よく整備されたVT250スパーダに試乗しました。自分用の防備録を兼ねたレポートです。
VT250 SPADAスペック
1988年12月のホンダ広報資料をもとに、主要なカタログスペックを掲載しておきます。
型式:MC20
エンジン:水冷4サイクル DOHC 4バルブ V型2気筒
最大出力:40ps/12,000rpm
最大トルク:2.6kg-m/9,000rpm
始動方式:セルフ式
点火方式:フルトランジスタ式
燃料タンク容量:11リットル
燃費:49.7km/リットル(50km/h定地走行テスト値)
エンジンオイル
全容量:2.5リットル
交換時:1.9リットル
フィルター交換時:2.0リットル
推奨エンジンオイル粘度:10W-30
スパークプラグ:CR8EH-9 5666(NGK)
変速機:6速リターン
シート高:740mm
車両重量153kg
タイヤサイズ前:100/80-17 52S
タイヤサイズ後:140/70-17 66S
タイヤ空気圧
前輪:2.25kg/㎠ 後輪:2.25kg/㎠(2名乗車時 2.50kg/㎠)
開発コンセプト
スパーダは「街乗りからワインディングまで走る楽しさを充実させる」というコンセプトで開発されました。
2021年の現代では、「なんだ。そんなの当たり前じゃないか」と思うかもしれません。
しかし、1988年はレーサーレプリカ全盛期。
レーサーレプリカとは
バイクメーカーが製作したレーシングマシンをベースに、保安部品を装着し、公道用バイクとして販売した車両のこと。
対して、SS(スーパースポーツ)はレーシングマシンをベースとしないロードスポーツ車を指す。
当時はバイクブーム最盛期(バイク販売台数最多、鈴鹿8耐の観客動員数最多)であり、絶対的な性能や、カタログスペックが重視される風潮でした。
そのような状況のなかで、ある意味ベーシックな、バイクの普遍的な楽しさを追求するという試みは、時代に逆行したチャレンジだったといえます。
実際、時代のニーズとマッチせず、当時のセールス(販売台数)的には今ひとつだったようです。
しかし時代はその後、大きく変わることになります。
1989年「ゼファー400」の登場をきっかけにネイキッドブームが到来。バブル崩壊の影響も後押ししてか、レーサーレプリカブームは下火になっていきました。
2021年現在、スパーダは比較的、中古車の中でも価格帯が安く、大きく値上がりしていないため、免許を取得した若いライダーや、サーキット走行を楽しむ40代、50代のライダーが入手することが多いようです。
ライディングの練習用としても、いいバイクだと思います。
以下、ホンダの広報資料より。
「街乗りでも本当の意味での楽しめるバイクを作りたい」―
これがSPADAの開発にあたっての基本コンセプトでした。現在、様々なバイクがそのカテゴリーに見合った機能を誇り、その求めるシチュエーションでは絶対性能の高さを発揮しますが、ワインディングだけでなく市街地でも快適にスポーツ心を満たせるバイクとなると、今一歩充分とはいえません。
そこでホンダは、常用域での乗り易さ、使い易さを求める人たちに、より一層満足していただけるバイクを作り上げる必要があると考えました。
そこでSPADAは、
(1) スペックに現われる絶対性能の高さよりも、実際の走行で体感できる基本性能の高さとトルクフルな走り味の実現。
(2) シンプルでありながら斬新で飽きのこない、機能美あふれるスタイリング。
(3) スリムで取り回し性のよいジャストサイズボディの実現。
(4) 市街地走行からツーリング・ワインディングまでの乗り易さ、快適性にくわえ、一層きびきびとしたスポーツ性や楽しさを兼ね備えた走行性能。を目指し、その結果、「さりげなく良いものを持ちたい」と考えている人たちにふさわしいスポーツバイクに仕上げました。
