語られていました。
(TSR エンジンオイルにとって一番大切なのは壊れないという信頼)
- レースではどういう基準で使用するオイルを選ぶのでしょうか?
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レースの場合、オイルメーカーから依頼されて使用することが多い。
チームやライダーの成績が良ければね。
オイルメーカーが「ウチのオイルを試してほしい」と売り込んでくる。いくらかお金を払うから、ぜひ使ってほしいと。それで使用するケースが多かった。
あとは、自分のレースチームのスポンサーに、関係のあるオイルメーカーが居る場合、そのメーカーのオイルを使う事になるね。
日向社長は1980年代後半から1990年代前半にかけて、雑誌BGでテストライダーを務めたり、記事を書いていた事もあるそうですが、雑誌社にもよく、オイルメーカーから売り込みがあったそうです。
また、こんな話もあります。
レースで勝利しても「エンジンオイルが良かったから勝てた」という事を証明する事は極めて困難だ。
自動車メーカーのエンジニアたちは、自分たちが開発したパーツのおかげで勝利したと主張するだろう。自分たちがやっている事を否定することになりかねないので、「オイルのおかげで勝てた」とは決して認めたがらない。
元 某自動車メーカーのエンジン開発担当者
そもそも、レース活動には多額のお金がかかります。
「サーキット使用料、交通費やガソリン代、タイヤにパーツ。だからエンジンオイルまでお金をかけられないし、そこまでオイルは重要視されていない」
という話もあります。以上の話を踏まえると、
レースで採用されている=宣伝費を払ってバイクメーカーや、レースチームに宣伝してもらっている
レースで実績がある=少なくともエンジンが壊れないオイル
と推定することができます。
ちなみに、日向社長が最終的に選んで現在、使用しているオイルはベリティです。
大人の事情
某有名チームや、有名ライダーをサポートしていたオイルメーカーが代わると、一般的には「あっちのメーカーのほうがいいオイルだから変えたのかな」と思います。
(筆者はそう思っていました)
ところが内部情報を知ると、切り替わったオイルメーカーのほうが「より多く広告宣伝費を払うから」という大人の事情?があったりします笑
まぁ、モータースポーツもビジネスですからね。
あと、ベリティやニューテックなど一部を除いて、レース用オイルと市販オイルは別物だったりします。
なので超有名メーカーのオイルでも、プロの立場からすれば全然ダメなものもあるとか。単純に有名メーカー、高いオイルや、有名なオイル=高性能ではないという点に注意です。
たとえば、リニューアルされて品質が下がった製品もあるそうです。
「メーカー純正オイルがいい」というのも、人間のだれもが持つバイアス(無意識におこなっている10種類以上の偏見)や、擦り込みによる洗脳であって、事実ではなかったりします。
実際のところ、メーカー側もコストダウンとか、いろいろな制約がありますからね。
でも、純正オイルが必ずしもダメかというと、そうは言い切れません。
このあたりの事情は、こちらの記事で話しています。
まだ読んでいない方は、以下の記事から読んでみてください。
「オイルメーカーは自前の研究設備や自動車メーカーとの協同作業で、エンジンにマッチした製品を開発しているが、必ずしもオイルメーカー側がエンジンに精通しているわけではないのが現状」
旧車・空冷・大型バイクにお勧め 熱ダレに強いエンジンオイルと選び方