基本コンセプトの重視から、250ccの排気量や、取り回しの良さと扱い易さを確保するために4サイクルのVツインエンジンなどを選択。そして、最高馬力を抑えることで、常用域での性能向上を図り、大きな成果を得ました。すなわち、最高速や加速性能など、いわゆるスペックにあらわれる性能よりも、バイクの原点である「乗る楽しさ」にたち帰って、ライダーが一般的なライディングで得られる爽快感や、乗った後の何とも言えない満足感といったスペックを超えた部分での性能の充実を大切にしました。
「走る楽しさ」。これがSPADAの基本スペックです。
https://www.honda.co.jp/factbook/motor/VT250/19881208/002.html
はじめてのVT250 SPADA
筆者自身、じつは、かなり前にスパーダの購入を検討したことがあります。
スペックにこだわらない主義なので、スパーダの開発コンセプトを知った際、「これは楽しいバイクだろうな」と直感したからです。その後、スパーダのリアサスを開発することになり、スパーダオーナーさんに試乗させてもらいました。
試乗させてもらったスパーダは、ハンドルがバーハンドルに交換されていました。
借り物なので、ゆっくり峠道を走った程度でしたが、ちょっと乗っただけで「楽しいバイクだ」と思いました。
よく整備されていた車両ということもありますが、ブレーキもちゃんと利くし、ハンドリングも変な癖がない。エンジンは下からトルクがあるし、扱いやすいバイクという印象。
本当に開発コンセプトどおりでしたね。
カスタムポイント
今回試乗したのは、スパーダ用 YSSリアサスペンションME302を装着したガレージ湘南のデモ車。
もとはお客さんから買い取った車両です。(走行距離11,535km)
YSS製 リアサスペンションME302に交換。
純正サス2.7kgから1.6kgに。0.9kgの軽量化です。
フロントフォークはインナーチューブを再メッキ後、オーバーホールしてあります。
ブレーキは前後、ピストンを揉み出してキャリパー洗浄後、フルード交換。
その後、ブレーキホースをステンレスメッシュホースに交換。代車としても活躍していたため、買い取り時から5,800kmほど、走行距離が伸びました。
今回、試乗にあたってプラグを交換。
買い取った時にプラグを取り外してチェックしましたが、ほぼ状態は変わらず。やや濃い目です。
(もともとセッティングを濃い目にしてトルクを稼いでいる、という事もあるでしょう)
ちなみにタイヤは前後シンコー製SR740(フロント:110/70-17 リア:110/70-17)、オイルはベリティのBIKE FS HR Ver3 10W-40。
上記で紹介した以外は、基本的にノーマルだと思われます。
インプレッション
一般道の市街地をメインに走行したインプレッション。
※高速道路は走行していません
エンジン
じつは、しっかりと250ccで走るのは初めて。
原付→原付2種→大型→400ccと乗ってきて、なぜか250ccに乗る機会がなかった。
だからほかの250ccバイクと比較はできないが、渋滞のノロノロ運転を含めて、低中速からトルク感のあるエンジンはとても扱いやすかった。
またエンジンとは少し違うが、ミッションのシフトタッチが非常に良かった。エンジンオイル自体はそろそろ5,000kmを超える頃だと思うが、終始、新車みたいなシフトフィーリングだったからだ。
(筆者のCB150Tや、LEO120はトランスミッションにかなり癖があるため、少し感動してしまった)
市街地走行
高回転・高出力のエンジンだと、どうしても市街地でありがちな極低速・低速走行がしづらかったり、エンストしやすい場合がある。
(とくに現代のミドルクラスや、リッタースーパースポーツ車)
ところがスパーダは、メーカーの開発コンセプトどおりというか、そういった神経質な部分がない。
回転数を気にせず発進できるし、パワーバンドを意識せずとも、街中を流すには十分。クラッチも、125ccクラスと比較して、ほぼ変わらないぐらいに軽いため、手が疲れることはなかった。
いざスロットルを開けて加速すると、高回転までスムーズにまわるエンジンは、2ストや大型バイクのように、身体が持っていかれるような、急激な加速感こそないものの、ふと気がつくと、高回転まで回っている。
どこまでもスムーズで、扱いやすい。
サウンド
ノーマルマフラーという事もあるが、昨今、世の中の目が厳しくなっている騒音については、エンジン・排気音ともに静かな部類だと思う。
個人的には、エンジン音自体が静かなので、せめてサイレンサーを交換して、もう少しVツインらしいドコドコしたサウンドを楽しみたいところではある。
そういった意味で、ドゥカティのMonster400などと比較すると、ずいぶんとおとなしめのサウンドだ。
余談になるが、一度、レンタルバイクでモンスター400(インジェクションモデル)を借りて、淡路島へツーリングに行ったことがある。
モンスター400は日本の免許制度に合わせてつくられたモデル。
しかし、筆者の体格には合わなかったのか、どうにもポジションがしっくりこなかった。
追い打ちをかけるように、クラッチがCB750(RC42)以上に重く、ストップ&ゴーの多い都市部だと、15分乗れば左手がしびれるほどだった。
「失敗したかな」と思ったが、それ以上にエンジンは、サウンド・フィーリングともに最高だった。
実際、その後、何回かドカティの購入を検討している。
坂道の登板能力
急な坂道での登板能力については、筆者の想像を上回っていた。
というのも、「250ccは坂道で登らない」インターネットでよく目にしていたからだ。
125ccクラス以下の場合、パワーバンドをキープする走り方が基本になるが、急な坂道だと、パワーバンドをキープしていても、非力感がある。
だからこそ、スパーダ(250cc)で坂道を走るのを、今回の試乗でいちばん楽しみにしていた。
実際に急な坂道を走ると、それほど回転数に気を使わなくても、どんどん加速して登っていくではないか。
結果、良い意味で予想を裏切られた。
(毎回、思う事だが、やはり自分で経験しないとわからないものである)
かぎられたシチュエーションでの感想だが、「静粛でスムーズ、トルクフルで扱いやすいエンジン」という印象。
機会があれば、ワインディングでスポーティーな走りをテストしたいところだ。
オーナーさんのご厚意で、初めてスパーダを借りて走った時は峠道だった。
しかし、前出のとおり、万が一のことを考えて、かなりスローペースで走った。
小排気量や、2ストに乗っていると、パワーバンドをキープをした走り方が習慣になる。スパーダの試乗では、あえてパワーバンドを意識せずに走行することを心がけた。
ブレーキ
ブレーキは、お伝えしたとおり前後ブレーキホースが、ステンレスメッシュ製に交換されている。
キャリパーは前後ともノーマル。
ブレーキパッドは買い取ってから交換していないため、メーカー不明。ブレーキホース交換前もそうだったが、ノーマルブレーキは整備されていれば、よく利くほうだと思う。
そこからさらに、ブレーキレバーを引いた際のダイレクト感が増した、という印象。
(ブレーキが利くまでのレスポンスが速くなった)
コントロール性能は「ブレンボ製4ポットキャリパー+ラジアルマスターシリンダー」におよばないものの、制動力に不足はない。
スパーダ発売当時と比較して、現代はブレーキパッドや、タイヤ性能が向上しているため、公道を走るぶんにはシングルディスクで十分だと思う。
強いて言うなら、純正キャリパー&マスターのまま、メッシュホースにする場合、オイル粘度・油面を調整して、標準よりフロントフォークを硬めにしたい。
ブレーキング時、フロントフォークの沈み込みが急になるからだ。
ポジション
純正でセパレートハンドルが採用されている。
「セパハン」と聞くと、前傾姿勢のつらいイメージがあるかもしれない。
筆者はセパハンに慣れているが、それでも久しぶりに乗るので「ポジション、キツくないかな」と内心、すこし身構えていた。
しかし、スパーダに関しては、そんな心配は無用だった。
現代の250ccクラスSSと比較して、740mmという低めのシート、153kgという軽量な車両重量は、足つき性が良く、取り回しもしやすい。
(それもあってか、MC22と並んでスパーダは女性ライダーも多かったりする)
車重130kg台だと、強風でマシンがあおられることがあるが、スパーダでは気にならなかった。
ハンドルはちょうどいい高さで、シート、バックステップと相まって、ガソリンタンクがホールドしやすい。あらためてポジションを意識しなくても、ちょうどいいライディングポジションになるよう設計されている。
もちろん、人によって体格差はあるが身長160cm台の筆者にとっては、しっくり来るライディングポジションだった。
「数十キロていどの走行」、「下半身でホールドして乗る」という前提でいうと、疲れにくいセパハンだと思う。
(後日、1時間半ほど乗り続けてみたが、とくに疲労は感じなかった)
250ccクラスのシート高 比較
足つき性は車体の幅や、重心、シートの厚みやシート幅の太い・細い、サスペンションも関係するためシート高(数字上)だけでは語れないが、近年のスポーツモデルはシートが高い。
またがると腰高な印象だ。
1988年 VT250スパーダ:740mm
1990-2000年 CBR250RR MC22:735mm(初期型725mm)
2019年 VTR250:755mm
CBR250RR MC51:790mm
GSX250R ABS:790mm
YZF-R25:780mm
Ninja250:795mm
一般的にノーマルのバイクを運転していて、長距離を走ったわけではないのに腕が疲れる場合、そもそもポジションが合っていないか、腕に余計な力が入っている場合があります。なにが原因か、見直してみましょう。
海外のVTスパーダ カスタム車
アジア諸国でも人気のスパーダ カスタム車。日本人と体格が近いため、乗りやすいのかもしれないですね。
コーナーリング
高速コーナーは走っていないため、中低速コーナーでの話になるが、ハンドリングは安定感があって素直な印象。
初めてスパーダに試乗した時の印象とおおきく変わらない。
カーブ手前でスロットルを戻して、ブレーキング。フロントブレーキのレバーを軽く引いたまま(フロントフォークを沈めた状態のまま)、マシンを倒しこむ。
この時、「ポジション」でお伝えしたように、下半身をホールドして、顔をコーナーの出口に向けていると、すんなりバイクが寝て、旋回してくれる。
(マシンを倒しこむ際、意識して逆ハンドルを切る必要がない)
あえて、路面のギャップの上を走行してみたが、とくにマシンの挙動が大きく乱れることはなかった。
狙ったラインを、すんなりトレースしてくれる。
そして、アクセルを開けてコーナー出口に向かう際も、車体の安定感は少しも損なわれることなく、タイヤのグリップ感をつかむことができる。
安心感のある旋回力
フロントから転びそうな不安感がない。
筆者が2018年モデルのRSV4RFに試乗した際、フロントタイヤのグリップ感がつかめず、戸惑ったのを記憶している。少なくとも、スパーダではそういった不安は感じられなかった。
もともとのスパーダのハンドリング性能もあるだろうが、サスペンションの影響も大きい。一般的にリアサスペンションが抜ける(寿命を迎える)と、タイヤのグリップ力が低くなる。
アクセルを開けた際、リアがアウト側にはらんでしまい、曲がらなくなる。
曲がらないから、よりバイクを寝かせようとする。(当然、転倒リスクが高くなる)
それだけではなく、サスペンションが劣化すると、路面のギャップ(凹凸)で沈む速度、伸びる速度が速くなる。
ダンパー(減衰装置)が劣化するためだ。
コーナーリングで、マシンが寝ている時におおきなギャップを通過すると、極端な話、トランポリンのようにバイクが跳ねる。高速道路だとなおさらだ。
いずれにしても、危険だし、怖い思いをすることに変わりない。
今回の試乗車は、フロントフォークのオーバーホールと、リアサスペンションを交換してから、5,000km以上、走行距離が伸びている。
特別なセッティングをほどこしたわけではないし、タイヤも、ラジアルではなくバイアスタイヤ。
それでも終始、安定感のあるハンドリングだった。
手前みそになるが、専用設計のYSSリアサスの恩恵は少なくないだろう。30年前と、現代のタイヤ性能が劇的にちがうように、リアサスペンションも進化している。